同じ 2.00 で結論が分かれる - 母平均の z 検定と t 検定
標本 16 個から統計量 2.00 が出たとします。母分散を知っていれば両側の p 値は 0.0455 で、5% を割るので棄却できます。
母分散を知らない場合、同じ 2.00 でも p 値は 0.0639 です。棄却できません。
データも計算式も同じ。違うのは、割った相手が既知の か、標本から推定した かだけです。
何が変わるのか
母平均 が指定した値 と等しいかを調べます。 を置き、標本平均が からどれだけ離れているかを測る。
離れ具合は、標本平均のばらつきを単位にして測ります。標本平均の標準偏差は です。
問題は を知っているかどうか。知っていればそのまま割れますが、知らなければ標本から推定した で代用することになります。
割る相手が定数。統計量は標準正規分布に従う
割る相手も標本ごとに揺れる。統計量は t 分布に従い、裾が重くなる
代用したぶんの不確かさが、分布の裾に出ます。同じ値でも判定が甘くなるのはそのためです。
z 検定
が既知のとき、次の統計量を使います。
のもとで です。両側 5% なら で棄却します。
実際にはこの状況はまれです。母平均が分からないのに母分散だけ分かっている、という場面は多くありません。
使う場面があるとすれば、長年の測定で装置のばらつきが分かっている工程管理や、比率の検定のように分散が母数から決まる場合です。
t 検定
が未知のとき、標本標準偏差 で置きかえます[1]。
のもとで は自由度 の t 分布に従います[1][2]。自由度が でなく なのは、 の計算で標本平均を 1 つ使っているためです。
棄却の条件は対立仮説の向きで変わります[3]。
| 対立仮説 | 棄却する条件 |
|---|---|
| 絶対値が 超 | |
ここで は自由度 の t 分布の上側 点です。両側では片側ずつ を配るので、境目が外へ動きます。
臨界値がどれだけ甘くなるか
t 分布の臨界値は、いつも正規分布より外側にあります。自由度が小さいほど差が開く。
| 自由度 | 両側 5% の点 | からの超過 |
|---|---|---|
| 4 | 2.7764 | 41.7% |
| 9 | 2.2622 | 15.4% |
| 15 | 2.1314 | 8.7% |
| 29 | 2.0452 | 4.4% |
| 99 | 1.9842 | 1.2% |
自由度 99 なら 1.2% の違いしかありません。標本が 100 個あれば、どちらを使ってもほぼ同じ結論になります。
自由度 4 では 4 割も外側です。小さい標本ほど、母分散を知らないことの代償が大きくなる。
例:内容量が表示どおりか
表示 500 g の袋を 16 個はかったところ、平均 496.2 g、標本標準偏差 6.4 g でした。 で両側検定します。
標準誤差は です。統計量を出します。
自由度は で、両側 5% の点は 2.1314。 なので棄却します。
p 値は 0.0313 です。表示より少ないとまでは言えますが、どれだけ少ないかはこの数字には入っていません。
平均の差は g。判定と一緒にこの値も見る必要があります。
例:境目に落ちる場合
同じ 16 個で平均が 503.2 g、標本標準偏差が 6.4 g だったとします。
t 分布の点 2.1314 に届きません。p 値は 0.0639 で、棄却できない。
ここで母分散が だと分かっていたなら、 を 1.960 と比べることになります。こちらは棄却されます。p 値は 0.0455。
同じ数字が、片方では有意で片方では有意でない。1.96 と 2.13 のあいだの という幅が、 で代用した代償にあたります。
判定が分かれるのは境目の近くだけです。 が 3 を超えていれば、どちらの分布で見ても棄却される。
境目の近くの結果を「有意かどうか」だけで語ると、この の幅に結論が乗ってしまう。
片側にする場合
「表示より少ないか」だけを問うなら片側です。 とします。
自由度 15 の片側 5% の点は 1.7531 で、両側の 2.1314 より内側にあります。同じデータなら棄却しやすい。
例のデータでは片側の p 値が 0.0157 になります。両側の 0.0313 のちょうど半分です。
半分になるのは分布が対称だからで、どの検定でもそうなるわけではありません。
正規性はどこまで要るか
導出は、もとの分布が正規であることを前提にしています[1]。 と の独立性が、正規分布でしか成り立たないためです。
ただし が大きければ、 の分布が正規に近づくので結論はあまり変わりません。小さい標本でこそ、正規性の仮定が効いてきます。
外れ値には弱い。1 つの極端な値が と の両方を動かすので、 の分子と分母が同時にずれます。
2 つの母平均を比べる場合
独立な 2 標本の平均を比べる形もあります。母分散が等しく未知のとき、統計量は自由度 の t 分布に従います[1]。
分散をひとまとめに推定してから使う形です。等分散が成り立たない場合は自由度の計算が変わります。
同じ対象を 2 回はかった対応のあるデータでは、差をとって 1 標本の検定に戻します。差の母平均が かどうかを見る形になる。
標本 25 個、標本標準偏差 、 に対して標本平均が でした。両側 5% で正しい判定はどれですか。
- 、自由度 24 の点 2.064 に届かず棄却できない
- 、 を超えるので棄却できる
- 、棄却できない
母分散を知っているかどうかで、比べる相手が 1.960 から 2.131 へ動く。t 検定と z 検定の違いは、この一点に集約されます。















標準誤差は 10/25=2 なので T=4/2=2.0 です。母分散が未知なので比べる相手は t 分布の点で、自由度 24 では 2.064。1.960 と比べるのは母分散が既知の場合です。