a=(3, 4) の向きに b=(5, 2) を落とすと、影は 2523a になります。
a⋅b=23 を ∣a∣2=25 で割った値が、a の何倍かを表す。この影を正射影ベクトルといいます[1]。
内積は、この影の長さに ∣a∣ を掛けた値です。∣a∣=5 で影の長さが 523 なので、掛け戻すと 23 になる。内積の図形的な意味がここにあります。
影の長さは内積を割ったもの
a と b のなす角を θ とします。b を a の向きへ落とした影の長さは ∣b∣cosθ です。
内積の定義 a⋅b=∣a∣∣b∣cosθ を見ると、この影の長さが右辺に入っています。
∣b∣cosθ=∣a∣a⋅b
これを符号付きの長さと呼びます。θ が鈍角なら cosθ が負になり、影は a と逆を向く。
内積は「∣a∣ と影の長さの積」。この読み方ができると、内積が図の中で見えるようになります[3]。
正射影ベクトルの式
影の長さに、a の向きの単位ベクトル e=∣a∣a を掛けるとベクトルになります[1,2]。
(b⋅e)e=∣a∣2a⋅ba
分母が ∣a∣ ではなく ∣a∣2 になるところが要点。単位ベクトルを 2 回使うので、∣a∣ で 2 回割ることになります。
a の定数倍なので、向きは a と同じか正反対。係数 ∣a∣2a⋅b の符号がそれを決めます。
例:成分で計算する
a=(3, 4)、b=(5, 2) とします。a⋅b=15+8=23、∣a∣2=9+16=25 です。
正射影ベクトルは 2523(3, 4)=(2569, 2592)。
影の長さは ∣a∣23=523 になります。∣a∣=5 で割る点と、ベクトルでは 25 で割る点を分けて覚えます。
例:垂直な成分をとり出す
b から正射影ベクトルを引くと、a に垂直な成分が残ります。
(5, 2)−(2569, 2592)=(2556, −2542) です。
a との内積を計算すると 25168−168=0。たしかに垂直になっている。
長さは 251562+422=2570=514 です。(523)2+(514)2=29=∣b∣2 で、三平方の定理も成り立ちます。
例:なす角が鈍角のとき
a=(3, 4)、c=(−4, 1) とします。a⋅c=−12+4=−8 です。
正射影ベクトルは −258(3, 4)。係数が負なので、影は a と逆向きになります。
影の長さを問われたら −58=58 と絶対値をとる。符号付きの値のままか、長さとしての値かを、問題文で確かめます。
例:単位ベクトルを使う書き方
a=(3, 4) の単位ベクトルは e=(53, 54) です。
b⋅e=515+8=523。これが影の長さになります。
正射影ベクトルは 523e=523(53, 54)=(2569, 2592)。さきほどと同じ結果です。
先に単位ベクトルを作っておくと、同じ向きへ何度も落とす問題で計算が短くなる。
例:垂線の足を求める
A(1, 1)、B(5, 3) を通る直線に、点 P(2, 6) から垂線を下ろします。
AB=(4, 2)、AP=(1, 5) です。内積は 4+10=14、∣AB∣2=20。
正射影ベクトルは 2014(4, 2)=(514, 57)。これを A に足すと垂線の足になります。
H=(1+514, 1+57)=(519, 512)
検算に PH=(59, −518) と AB の内積をとると 536−36=0 で、垂直になっています。
三角形の辺を射影する
三角形の 1 辺は、残りの 2 辺をその辺へ落とした影の和になります[4]。
c=acosβ+bcosα
射影定理と呼ばれる関係です。頂点から向かい合う辺へ垂線を下ろすと、辺が 2 つに分かれる。その 2 つがそれぞれの影にあたります。
例:射影定理を数で確かめる
a=7、b=5、c=6 の三角形を考えます。余弦定理から cosβ=2×7×649+36−25=8460=75。
同じく cosα=2×5×625+36−49=6012=51 です。
acosβ+bcosα=7×75+5×51=5+1=6。たしかに c に一致します。
例:内積を影として読む
∣a∣=6 で、b の影の長さが 4 だとします。内積は 6×4=24 です。
∣b∣ もなす角も分かりませんが、影の長さだけで内積が決まる。逆に内積と ∣a∣ が分かれば影の長さが出ます。
物理で仕事を F⋅s と書くのも同じ理由です。動いた向きに沿う力の成分だけが効く、という意味になる。
影を測るか、成分で計算するか
図から影を読む
なす角が分かっているときに速い。∣b∣cosθ を掛けるだけ
成分で計算する
座標が与えられているときに確実。内積を ∣a∣2 で割る
角度が与えられていれば前者、座標が与えられていれば後者。どちらも同じ値にたどり着きます。
a=(1, 2) の向きへ b=(4, 3) を落とした正射影ベクトルはどれですか。
- (52, 54)
- (2, 4)
- 510(1, 2)
__RESULT__
a⋅b=4+6=10、∣a∣2=1+4=5 なので係数は 510=2 です。正射影ベクトルは 2(1, 2)=(2, 4) になります。落とす先ではなく b の大きさの 2 乗 25 で割ると (52, 54)、∣a∣ で 1 回だけ割ると 510 が出ます。後者は影の長さのほう。
よくある誤り
分母を ∣a∣ にする。ベクトルを出すときは ∣a∣2 で割ります。
b の側で割る。落とす先である a の大きさで割ります。
影の長さと正射影ベクトルを混ぜる。前者は実数、後者はベクトルです。
鈍角のときに符号を落とす。影が逆向きになるので係数は負です。
長さを聞かれているのに符号付きの値を答える。絶対値をとります。
垂線の足を出すのに A に足し忘れる。正射影ベクトルは A からの変位です。
単位ベクトルを作らずに b⋅a をそのまま影の長さとする。∣a∣ で割ります。
内積を「大きさ × 影の長さ」と読み替える。この 1 つの見方が、垂線の足にも射影定理にもつながっています。
参考文献
[1] が正射影ベクトルと符号付きの長さの式、[2] が単位ベクトルを使う書き方、[3] が内積の図形的な意味、[4] が射影定理です。
Dot product - Wikipedia(英語) Law of cosines - Wikipedia(英語)
$\vec{a}=(3,\ 4)$ の向きに $\vec{b}=(5,\ 2)$ を落とすと、影は $\dfrac{23}{25}\vec{a}$ になります。内積 $23$ を $|\vec{a}|^2=25$ で割った値が、$\vec{a}$ の何倍かを表す。分母が $|\vec{a}|$ ではなく $|\vec{a}|^2$ になるのは、単位ベクトルを 2 回使うためです。影の長さのほうは $\dfrac{23}{5}$ で、これに $|\vec{a}|$ を掛け戻すと内積に戻る。鈍角なら係数が負になり、影は逆を向きます。$\vec{b}$ から影を引いて垂直な成分をとり出す計算、垂線の足 $H$ の求め方、三角形の射影定理まで、計算例を 8 つ並べました。
a⋅b=4+6=10、∣a∣2=1+4=5 なので係数は 510=2 です。正射影ベクトルは 2(1, 2)=(2, 4) になります。落とす先ではなく b の大きさの 2 乗 25 で割ると (52, 54)、∣a∣ で 1 回だけ割ると 510 が出ます。後者は影の長さのほう。