正規族とモンテルの定理(関数の列から収束する部分列を選ぶ話)
関数の列から収束する部分列をとり出せる、という性質を正規性と呼びます。
正確には、族に属するどんな列からも、コンパクト集合の上で一様に収束する部分列がとり出せるとき、その族を正規族と言う。数の世界でいえば有界列から収束部分列がとれる、という話の関数版です。
モンテルの定理は、正規であるための条件を与えます。局所有界でありさえすればよい[1]。
実関数では、有界というだけでは収束部分列がとれません。正則関数では、コーシーの評価式が微分まで押さえてくれるので通ります。
広義一様収束
正規性の定義に出てくる収束は、広義一様収束です。領域の中のどのコンパクト集合の上でも一様、という意味。
領域全体で一様である必要はありません。上の図の は、単位円板全体では一様に へ行かない。境界のすぐ内側に、まだ大きい値が残るためです。
半径 の閉円板に限れば、 で一様に へ行きます。だから の族は円板で広義一様収束する。
この距離のとり方でなら、極限が正則になります。モレラの定理から、一様収束の極限は正則[7]。
モンテルの定理
族 が局所有界とは、どのコンパクト集合 についても が族全体で成り立つことです。 は ごとに決めてよい。
このとき は正規です。逆に、極限に を許さない立場をとれば、正規なら局所有界にもなります。
証明の要は、有界性が導関数の有界性を導くところ。コーシーの評価式を当てます。
は から領域の縁までの距離。族全体で なら、導関数も族全体で押さえられます。
導関数が押さえられれば、値の変化も押さえられる。 が族のすべての要素で同じ定数で成り立ちます。
同程度連続とアスコリ・アルツェラ
族の要素すべてに同じ定数で連続性の評価が付くとき、その族は同程度連続だと言います。
有界かつ同程度連続な連続関数の族は、コンパクト集合の上で正規になる。これがアスコリ・アルツェラの定理です。
証明は対角線論法で進みます。可算個の稠密な点をとり、そこでの値の有界列から収束部分列を選ぶ。番号を順に絞り込み、対角線にそって並べ直すと、すべての点で収束する部分列ができます。
同程度連続性から、点ごとの収束が一様な収束へ格上げされます。モンテルの定理は、この定理に正則関数の性質を足した形[2]。
実関数では、有界だけでは同程度連続になりません。 は有界ですが、傾きが まで大きくなる。正則関数ではコーシーの評価式がそれを許しません。
例:正規でない族
を単位円板で考えます。原点以外のどの点でも値が発散する。
コンパクト集合の上で有界にならないので、モンテルの定理は使えません。正則関数の意味では正規でない。
ただし、極限に を許して球面の値として見ると話が変わります。 は原点を除いて へ広義一様収束するので、有理型関数の族としては正規。
どちらの立場をとるかで、同じ族の正規性が変わります。定義を先に決めておく必要がある。
マルティの定理
球面の立場では、ふつうの導関数のかわりに球面微分を使います。
これは球面上での像の伸び方を測る量です。有理型関数の族が正規であることと、球面微分が局所有界であることが同値になる[2,8]。
で確かめます。ふつうの導関数は で発散しますが、球面微分は次のとおり。
原点から離れた点では を大きくすると へ行きます。原点の近くだけが大きくなるので、原点を含まないコンパクト集合の上では有界。
モンテルの第 2 定理
局所有界という条件を、まったく別の条件に置き換えた形もあります。
族のすべての要素が、同じ 2 つの値 、 を落とすとする。このとき族は正規です。有界性はどこにも仮定しません。
有理型に広げた形がモンテル・カラテオドリの定理。球面の相異なる 3 値を落とす有理型関数の族は正規になります[5]。
証明は、 と を抜いた平面の普遍被覆を使う筋です。族の要素を円板への写像へ持ち上げると、そこで有界になり第 1 定理へ帰着する。
この定理から、ピカールの大定理が導けます。真性特異点のまわりで 2 値を落とすと仮定すると、縮小した族が正規になって矛盾が出る。
ヴィタリの定理
正規性に、収束の情報を少し足すと結論が強くなります。
局所有界な正則関数の列が、集積点を持つ集合の上で各点収束するとする。このとき列全体が広義一様収束します。
部分列だけでなく列そのものが収束する、というところが効きます。証明は一致の定理から。2 つの収束部分列の極限は、集積点を持つ集合の上で一致するので同じ関数です[6]。
例:正規だが 1 つに収束しない族
という定数関数の列は、単位円板で局所有界です。したがって正規。
偶数番目は へ、奇数番目は へ収束します。列そのものは収束しません。
正規性は部分列の存在しか言わない、という点がここに出ています。ヴィタリの定理の条件を満たさないので、列全体の収束は言えません。
リーマンの写像定理への応用
正規族のいちばん有名な使いどころが、リーマンの写像定理の証明です。
領域から単位円板への単射な正則写像で、決めた点を原点へ送るものを全部集める。この族は円板へ写すので局所有界で、モンテルの定理から正規です。
その点での微分の大きさを最大にする要素を探します。上限へ向かう列をとり、正規性から収束部分列を選ぶと、極限が族に属して最大を実現する。
あとは、その極限が全射でなければもっと微分の大きい要素が作れる、と示せば矛盾が出ます。存在の証明が、正規性という 1 つの性質に支えられています[3,4]。
力学系への応用
反復合成の様子を分けるときにも使われます。 を有理関数とし、 を 回合成した族を考える。
この族が正規になる点の集合をファトウ集合、そうでない点の集合をジュリア集合と呼びます。ファトウ集合では近くの点が似た振る舞いをし、ジュリア集合では初期値のわずかな差が大きく開く。
正規かどうかという判定が、そのまま安定と不安定の境目になっています。
境目の集合は、足す数をわずかに変えるだけで形を変えます。正規性が壊れる場所が、そのまま複雑な図形として現れる。
例:単位円板での
なので局所有界です。したがって正規。
実際に へ広義一様収束します。部分列をとるまでもなく、列そのものが収束する例。
の領域では発散します。正則関数の族としては正規でなく、有理型の立場をとれば への収束として正規になります。
極限は正則になる
正規族から選んだ収束部分列の極限は、必ず正則です。一様収束の極限が正則になる、というモレラの定理の系。
導関数の列も、導関数へ広義一様収束します。実関数では成り立たない性質で、複素の側の強みが出るところ。
だから正規族の議論では、極限をとったあとも同じ土俵で話を続けられます。存在証明が回るのはこのおかげ。
よくある誤り
有界であれば部分列がとれる、という数の世界の性質が、正則関数の族へそのまま持ち上がります。コーシーの評価式が微分まで押さえてくれるおかげで、存在証明の道具として使えるようになった。










