留数定理(穴のまわりで複素積分はいくつになるか)
閉曲線にそう積分は、内側にある特異点の留数を足すだけで求まります。
積分を計算する仕事が、点ごとの係数を読む仕事に変わる。これが留数定理です[1]。
正則関数なら一周して に戻る。これがコーシーの積分定理です。留数定理は、戻らないときにいくつずれるかを答えます。ずれを生むのは特異点だけで、その大きさが留数。
留数とは
孤立特異点 のまわりで をローラン展開します。
無限にある係数のなかで、この 1 つだけが特別扱いされる理由は積分にあります。 を囲む円で を一周積分すると、 のときだけ値が残る。
が 以外の整数なら、同じ積分は です。 なら原始関数があり、 でも という原始関数が作れるため。
だから級数を項別に積分すると、 の項だけが を掛けた形で生き残ります。積分値が係数 1 つで決まるのはこのため[6]。
留数定理の形
が閉曲線 の内部で、有限個の孤立特異点 を除いて正則だとします。 上には特異点がないものとする。
このとき冒頭の等式が成り立ちます。証明は、各特異点を小さな円で囲んで積分路を分けるだけ。
と小円たちにはさまれた領域には特異点がないので、そこではコーシーの積分定理が効きます。 にそう積分が、小円にそう積分の和に等しくなる。
経路が特異点のまわりを何周もするときは、回った数を掛けます。
は回転数で、反時計回りに 1 周なら 、囲まなければ 、時計回りなら負になります[3]。
例: の一周積分
のローラン展開は そのものです。 なので留数は 。
パラメータ表示して計算した値と一致します。展開を書き下すまでもない例ですが、留数がどこから来るかは見えます。
1 位の極の留数
多くの場合、展開を全部書かずに留数だけをとり出せます。 が 1 位の極なら次の極限で出る。
を掛けると主要部が消え、残った関数の での値が になります。
の形で 、 なら、もっと短い式が使えます。
と展開して、上の極限に入れただけの式です。分母を因数分解しなくてよいので、実際の計算ではこちらが速い[1]。
例: の留数
分母は で になり、どちらも 1 位の極です。、 を使います。
では です。2 つを足すと になる。
だから の円にそう積分は です。特異点を 2 つとも囲んでいるのに値が消えるので、留数の符号まで見る必要があります。
位の極の留数
位の極では、掛けてから微分します。
を掛けると主要部が多項式に変わり、 は の係数へ移ります。テイラー係数をとり出す操作が 回の微分と階乗。
位数を大きく見積もっても結果は変わりません。ただし微分の回数が増えるので、手計算では損をします。
例: の留数
は 3 位の極です。公式どおりなら を掛けて 2 回微分し、 で割る。
展開から読んでも同じです。 を で割ると、 の係数が になる。
指数関数や三角関数が絡むときは、展開して係数を読むほうが速いことが多い。
例: の留数
は で 1 位の極を持ちます。商の公式を当てる。
どの極でも留数が です。 なら、整数点すべてで留数が になる。
この一様さが、あとで級数の和を出すときに効きます。
真性特異点の留数
真性特異点でも留数は定義できます。主要部が無限に続くだけで、 は 1 つに決まる。
極の公式は使えません。 を掛けても主要部が消えないので、展開を書いて係数を読むことになります。
例: の留数
の展開に を入れます。
の係数は なので留数は 、単位円にそう積分は です。
主要部が無限に続くので原点は真性特異点。それでも積分値は係数 1 つで決まります。
実積分への応用
留数定理の使いどころは、実の積分です。実軸上の積分を複素平面の閉曲線の一部と見て、残りの部分の寄与を消す。
有理関数なら、上半平面の半円で閉じる形が定石です。
円弧の寄与が消える理由は長さによる評価です。分母の次数が分子より 以上大きければ、 は の程度、弧長は なので、積は で へ落ちる。
例: の広義積分
上半平面の極は だけで、留数は でした。
原始関数が だと知っていれば直接出る積分ですが、答えの一致は確かめられます。
例: の広義積分
分母の は と で上半平面の極を持ちます。どちらも 1 位。
商の公式から、極 での留数は です。
これに を掛けます。
原始関数を求めようとすると部分分数分解と平方完成が要ります。留数なら極を 2 つ拾うだけ。
三角関数の積分を単位円へ移す
から までの三角関数の積分は、単位円にそう複素積分に書き換えられます。 と置く。
これで実の積分が有理関数の周積分に変わります。あとは単位円の内側の極を拾うだけ[2]。
区間の端が円の同じ点に戻るので、閉曲線としてつじつまが合います。周期関数の積分だから成り立つ書き換え。
例:
置き換えると分母が になります。全体を整理する。
の根は です。単位円の内側にあるのは のほうだけ。
商の公式で留数を出すと になります。
実の計算では半角の置換が要る積分ですが、留数なら根を 1 つ選ぶだけで終わります。
ジョルダンの補題
が掛かった積分では、分母の次数が しか大きくない場合でも円弧の寄与が消えます。
のとき、上半平面で が 以下になる。虚部が大きいところで指数的に小さくなるので、弧の上での減衰が効きます[2]。
これを使えるようにするために、 や はいったん に直してから計算します。最後に実部か虚部をとる。
例:
を考えますが、極が実軸上の にあります。そこで原点を小さな半円で避けた経路をとる。
避けた半円の寄与は、極が 1 位なので留数の 倍になります。半周ぶんだけ拾う形。
被積分関数は で に伸びるので、もともと特異点ではありません。 に直したときだけ極が現れる。
級数の和にも使える
は整数点すべてで留数 の極を持ちます。これに を掛けて大きな正方形で積分する。
正方形を広げると積分は へ行き、留数の和が になります。整数点からの寄与と、原点での寄与が釣り合う。
バーゼル問題の値が、極の並び方から出てきます。三角関数の極が等間隔に並ぶという事情が効いている[3,7]。
よくある誤り
最後の項目は、主値積分として扱う場面で必ず出てきます。避け方を変えると答えも変わるので、経路を先に決めてから計算する。
留数定理は、積分という連続的な操作を、点に張り付いた有限個の数へ落とす仕掛けです。複素解析がほかの分野へ道具として出ていく理由の多くは、この一点にあります。










