原点を止めた写像はどれだけ縮むか?シュワルツの補題が答える
単位円板を自分自身へ写し、原点を動かさない正則関数には、強い制限がかかります。
が で正則、、 という 3 つの条件だけから出る結論です。
原点を止めたまま円板の中で動かせる範囲は、思ったより狭い。どの点も、原点からの距離を伸ばす向きへは動かせません。
さらに等号が 1 か所でも成り立てば、 は回転そのものになります。少し縮めるか、まったく縮めないかの二択で、途中がない[1]。
証明
を作ります。 なので、原点は除去可能特異点。値を と定めれば、 は円板全体で正則です[6]。
半径 の円周の上では、 から次が成り立ちます。
最大値原理から、この評価は の内側でも成り立つ[2,3]。境界で押さえた値が内部を支配します。
を固定して を止めたまま、 を へ近づける。右辺が に収束するので が残ります。
書き直せば です。 での値を見れば も出ます。
等号が成り立つ場合
どこか 1 点で となれば、 です。 の内点で最大をとることになる。
最大値原理から は定数で、その絶対値は 。したがって で、次の形に決まります。
の場合も同じ結論です。 なので、やはり内点で最大をとる。
つまり、少しでも縮める関数はどこでも真に縮め、縮めない関数は回転しかありません。中間がない。
例:
で、円板の中では です。補題の主張と合っています。
なので も成り立つ。等号は成り立たないので、回転ではありません。
原点以外では真に縮んでいます。 の点は へ移り、半分の距離になる。
零点の位数を使う
が原点で 位の零点を持つなら、評価が強くなります。 に同じ議論を当てる。
の例は の場合です。零点の位数が高いほど、原点の近くで強く押さえられる。
条件を外すと崩れる
3 つの条件はどれも要ります。 を外すと結論が成り立たない。
たとえば は円板を円板へ写しますが、 です。 なので、補題の形の不等式は成り立ちません。
円板から円板へという条件も外せません。 は を満たしますが、像が円板をはみ出します。
正則であることも要ります。共役をとる写像は円板を保ちますが、正則でないので補題の外です。
の場合
原点を動かす写像にも、対応する主張があります。原点へ戻す変換をはさむだけ。
とし、 を原点へ送る自己同型 を合成します。
は原点を止めるので、補題がそのまま使えます。書き戻すと次の不等式が出る。
さらに の側も動かせば、2 点についての一般形になります。
シュワルツ・ピックの定理
円板から円板への正則写像は、次の不等式を満たします。
左辺と右辺は同じ形の量で、擬双曲距離と呼ばれます。写像がこの距離を伸ばせない、という主張[1]。
微分の形にも書けます。 を に近づけて極限をとる。
等号が 1 か所でも成り立てば、 は円板の自己同型です。ここでも中間がありません。
ポアンカレ計量
擬双曲距離の背後には、円板に入れた特別な長さの測り方があります。
境界に近いほど、同じ見た目の長さが大きく測られます。境界までの距離は無限大になり、円板が果てのない世界になる。
この計量のもとで、円板の自己同型は距離を保つ変換です。それ以外の正則写像は距離を縮める。シュワルツ・ピックの定理は、そういう主張として読めます。
測地線、つまり最短経路は、直径か、単位円に直交する円弧になります。ユークリッド幾何とは違う平行線の様子が現れる。
円板の自己同型
シュワルツの補題から、円板の自己同型がすべて書き下せます。
証明は 2 段階。まず と の両方に補題を当てて、原点を止める自己同型が回転しかないことを示す。
なら 、逆写像にも当てて です。両立するのは等号だけなので、回転に決まります。
一般の場合は をとり、 を合成して原点を止める形に直せばよい。合成が回転なので、上の式が出ます。
自由度は 3 つ[4]。 の実部と虚部、それに回転角です。
リーマンの写像定理の一意性
単連結領域を円板へ写す等角写像は 1 つに決まりません。決めるには条件を足します。
ある点 を原点へ送り、そこでの微分の偏角を指定する。この 2 つで一意になります。
証明はシュワルツの補題から。2 つの写像 と が同じ条件を満たすなら、 が円板の自己同型で、原点を止め、微分が正の実数になる。
補題より は回転で、回転角は [5]。したがって は恒等写像で、 です。
不動点が 2 つあれば恒等写像
円板から円板への正則写像が、自己同型でないとします。このとき不動点は高々 1 つ。
2 つの不動点 、 があるとすると、シュワルツ・ピックの不等式で等号が成り立ってしまいます。等号なら自己同型なので、仮定に反する。
自己同型の場合も、不動点が 3 つ以上あれば恒等写像です。メビウス変換の固定点が 2 つまでという事実から出ます。
上半平面での形
円板と上半平面はメビウス変換で移り合うので、同じ主張が上半平面でも書けます。
こちらの計量は です。測地線は、実軸に垂直な直線と、実軸に中心を持つ半円になります[7]。
上半平面の自己同型は、係数が実数で行列式が正のメビウス変換。整数に限るとモジュラー群になり、数論とつながります。
応用:有界な関数を評価する
補題は、値の上界を与える道具として使えます。 が で正則、、 とする。
に補題を当てれば です。境界での上界だけから、内部での上界が距離に比例する形で出る。
のときは、 をはさんだ形で評価します。原点での値が分かっていれば、内部の値の動ける範囲が円板として決まる。
この形の評価は、増大度を調べる場面で繰り返し使われます。境界の情報が内部を縛るという、複素解析の基本の姿がここにも出ています。
よくある誤り
と という、ほとんど何も言っていないような条件から、写像の形がここまで縛られます。最大値原理をひとつ当てただけで、円板の幾何そのものが決まってしまう。










