ヒルベルト・シュミット作用素

ヒルベルト・シュミット作用素は、コンパクト作用素のなかでもさらに「よい性質」をもつクラスだ。行列のフロベニウスノルムの無限次元版ともいえる構造をもち、積分作用素との結びつきが深い。

定義

可分なヒルベルト空間 上の有界線形作用素 ヒルベルト・シュミット作用素 であるとは、ある(したがって任意の)正規直交基底 に対して

が成り立つことをいう。この和の値は正規直交基底の選び方によらない。

ヒルベルト・シュミットノルム

上の和の平方根を ヒルベルト・シュミットノルム と呼び、 と書く。

このノルムは作用素ノルム 以上の値をとる。すなわち が常に成り立つ。直感的には、ヒルベルト・シュミットノルムは作用素の「全体的な大きさ」を測るのに対し、作用素ノルムは「最大方向の大きさ」だけを測っている。

作用素ノルム

。最大の拡大率に着目する。

ヒルベルト・シュミットノルム

すべての基底方向への作用の二乗和。全方向の寄与を集計する。

有限次元の場合、 行列 に対して となり、これは行列のフロベニウスノルムそのものだ。

基本性質

ヒルベルト・シュミット作用素全体 はそれ自体がヒルベルト空間になる。内積は

で定義される。この内積もまた正規直交基底の選び方によらない。

ヒルベルト・シュミット作用素の重要な性質を整理する。

コンパクト性

すべてのヒルベルト・シュミット作用素はコンパクトだ。逆は成り立たない。

イデアル性

ならば であり、 が成り立つ。

随伴の保存

ならば であり、 が成り立つ。

コンパクト作用素全体がバナッハ空間(作用素ノルムで)になるのに対し、ヒルベルト・シュミット作用素全体はヒルベルト空間になる。内積構造をもつ分だけ解析が容易になる。

特異値との関係

コンパクト作用素 特異値 とは、 の固有値を大きい順に並べたものだ。ヒルベルト・シュミット作用素であることは、特異値の二乗和が有限であることと同値になる。

このとき が成り立つ。特異値が十分速く に減衰する作用素がヒルベルト・シュミット作用素だ、と理解できる。

積分作用素としての表現

ヒルベルト・シュミット作用素が最も自然に現れるのは積分作用素の文脈である。-有限な測度空間とし、 とする。このとき

で定義される作用素 はヒルベルト・シュミット作用素であり、

が成り立つ。逆に、 上のヒルベルト・シュミット作用素はすべてこの形の積分作用素として表現できる。

核関数 に属するという条件は、積分方程式の理論では非常に自然な仮定だ。熱核やグリーン関数など物理で現れる多くの核関数がこの条件を満たしている。

トレースクラスとの関係

ヒルベルト・シュミット作用素よりさらに強い条件として、特異値の和が有限な トレースクラス作用素 がある。

有界線形作用素

コンパクト作用素

ヒルベルト・シュミット作用素

トレースクラス

包含関係は であり、それぞれの包含は真である。この階層構造はシャッテンクラス )の特殊な場合で、ヒルベルト・シュミットは 、トレースクラスは に対応する。