マイナス次数まで許すとどうなる?ローラン展開と主要部を読む
テイラー展開は正の次数しか使いません。負の次数まで許すと、特異点のまわりでも級数に開けるようになります。
これがローラン展開です[1]。中心 で正則である必要はなく、 を抜いた輪の形の領域で正則でありさえすればよい。
自身は展開の中心でありながら、そこで関数が定義されていなくてもよい。輪の内側を見ないまま、輪の上での振る舞いを級数で書く仕掛けです。
定理の形
が円環領域 で正則であるとします。このとき、その領域のすべての点で冒頭の級数が収束し、 に一致します。
は でもよく、 は無限大でもよい。 なら を抜いた円板、 が無限大なら外側全体が対象になります。
収束は円環の内部で広義一様。コンパクトな部分集合の上で一様に収束するので、項別の積分も微分も許されます[1]。
主要部と正則部
級数を負の次数と非負の次数で切り分けます。
正則部はふつうのべき級数で、 で収束します。主要部は と置けばべき級数になり、 で収束する。
2 つの収束域が重なった部分が円環です。内側からと外側からの制限が同時にかかるので、円板ではなく輪になる。
が 以上になると円環が空になり、級数はどこでも収束しません。輪が残っているかどうかが、展開が意味を持つ条件です。
係数の公式
係数は積分で書けます。 を円環の中にある、 を囲む閉曲線とする。
ならコーシーの導関数公式と同じ形です[7]。負の でも同じ式が通る点が、ローラン展開の便利なところ。
実際の計算でこの積分を使うことは、ほとんどありません。既知の級数を組み合わせるほうが速いためです。公式は理論の側で効きます。
内側と外側の半径は、係数の増え方から決まります。コーシー・アダマールの形で、正の側と負の側の係数列それぞれから上極限をとる[2]。
一意性
円環が決まれば、展開はただ一通りです。どんな方法で作った級数でも、その円環で に一致するならローラン展開そのもの。
証明は係数の公式から出ます。級数を項別に積分すると、 の項だけが残って が復元される。
この一意性のおかげで、幾何級数を組み合わせて作った式をそのまま答えにできます。積分を計算する必要がない理由もここ。
例: を のまわりで
はすでにローラン展開の形をしています。
で、他の係数はすべて です。主要部が 1 項だけの、いちばん短い例。
有効な円環は 。中心を抜いた平面全体で、この式がそのまま成り立ちます。
例: を原点のまわりで
に を入れます。
主要部が無限に続きます。 なので、原点での留数は 。
の級数は全平面で収束するので、この展開は で通用します。
例: を原点のまわりで
を で割るだけ。
主要部は の 1 項で終わり、 の項がありません。したがって留数は です。
主要部の長さは 2 項ぶんに見えて、実際には最高次が の 1 項だけ。奇関数を奇数乗で割ったので、偶数次だけが残ります。
主要部の様子で特異点の種類が決まります。主要部がなければ除去可能、有限項で止まれば極、無限に続けば真性特異点[4,5]。
同じ関数で展開が変わる
中心が同じでも、どの円環をとるかで係数が変わります。ここがテイラー展開といちばん違うところ。
を原点のまわりで考えます。特異点は と なので、円環は と の 2 つ。
内側の円環では、 を で使える形に開きます。
外側では割り方を変えます。 なら が より小さいので、そちらで開ける。
内側の展開には の項があり、外側にはありません。留数を読むときは、原点に接する内側の円環をとります。
例:円環が 3 つに分かれる
を原点のまわりで展開します。特異点は と なので、円環は 3 つ。
部分分数に分けておくと見通しがよくなります。
では両方を のべきに開けます。これは負の次数を持たないふつうのテイラー展開。
では、 だけ開き方を裏返します。
では両方を裏返し、負の次数だけになります。
3 つとも同じ関数を表しているのに、係数はまったく違う。どの円環の話をしているかを先に決めないと、答えが定まりません。
展開の作り方
実際には積分の公式ではなく、幾何級数を組み立てて作ります。手順はいつも同じ。
なら を、 なら を選ぶ。どちらを にとるかだけが分かれ目です。
指数関数や三角関数が混じるときは、既知のテイラー級数に代入してから割ります。 と がその例。
例:極の位数を係数から読む
を原点のまわりで展開します。 を使う。
最高の負の次数が なので、原点は 2 位の極です。分母が だからといって 4 位ではない。
分子が原点で 位の零点を持つぶん、位数が下がっています。位数は約分してから数える。
テイラー展開との関係
主要部が空なら、ローラン展開はテイラー展開そのものです。負の次数の係数がすべて という場合。
このとき は除去可能特異点で、 と定めれば でも正則になります。もともと正則な点なら、はじめから主要部は出ません[3]。
つまりローラン展開はテイラー展開を含んでいる。素直に見れば、負の次数を許した拡張です。
無限遠点での展開
で正則な関数を、無限遠点のまわりで調べることもできます。 と置いて での様子を見る。
での展開に正の次数がなければ、無限遠点は除去可能です。有限個なら極で、その最高次が位数になります。
多項式は無限遠点で極を持ちます。 は正の次数が無限に続くので、無限遠点が真性特異点。
整関数のうち多項式だけが無限遠点でおとなしい、という事情がここに出ています。
留数との関係
留数は そのものです。ローラン展開が求まれば、留数は読むだけで手に入る。
逆に、留数だけが必要なら展開を全部作る必要はありません。極の位数が分かっていれば、掛けて微分する公式のほうが速い[6]。
真性特異点では公式が使えないので、展開に戻ることになります。 の留数を出す道はそれしかない。
よくある誤り
級数を負の側へ伸ばすという一つの工夫で、特異点のまわりまで手が届くようになりました。特異点の分類も、留数の定義も、実積分の計算も、この展開を足場にしています。










