円と直線を同じものとして扱う、メビウス変換と一次分数変換
分数の形をした写像が、複素平面のいちばん基本的な変換です。
メビウス変換と呼びます[1]。この 1 つの形の中に、平行移動も回転も拡大も反転も入っている。
いちばん目を引く性質は、円と直線の区別がなくなることです。円は円か直線へ、直線は円か直線へ写ります。直線を無限遠点を通る円だと見なせば、円は円へ写るという 1 本の規則にまとまる。
定義と条件
分母が消えないための条件が です。これが だと、分子と分母が比例して写像が定数につぶれる。
なら分母が定数になり、 という 1 次関数です。回転と拡大と平行移動の合成にあたる。
のときは で分母が消えます。この点を無限遠点へ送り、無限遠点を へ送ると決めれば、リーマン球面の上で全単射になります。
導関数を計算すると、条件の意味がはっきりします。
分子が でないので、導関数はどこでも消えません。だからメビウス変換はいたるところ等角[5]。
行列との対応
係数を並べた行列を考えると、合成が行列の積になります。
2 つの変換を続けて施した結果の係数は、行列の積の成分と一致する。逆変換は逆行列に対応します。
行列全体を定数倍しても写像は変わりません。 を 倍しても分数の値が同じだから。
したがって対応するのは、定数倍を同一視した射影一般線形群です。行列式を に正規化すると、符号の違いだけが残ります[2]。
4 つの基本変換に分ける
のとき、割り算をして形を整理します。
右辺を読むと、次の 4 段階を順に施した形だと分かります。
新しい要素は 2 段目の反転だけです。ほかは学校で習う平面の変換と変わりません。
反転が効いている
は、絶対値を に、偏角を にします。単位円の外と内を入れ替え、そのあと実軸で折り返す操作です。
原点は無限遠点へ、無限遠点は原点へ移ります。この 2 点を交換するところが、平面の中だけでは扱いきれない部分。
円と直線の区別が消えるのも反転のしわざです。原点を通る円は直線になり、原点を通らない円は円のまま移る。
一般の円と直線は、次の 1 本の式でまとめて書けます。
なら円、 なら直線。 を代入すると、 と が入れ替わった同じ形の式になります。だから族全体が保たれる。
3 点で 1 つに決まる
異なる 3 点をどこへ送るかを決めると、メビウス変換がちょうど 1 つに決まります。
自由度が 3 つあることは係数から読めます。4 つの係数のうち定数倍の自由が 1 つ落ちるので、残りは 3 つ。
3 点より少ないと決まらず、4 点だと一般には無理です。4 点目の行き先は、複比という量で縛られます。
複比
4 点から作る次の量が、メビウス変換で変わりません。
3 点を 、、 へ送る変換を作ってみると、複比が不変であることが見えます。
複比が実数になることと、4 点が同一の円か直線の上にあることが同値です。円が円へ写る性質を、この量から導くこともできます[2]。
例:3 点を指定して作る
、、 を 、、 へ送る変換を組み立てます。複比の形をそのまま使う。
で分子が消えて 、 で分母が消えて 、 を入れると になります。
3 点が単位円周上にあるので、単位円は直線へ写ります。実際、像は実軸です。
固定点
を解くと、2 次方程式になります。
恒等写像でなければ、固定点は重複を込めて 2 つ。リーマン球面の上で数えます。
の場合は無限遠点が固定点になり、有限の固定点はもう 1 つだけ。平行移動なら、無限遠点が重複した固定点になります。
4 つの型に分かれる
行列式を に正規化したときの跡 で、変換の型が決まります。
固定点を と へ移して見ると、変換は の形になります。 を乗数と呼ぶ。
なら楕円型で回転、 が正の実数なら双曲型で拡大、どちらでもなければ斜航型で回りながら拡大。放物型は乗数が定義できない別枠です[1]。
例:型を判定する
を調べます。行列は成分が で、行列式は 。
跡は なので、跡の 2 乗は です。したがって放物型。
固定点を求めると から の重解になります。 つに重なるという分類の内容と合っています。
なら行列の成分が で、跡は です。2 乗すると で より大きいので双曲型。固定点は と 。
円板を自分自身へ写す
単位円板を単位円板へ写すメビウス変換は、次の形に限られます。
が原点へ行く点で、 が全体の回し方。 を代入すると になることが直接確かめられます。
この形が、円板の自己同型をすべて尽くします。証明にはシュワルツの補題を使う[6,7]。
を選べば、円板の中のどの点も中心へ持ってこられます。だから円板の中に特別な点はありません。
上半平面と円板をつなぐ
上半平面を単位円板へ写す変換にも、簡単な形があります。
が へ行き、実軸が単位円周へ移ります。実際 が実数なら なので、。
上半平面を自分自身へ写す変換は、係数がすべて実数で のものです。整数に限れば、モジュラー群と呼ばれる群になります。
球面の回転として見る
リーマン球面まで持ち上げると、メビウス変換は球面全体の等角な自己同型です。逆に、球面の自己同型はメビウス変換しかありません[3,4]。
そのうち球面の剛体回転にあたるものは、係数が特別な形をした一群です。回転を平面へ射影して見ると、分数の形に化ける。
球面で考える利点は、無限遠点を特別扱いしなくてよくなることです。 と が対等な 2 点になり、 はそれを入れ替える半回転にすぎない。
例:無限遠点を含む扱い
で を送る先は 、 を送る先は です。平面の中だけでは書けない対応。
では、 だけが固定点です。有限のどの点も動くので、固定点が 1 つに見える。
球面の上では、 が重複した 2 つの固定点として数えられます。放物型という分類は、この数え方の上で意味を持ちます。
よくある誤り
平行移動、回転、拡大、反転。この 4 つを組み合わせるだけで、球面のすべての等角な自己同型が出そろいます。単純な形の中に、これだけの幾何が入っている。










