複素対数関数と分枝(多価関数)

実数の対数関数 で定義され、一価関数として振る舞う。しかし複素数に拡張すると、対数関数は本質的に多価関数となる。この多価性を理解し、適切に扱うことが複素解析の重要なテーマだ。

複素対数の定義

に対して、 を満たす の対数と呼ぶ。)と極形式で表すと

が解となる。ところが なので、 の整数倍を加えても は成り立つ。したがって

と無限に多くの値を取る。これが複素対数の多価性である。

主値と分枝

多価性を解消するため、偏角の範囲を制限して一価関数を作る。最も標準的なのは主値対数 で、偏角を -\pi < \arg z \leq \pi に制限する。

ここで は主値偏角と呼ばれる。

分枝(branch)

多価関数から一価関数を切り出したもの。偏角の範囲を決めることで定まる。

分枝切断(branch cut)

分枝を定義するために複素平面に入れる「切れ目」。主値対数では負の実軸が分枝切断となる。

主値対数は負の実軸を除いた領域 で正則となる。負の実軸上では上側と下側で値が だけ不連続にジャンプする。

分枝の選び方

分枝切断の入れ方は一通りではない。原点から無限遠へ伸びる任意の曲線を分枝切断として選べる。たとえば正の実軸を分枝切断とし、偏角を 0 < \arg z < 2\pi に取ることもできる。

問題に応じて適切な分枝を選ぶことが重要だ。積分路が分枝切断を横切らないように設定すれば、被積分関数を一価正則関数として扱える。

リーマン面

多価性をより本質的に理解するには、リーマン面の概念が有効である。複素対数のリーマン面は、複素平面を無限に重ねた螺旋階段のような構造をしている。各「階」が一つの分枝に対応し、分枝切断を越えると隣の階に移る。

一価関数としての扱い

分枝を固定して領域を制限。計算には便利だが、大域的な性質が見えにくい。

リーマン面での扱い

多価性を幾何学的に解消。関数の全体像が把握できるが、抽象度が高い。

複素べき関数への応用

複素対数を用いると、複素べき関数 )を定義できる。

が整数でない場合、 の多価性を引き継いで も多価関数となる。 のときが平方根で、2 つの分枝を持つ。 が無理数や複素数のときは無限に多くの分枝が生じる。