リーマンゼータ関数と素数……オイラー積から関数等式、臨界線と未解決の予想へ
自然数のべきの逆数を足し上げた級数から始まります。
の実部が より大きいときだけ、この級数は収束します。 では調和級数になって発散する。
それでも は、 を除く複素平面全体へ延びます。延ばした先での零点の位置が、素数の並び方を握っている。
級数の見た目は素朴なのに、そこから素数の分布まで届く。この落差が、ゼータ関数がくり返し語られる理由です[1]。
収束する範囲
なので、 だけが収束を決めます。虚部は各項を回すだけで、大きさを変えない。
なら が収束するので、絶対収束します。 では発散する。
収束する半平面では、級数の和は正則です。項別に微分でき、導関数も同じ半平面で正則になります。
境界の の上では、 を除いて条件収束する点もあります。ただし絶対収束はしません。
オイラー積
素数との橋渡しは、次の積表示がします。
各因子を等比級数に開き、掛け合わせると和が出てきます。 の項がちょうど 1 回ずつ現れるのは、素因数分解が一意だから。
つまりこの等式は、算術の基本定理を解析の言葉で書いたものです[2]。
素数が無限にあること
オイラー積から、素数が無限個あることが出ます。有限個だと仮定してみる。
とすると左辺は発散します。右辺は有限個の因子の積なので、有限の値に近づく。
矛盾するので、素数は無限個。ユークリッドの証明とはまったく別の道筋で、同じ結論に届きます。
さらに強い主張も出ます。 が発散するので、素数は平方数よりずっと密に並んでいる。
解析接続
の外へ延ばす道具はいくつかあります。いちばん短いのは交代級数を使う手。
左辺は で収束します。だから で、 まで延びる。
分母が消える点が気になりますが、 以外では分子も消えるので打ち消し合います。残るのは の 1 位の極だけ。
留数は 。この極が、素数の個数を数えるときの主役になります。
一致の定理から、延ばし方は 1 通りです。どの方法で延ばしても同じ関数になる[7]。
関数等式
と を結ぶ対称性があります。
これで の側まで一気に延びます。右辺は のとき の実部が より大きく、級数が使える。
ガンマ関数を混ぜて整えると、もっときれいな形になります。
は整関数で、 の線について対称です。この線を臨界線と呼びます[3,4]。
自明な零点
関数等式の が、負の偶数で になります。。
これらが自明な零点です。ガンマ関数の極と打ち消し合わない場所に、素直に現れる。
では が有限で が ですが、 が極なので打ち消し合います。。
臨界帯
では、オイラー積から です。各因子が にならず、積が収束するため。
関数等式から、 では自明な零点しかありません。残るのは の帯だけ。
この帯を臨界帯と呼び、そこにある零点を非自明な零点と言います。無限個あることが知られている[5]。
見つかっている零点は、どれもこの形をしています。すべてがそうだ、という予想がリーマン予想です。
臨界線の上を歩く
を動かしながら の値そのものを平面に描くと、原点を通る回数が零点の個数になります。
軌跡が何度も原点をかすめます。ぴったり通る瞬間が零点で、そのたびに回転数が 1 つ増える。
リーマン予想
リーマン予想は、非自明な零点がすべて の上にあるという主張です。1859 年に述べられ、いまも未解決。
数値的には、下から順に何兆個もの零点が線の上にあると確かめられています。それでも証明にはなりません。
が について対称なので、零点は を軸に対称に現れます。予想は、その対を 1 点につぶすという主張。
零点の位置が素数の個数の誤差項を支配するので、予想が正しければ誤差の評価が最良になります。多くの定理が「リーマン予想を仮定すると」という但し書きで並ぶのはこのため。
特殊値
偶数での値は、円周率のべきで書けます。
一般に はベルヌーイ数を使って書けます。オイラーが最初に求めた形。
奇数での値は、まったく事情が違います。 が無理数であることは知られていますが、閉じた式は見つかっていない。
負の整数での値は、関数等式から出ます。
が、すべての自然数の和という文脈で引かれることがあります。もとの級数はそこで発散しており、延ばした先での値だという点を落とさないよう気をつけます。
負の奇数での値は自明な零点なので 。 です。
素数の個数との関係
を微分すると、オイラー積から素数を数える和が出てきます。
は素数のべきのところだけ になる関数です。左辺の極と零点が、右辺の和の振る舞いを決める。
の極が主要項を作り、非自明な零点が誤差項を作ります。これが明示公式と呼ばれる関係。
素数定理は、 の線の上に零点がないことと同値です。零点の位置を追い出す議論が、そのまま素数の分布の議論になります。
零点が臨界線に集まっているほど、この近似の誤差が小さくなる。リーマン予想が素数の並びの話だと言われるのは、この道筋のためです。
積表示
は整関数で、零点がゼータの非自明な零点と一致します。位数が なので、アダマールの因数分解定理が使える[6]。
積は非自明な零点 全体をわたります。ゼータ関数が、零点の位置だけからほぼ復元できるという形。
零点を全部知ることと、素数を全部知ることが、この式で結ばれています。
よくある誤り
級数と素数の積が同じものを表す、というオイラーの発見が出発点でした。そこへ解析接続と関数等式を足すと、零点の位置という 1 点に問題が集約されます。素朴な足し算から始まって、いまも解けていない問いへ届く道筋です。









