消せる特異点、消せない特異点、手に負えない特異点(孤立特異点の三分類)
正則でない点が 1 つだけぽつんとあるとき、その点は 3 種類のどれかに落ちます。除去可能特異点、極、真性特異点の 3 つ[1]。
見分け方は 2 通りあります。ローラン展開の主要部を数えるか、 の極限がどうなるかを見るか。どちらでも同じ分類になります。
3 つの性格はまるで違う。除去可能なら値を 1 つ決めるだけで正則に戻り、極なら絶対値がまっすぐ発散し、真性特異点では近づく向きしだいで何にでも化けます。
孤立特異点とは
点 が の孤立特異点であるとは、 では正則でないのに、 を抜いた近くの円板 では正則であることを言います。
まわりに仲間がいない、という意味で孤立。 の原点、 の がこれにあたります。
孤立でない特異点もあります。 の原点は分岐点で、まわりを一周すると値が戻らない。 の原点には極が無限に押し寄せます。
以下の分類は、孤立している場合だけの話です。ローラン展開が使えることが前提になります。
主要部で分ける
を抜いた円板でローラン展開し、負の次数の項を数えます。
3 つで尽きています。負の次数の個数は か有限か無限のどれかで、それ以外の場合がないため[4,5]。
除去可能特異点
主要部がなければ、展開はふつうのべき級数です。
右辺は でも意味を持ちます。 と定め直せば、 は を含めて正則になる。
特異点が消えてしまうので、除去可能と呼びます。もともと関数の定義に穴が空いていただけで、性質が悪かったわけではありません。
リーマンの除去可能定理
見た目より弱い条件で判定できます。 の近くで が有界でありさえすればよい。
この 4 つは同値です[2]。いちばん確かめやすい 3 番目を見れば、正則に延ばせるという強い結論まで届く。
証明は を作る流れです。 は で正則になり なので、テイラー展開が 2 次から始まる。 で割れば の展開が出ます。
実関数では、有界だから滑らかに延ばせるという話にはなりません。正則関数の固さがここにも出ています。
例:
で分母が消えますが、分子も消えます。展開すれば主要部がないと分かる。
と定めれば整関数になります。実の解析でも極限が になる、よく知られた形。
例:
分子は です。分母の で割ると負の次数が残りません。
原点での値を とすれば正則です。分母の次数だけを見て 2 位の極と決めると外します。
分子が原点で 2 位の零点を持つので、ちょうど打ち消し合う。約分してから位数を数えるという手順が要ります。
極
主要部が有限項で止まるとき、 は極です。最高の負の次数を位数と呼ぶ。
なら 位の極。位数 の極を単純極と言います。
極では が近づき方によらず成り立ちます。向きを選んでも逃げ道はない。
逆に なら極です。 が の近くで有界になり、リーマンの定理から正則に延ばせて、その零点の位数が の極の位数になります。
位数は が正則に延ばせる最小の としても測れます。 が足りなければ極が残り、余分にとれば零点ができる。
例:位数を数える
の特異点は と です。
では分子が で にならないので、2 位の極。 では分子が なので、1 位の極です。
分子が特異点で になるときだけ位数が下がります。まず値を入れて、消えるかどうかを確かめる。
極と零点は裏表
が で 位の零点を持てば、 は で 位の極を持ちます。逆も成り立つ。
は の近くで正則なので、位数がそのまま移ります。零点の数え方と極の数え方が同じ形になるのはこのため。
が で単純極を持つのも、 の零点がすべて 1 位だからです。
真性特異点
主要部が無限に続くとき、 は真性特異点です。極限は存在せず、絶対値も一方向へ逃げません。
代表例は の原点。展開すると負の次数がいつまでも現れます。
近づく向きで結果が変わります。正の実軸ぞいなら が正の大きな数になって発散し、負の実軸ぞいなら へ落ちる。
虚軸ぞいでは が純虚数になり、絶対値がずっと のまま回り続けます。3 通りの向きで 3 通りの結末。
極なら向きを変えても発散という結論は動きません。真性特異点との差はここに出ます。
カゾラーティ・ワイエルシュトラスの定理
暴れ方には形があります。真性特異点のどんな小さな近傍をとっても、その像は複素平面全体で稠密になる。
つまり、どんな複素数 を選んでも、 のいくらでも近くに が にいくらでも近くなる点があります。
証明は背理法です。ある の近くへ来ないと仮定すると が有界になり、リーマンの定理で正則に延びる。 の極限が なら は極を持ち、 でなければ除去可能となって、どちらも仮定に反します[3]。
ピカールの大定理
稠密よりさらに強い結論があります。真性特異点の近くで、 は高々 1 つの例外を除くすべての複素数値を、無限回とる[3]。
近づくのではなく、実際にその値をとる。しかも 1 回ではなく無限回とります。
の例外値は です。指数関数は にならないので、この 1 つだけが漏れる。
例: がすべての値をとる
でない に対して を解きます。 とおけばよい。
を大きくすると分母が大きくなり、 は へ近づきます。どの近傍にも解が無限個ある。
だけは解がありません。ピカールの言う例外がちょうど 1 つ現れる形です。
極限で分類する
主要部を書き出さずに、極限だけで分類することもできます。
極限が有限の値に収まる
除去可能特異点
絶対値が無限へ発散するなら極、極限がまったく定まらないなら真性特異点です。3 つの場合分けはこれで尽きます。
分類の道具としては極限のほうが速い。留数まで欲しいときは、結局ローラン展開へ戻ることになります。
係数を数えるので、位数も留数も同時に分かる。手数は多い。
近づけて様子を見るだけ。速いが、極の位数までは分からない。
孤立していない特異点
分類の前提は孤立していることでした。外れる例も押さえておきます。
や の原点は分岐点です。原点を一周すると値が別の枝へ移るので、そもそも一価な関数として展開できません。
の原点には、 という極が無限に集まります。どんなに小さな近傍をとっても中に極が入るので、孤立しない。
境界のすべての点が特異点になる例もあります。 は単位円板で正則ですが、円周のどこからも外へ延ばせません。自然境界と呼ばれる状況。
有理型関数
領域の中の特異点が極だけなら、その関数を有理型と言います。真性特異点も分岐点も持たない、という条件。
有理関数、、 が例です。 は原点が真性特異点なので外れます。
有理型関数は という形の商として扱えるので、零点と極を数える議論がそのまま通ります。偏角の原理や留数定理が効くのもこの範囲[6,7]。
よくある誤り
3 つの分類は、主要部という 1 つのものさしから出ています。負の次数がいくつ立っているかを数えるだけで、関数の近くでの振る舞いがそこまで決まってしまう。










