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境界の値から内部を組み立てる〜ポアソン積分公式とディリクレ問題

円板の境界で値を決めると、内部の調和関数が 1 つに決まります。その内部の値を作る式がポアソン積分公式です。

重みにあたる をポアソン核と呼びます[1]。

なら で、円周上の値の単純な平均に戻ります。中心から離れるほど、近い側の境界の値が強く効くようになる。

平均値の性質を、中心以外の点まで広げた式だと読めます。重みが付いたぶん、どの点でも使える形になりました。

核の性質

ポアソン核には、重みとして使うための性質がそろっています。

正である。 ならつねに
積分すると になる。
を へ近づけると、 の近くへ集まる
について調和である。 の関数として見ればラプラス方程式を満たす

1 つ目と 2 つ目から、内部の値が境界の値の重み付き平均になります。だから最大値原理がすぐ出る。

3 つ目は近似単位元と呼ばれる性質です[1]。境界へ寄せると、その真下の値だけを拾うようになる。

導出

コーシーの積分公式を 2 回使います。円板で正則な と内部の点 をとる。

次に、 を単位円について裏返した点 を考えます。これは円板の外にあるので、被積分関数が内部で正則になり積分は 。

2 つを引き算し、 とパラメータ表示して整理すると、実部にポアソン核が現れます。

工夫のしどころは、裏返した点を使うところです。境界からの見え方が同じで内部にない点を足すと、実の重みだけが残ります。

境界での様子

境界値 が連続なら、ポアソン積分で作った関数は境界まで連続に延びます。

核が近似単位元なので、内部の点を境界へ寄せると、その真下の境界値へ収束する。近づけ方が接するようでも成り立ちます。

境界値が不連続でも積分は定義できます。跳びのある点だけが例外になり、そこでは近づく向きしだいで極限が変わる。

有界な可測関数を境界値にとると、ほとんどすべての境界点で、法線方向からの極限が境界値に一致します。

調和測度

境界の一部で 、残りで という値を与えたときの解を、その部分の調和測度と呼びます。

内部の点から見て、その部分がどれくらいの重みを持つかを測る量です。中心での値は、弧の長さを全周で割った比。

上半平面では、線分の調和測度が見込む角で書けます。

これは点 から線分 を見込む角を で割った値です。幾何的な意味がそのまま出る[2,3]。

一般の境界値は、調和測度で積分した形になります。ポアソン積分は、その測度が核で書ける場合にあたる。

シュワルツの公式

実部だけから正則関数を復元する式もあります。

分数の実部がポアソン核そのものです。虚部を足したぶんが、共役調和関数を作っている。

は実の定数で、これだけが自由に残ります。実部を決めても虚部が定数だけずれる、という事情がこの [6]。

ヘルグロッツの表現

境界値が関数でなく測度でも、同じ形の積分が意味を持ちます。

円板で正の調和関数は、境界上の正の測度のポアソン積分としてただ一通りに書けます。ヘルグロッツの定理と呼ばれる結果。

境界値が存在しない場合も含みます。境界の 1 点に質量を集めた測度をとれば、その点だけで発散する正の調和関数が作れる。

正であることが効いています。符号が変わる関数では、この形の表現は一般に成り立ちません。

ハルナックの不等式

核の値を上下から押さえると、正の調和関数についての評価が出ます。

導出は簡単です。 の分母は と の間にあるので、核が と の間に収まる[4]。

正の値に核を掛けて積分するので、不等式がそのまま積分にも移ります。中心での値が分かれば、内部の値がその定数倍の範囲に決まる。

境界へ寄るほど幅が広がります。中心の近くでは、値がほとんど動けない。

系として、単調に増える調和関数の列は、どこかで発散するか全体で調和関数へ収束するかのどちらか、という主張が出ます。ハルナックの定理と呼ばれる形です。

上半平面の場合

円板を上半平面へ移すと、核の形が変わります。

境界は実軸で、 が境界からの高さ。 を へ近づけると、原点に集まる山になります。

確率でいえばコーシー分布の密度です。裾が重いので、遠くの境界値も効き続ける。

円板の場合と違い、無限遠での条件を付けないと一意になりません。ふつうは有界という条件を足します。

ディリクレ問題の一意性

境界値を決めたときに解が 1 つに決まることは、最大値原理から出ます。

2 つの解の差は、境界で の調和関数です。最大も最小も境界でとるので、内部でも [5]。

存在のほうをポアソン積分が与え、一意性を最大値原理が与える。2 つ合わせて、境界値問題が意味を持ちます。

使いどころ

定常状態の温度分布を求める問題が、そのままこの形です。境界の温度を与えれば、内部の温度が積分で書ける。

静電場でも同じ。導体の表面の電位を決めると、内部の電位が決まります。

等角写像と組み合わせると、円板以外の領域でも解けます。領域を円板へ写し、そこでポアソン積分を使い、写像で戻す[7]。

よくある誤り

核の は内部の点の位置です。境界の変数ではありません
分母は 。符号を間違えると核が負になります
境界値が不連続な点では、近づく向きで極限が変わります
上半平面では無限遠での条件が要ります。有界性などを足さないと一意になりません
ハルナックの不等式には正であることが要ります。符号が変わる関数には使えない
シュワルツの公式では、虚部の定数だけが自由に残ります
調和測度は境界の長さそのものではありません。見る点によって重みが変わります
ヘルグロッツの表現は正の調和関数についての主張です

境界の値を並べて、重みを掛けて足す。それだけで内部がすべて決まります。境界が内部を支配するという複素解析の性格が、いちばん素朴な形で式になったものです。

参考文献

Poisson kernel - Wikipedia
Harmonic function - Wikipedia
Fonction harmonique - Wikipédia(フランス語)
Harnack's inequality - Wikipedia
Maximum modulus principle - Wikipedia
Cauchy's integral formula - Wikipedia
Conformal map - Wikipedia
中心での値が円周の平均になる、という性質を中心以外へ広げると重みが要ります。その重みがポアソン核。中心から離れるほど近い側の境界だけを強く見るようになる様子から始め、円について裏返した点を足して二つの積分の差をとる導出をたどります。境界の一部だけを 1 にしたときの調和測度、実部から正則関数を戻すシュワルツの公式、正の調和関数を測度で表すヘルグロッツの定理、中心の値から離れられる幅を決めるハルナックの不等式へ。上半平面版ではコーシー分布の密度が核になり、無限遠での条件が別に要ります。