ポアソン分布の期待値と分散|導出と計算例を丁寧に解説
ポアソン分布は、単位あたりの平均回数 だけで決まる離散分布です。確率質量関数は次の形をしています。
期待値も分散も に等しくなります。この記事では、その つを実際に計算で出したうえで、確率の計算例と近似の例を並べます。
確率の総和が 1 になること
まず分布として成り立っていることを確かめます。指数関数のテイラー展開が使えます。
これを総和に代入します。
分母の と は、この等式を成り立たせるために置かれています。どちらを落としても総和が になりません。
分布の形
が小さいと の近くに偏り、大きくなるにつれて山ができて右へ移ります。
<svg viewBox="0 0 460 220" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="48" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">λ が大きくなるほど、山は右へ動いて低く広がります</text>
<line x1="50" y1="180" x2="430" y2="180" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="60,56 78,56 96,118 114,159 132,175 150,179 168,180 186,180 204,180 222,180 240,180 258,180 276,180 294,180 312,180 330,180 348,180 366,180 384,180 402,180 420,180" fill="none" stroke="#7a4fc0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="60,174 78,155 96,131 114,114 132,114 150,127 168,145 186,160 204,170 222,176 240,178 258,179 276,180 294,180 312,180 330,180 348,180 366,180 384,180 402,180 420,180" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="60,180 78,180 96,179 114,177 132,174 150,167 168,159 186,150 204,142 222,138 240,138 258,142 276,148 294,155 312,162 330,168 348,173 366,176 384,178 402,179 420,179" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1.5"></polyline>
<circle cx="60" cy="56" r="2.5" fill="#7a4fc0"></circle>
<circle cx="78" cy="56" r="2.5" fill="#7a4fc0"></circle>
<circle cx="96" cy="118" r="2.5" fill="#7a4fc0"></circle>
<circle cx="114" cy="114" r="2.5" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="132" cy="114" r="2.5" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="222" cy="138" r="2.5" fill="#9a9a9a"></circle>
<circle cx="240" cy="138" r="2.5" fill="#9a9a9a"></circle>
<text x="100" y="50" font-size="11" fill="#7a4fc0">λ = 1</text>
<text x="146" y="104" font-size="11" fill="#1b81e0">λ = 4</text>
<text x="256" y="126" font-size="11" fill="#9a9a9a">λ = 10</text>
<text x="60" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">0</text>
<text x="240" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">10</text>
<text x="420" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">20</text>
<text x="48" y="212" font-size="11" fill="#9a9a9a">点は整数の値で、線は形を追うために結んであります</text>
</svg>以下の例題では、あるコールセンターに 時間あたり平均 件の電話がかかってくるとして、 で考えます。
例題 1:ちょうど 6 件かかってくる確率
時間にちょうど 件の電話がかかってくる確率を求めてください。
解答 1
定義に を代入します。、 です。
を入れます。
およそ です。
例題 2:2 件以下になる確率
時間に 件以下しかかかってこない確率はいくらでしょうか。
解答 2
つの項を足します。 を共通の因子としてくくり出すと計算が楽です。
かっこの中は です。
およそ になります。
期待値の計算
を導きます。定義どおり和を書き、 の項が消えることを使います。
と の が約分されました。 を つ外に出します。
添字を と置き直すと、残った和は です。
総和が になることの計算と、同じ級数を使い回しただけです。
分散の計算
分散は を経由して求めます。ただし のままでは約分できないので、先に の形を計算します。
今度は が つ外に出ます。
ここから が復元できます。
分散の定義に入れます。
期待値と分散が同じ になりました。 を直接扱わず に置き換えるのが、この計算の要点です。
モーメント母関数から出す別解
同じ結果を母関数からも出せます。定義に代入すると、また指数関数の級数が現れます。
まとめると簡単な形になります。
回微分して を入れると期待値、 回で 次モーメントです。
を代入すると 、 です。差を取れば分散が になります。
例題 3:λ = 4 での数値
コールセンターの例で、期待値・分散・標準偏差を求めてください。また、平均から標準偏差の 倍以内に収まる確率も計算してください。
解答 3
を入れるだけです。
平均から 倍以内は 件から 件までです。 項を足し上げます。
正規分布の が だったのに対し、こちらは高めに出ました。離散なので両端の値がまるごと入り、しかも左端が で切れているためです。
平均と分散が等しいという性質
はポアソン分布に特徴的な関係です。データがポアソン分布に従うかどうかの、最初の目安になります。
標本平均と標本分散を計算して、大きく食い違えばポアソン分布では説明できません。分散のほうが大きい場合を過分散といいます。
ただしこれは必要な条件にすぎません。平均と分散が一致しても、ポアソン分布とは限らないことに注意が必要です。
例題 4:過分散のデータ
ある店の来客数を 時間ごとに記録したところ、標本平均が 人、標本分散が でした。ポアソン分布で説明できるか考えてください。
解答 4
ポアソン分布なら、標本平均と標本分散はどちらも の推定値になります。近い値になるはずです。
ところが分散は平均の 倍以上あります。標本のばらつきだけでこの差が出るとは考えにくく、ポアソン分布は当てはまりません。
原因としては、時間帯によって 自体が変わっている、来客がまとまって発生している、といった事情が考えられます。 が変動する状況では、負の二項分布のように分散が平均より大きい分布が使われます。
例題 5:最頻値が 2 つ並ぶ場合
のとき、確率が最大になる を求めてください。
解答 5
隣どうしの比を取ると見通しがよくなります。
この比が より大きい間は確率が増え、 を下回ると減ります。境目は です。
では でちょうど比が になり、 と が等しくなります。
が整数のときは最頻値が つ並びます。整数でなければ を超えない最大の整数が唯一の最頻値です。
時間の単位を変える
は区間の長さに比例します。長さ の区間なら に取り替えて、同じ式を使います。
時間に平均 件なら、 分では平均 件、 分では平均 件です。単位をそろえないまま代入するのが、この分野で最も多い計算ミスです。
例題 6:15 分間に 1 件も来ない確率
分の間に電話が 件もかからない確率を求めてください。
解答 6
分は 時間の 分の なので、 に取り替えます。
およそ です。 時間で見れば しかないのに、 分に区切ると 分の 以上の頻度で起こります。
再生性
独立なポアソン分布どうしを足すと、また ポアソン分布になります。 は足し算です。
証明はモーメント母関数の積です。、 が独立なら次のようになります。
右辺は の母関数です。
例題 7:2 つの窓口の合計
別の窓口には 時間あたり平均 件の電話がかかります。 つの窓口を合わせて 件以下になる確率を求めてください。
解答 7
再生性から、合計は に従います。
かっこの中を足すと約 で、 です。
およそ になります。それぞれの窓口で別々に計算して掛け合わせる必要はありません。
二項分布からの導出
ポアソン分布は二項分布の極限として現れます。、、 とします。
二項分布の確率を書き、 を代入します。
最初の つをまとめます。分子の各因子を で割ると、 に近づく積になります。
残りは指数関数の定義そのものです。
つを掛け合わせると、ポアソン分布の確率が出ます。
を固定したうえでの極限であることに注意してください。まれな事象を多数回試したときの回数、という読み方になります。
例題 8:二項分布のポアソン近似
ある病気の発症率は です。 人のうち 人以上が発症する確率を、ポアソン近似で求めてください。
解答 8
として で近似します。
和を計算すると です。
およそ になります。
二項分布で厳密に計算すると で、近似値との差は しかありません。この設定では近似がほぼ完全に働いています。
<svg viewBox="0 0 460 220" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="48" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">試行回数 20・確率 0.2 の二項分布に、λ = 4 を重ねています</text>
<line x1="50" y1="180" x2="430" y2="180" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<rect x="67" y="174" width="14" height="6" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="95" y="148" width="14" height="32" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="122" y="103" width="14" height="77" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="150" y="64" width="14" height="116" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="178" y="57" width="14" height="123" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="205" y="82" width="14" height="98" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="233" y="119" width="14" height="61" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="261" y="149" width="14" height="31" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="288" y="168" width="14" height="12" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="316" y="176" width="14" height="4" fill="#1b81e0"></rect>
<polyline points="74,170 102,139 129,98 157,70 185,70 212,92 240,121 268,147 295,163 323,173 351,177 378,179 406,180" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></polyline>
<circle cx="74" cy="170" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="102" cy="139" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="129" cy="98" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="157" cy="70" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="185" cy="70" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="212" cy="92" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="240" cy="121" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="268" cy="147" r="2.5" fill="#d0562a"></circle>
<text x="300" y="96" font-size="11" fill="#d0562a">ポアソン分布</text>
<text x="300" y="114" font-size="11" fill="#1b81e0">二項分布</text>
<text x="74" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">0</text>
<text x="185" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">4</text>
<text x="295" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">8</text>
<text x="48" y="212" font-size="11" fill="#9a9a9a">確率 0.2 はまだ大きいので、山の高さがずれています</text>
</svg>近似が効くのは何のおかげか
「 が大きければよい」と言われますが、正確ではありません。 を に固定したまま を変えて、 以下になる確率のずれを比べます。
| 試行回数 | 成功確率 | ずれ |
|---|---|---|
| 20 | 0.5 | 0.0051 |
| 50 | 0.2 | 0.0005 |
| 100 | 0.1 | 0.0001 |
| 1000 | 0.01 | 0.0000 |
が大きくなると差が縮んでいますが、同時に が小さくなっています。効いているのは の小ささのほうです。
上の図は 、 の場合で、 は同じ なのに山の高さがそろっていません。二項分布は上限が で切れていますが、ポアソン分布には上限がないことも違いのひとつです。
λ が大きいときの正規近似
が大きくなると、ポアソン分布は正規分布に近づきます。平均も分散も なので、 で近似します。
<svg viewBox="0 0 460 220" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="48" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">λ = 100 では、正規分布とほとんど重なります</text>
<line x1="50" y1="180" x2="430" y2="180" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="60,179 72,178 84,177 96,174 108,170 120,164 132,157 144,146 156,134 168,120 180,105 192,90 204,77 216,67 228,62 240,60 252,64 264,72 276,83 288,96 300,110 312,123 324,136 336,147 348,156 360,163 372,169 384,173 396,175 408,177 420,178" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="60,179 72,178 84,176 96,173 108,169 120,164 132,156 144,147 156,135 168,122 180,107 192,93 204,80 216,70 228,63 240,60 252,63 264,70 276,80 288,93 300,107 312,122 324,135 336,147 348,156 360,164 372,169 384,173 396,176 408,178 420,179" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5" stroke-dasharray="4 3"></polyline>
<line x1="303" y1="45" x2="303" y2="180" stroke="#7a4fc0" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<text x="309" y="58" font-size="11" fill="#7a4fc0">110.5 で切る</text>
<text x="120" y="88" font-size="11" fill="#1b81e0">ポアソン分布</text>
<text x="330" y="132" font-size="11" fill="#d0562a">正規分布</text>
<text x="60" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">70</text>
<text x="240" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">100</text>
<text x="420" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">130</text>
<text x="48" y="212" font-size="11" fill="#9a9a9a">離散なので、境界は 110 と 111 の間に取ります</text>
</svg>で 以下になる確率を求めます。厳密な値は です。
連続性補正を入れて で切ると となり、誤差は です。補正なしで のまま計算すると で、誤差が に広がります。
離散分布を連続分布で近似するときは、境界を半分ずらす手当てが要ります。













