コンパクト作用素の具体例と応用
コンパクト作用素の理論は抽象的に見えるが、具体例を通じて理解すると見通しがよくなる。ここでは代表的なコンパクト作用素を取り上げ、なぜコンパクトになるのか(あるいはならないのか)を確認する。
積分作用素
最も典型的なコンパクト作用素は積分作用素だ。連続な核関数 に対して
で定義される はコンパクト作用素になる。これはアスコリ・アルツェラの定理を使って示せる。 が有界集合を等度連続かつ一様有界な集合に写すことがポイントだ。
同じ積分作用素を 上で考えた場合も、 ならばヒルベルト・シュミット作用素となり、特にコンパクトになる。
| 核関数 | ( 上) |
| 対応する作用素 | |
| 物理的意味 | 弦の変位に関するグリーン関数 |
| コンパクト性 | 連続核なのでコンパクト |
この例は、, という境界値問題のグリーン関数に対応している。微分方程式の逆問題を積分作用素として定式化し、コンパクト性を利用してスペクトル解析を行うのは関数解析の典型的な手法だ。
対角作用素
上の対角作用素は、コンパクト性の判定が明快な例を与える。数列 に対して
と定義する。 が有界であるための条件は であり、コンパクトであるための条件は である。
(恒等作用素)。 だが でない。
。 なので有限ランク作用素で近似できる。
の場合、有限ランク近似 に対して となり、コンパクト作用素の列の極限としてコンパクト性が従う。
ヴォルテラ積分作用素
上の ヴォルテラ積分作用素 は
で定義される。これはコンパクト作用素であり、しかも固有値をもたないという興味深い性質がある。
スペクトルは であり、 は固有値ではない( ならば )。コンパクト作用素のスペクトルが のみからなるが が固有値でないという、リース・シャウダーの定理の境界的な例になっている。
シフト作用素との対比
上の右シフト作用素 は有界だがコンパクトでない。正規直交系 に対して ()となり、 から収束部分列が取れないためだ。
一方、重み付きシフト はコンパクトになる。重みが に減衰することで像が「つぶれていく」効果が生まれる。
単位球の像が「散らばったまま」になる。恒等作用素やシフト作用素がその典型。
像が「集約される」。重みの減衰、滑らかさの獲得、有限次元への射影などが典型的なメカニズム。
埋め込み作用素
ソボレフ空間 から への埋め込み作用素 はコンパクトになる。これは レリッヒ・コンダルチョフの定理 の特別な場合であり、偏微分方程式の解の存在証明において決定的な役割を果たす。
直感的には、 のノルムで有界な関数列は微分も有界であるため「振動が抑えられ」、 ノルムで見ると収束部分列が取れる。微分の制約がコンパクト性を生んでいるわけだ。
応用のまとめ
コンパクト作用素が現れる場面は幅広い。共通しているのは、何らかの「正則化」「滑らか化」「有限次元への接近」が背景にあることだ。
微分方程式のグリーン関数
積分作用素としてコンパクト
スペクトル理論で固有値・固有関数を解析
解の存在と正則性の証明
偏微分方程式、量子力学、数値解析、確率論など、コンパクト作用素は純粋数学と応用数学の接点に位置する概念であり、関数解析の中心的な道具といえる。