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大きさの 2 乗を計算するだけ……ベクトルによる等式と不等式の証明

中線定理 は、 を展開するだけで出ます[1]。

図に補助線を引いたり、合同な三角形を探したりする必要はありません。長さを 2 乗して内積に直すと、余分な項が打ち消し合う。

不等式も同じ手つきで進みます。 は、両辺を 2 乗して差をとると に落ちる[2]。

証明の型は 1 つ

図形の等式を証明するときは、始点を 1 つ決めて、出てくる長さをすべて位置ベクトルで書き直します。

長さは 2 乗して内積に直す。あとは展開して、左辺と右辺が同じ式になることを見るだけ[3]。

始点を決めて、各点を位置ベクトルで表す

長さを 2 乗して内積に直す

展開して左辺と右辺を見比べる

始点の選び方で計算量が変わります。中点や重心のように、対称性のある点を始点にとると項が減る。

例:中線定理

三角形 で辺 の中点を とします。 を始点にとり、、 とおく。

は中点なので です。ここが計算を軽くする鍵になります。

、 なので、これがそのまま中線定理です。内積の項が符号違いで消えています。

例:平行四辺形の 4 辺と対角線

平行四辺形の 4 辺の 2 乗の和は、2 本の対角線の 2 乗の和に等しくなります[1]。

隣り合う 2 辺を 、 とすると、対角線は と です。

右辺は 4 辺の 2 乗の和と同じ。中線定理とまったく同じ計算で、見え方だけが違います。

例:菱形の対角線が直交する

4 辺が等しい平行四辺形では です。対角線どうしの内積を計算します。

になる。

内積が なので 2 本の対角線は垂直です。等式の証明と垂直の証明は、同じ展開で片づきます。

例:中点連結定理

三角形 で、辺 の中点を 、辺 の中点を とします。 を始点にとる。

、 です。引き算します。

が の定数倍なので平行、係数が なので長さは半分。平行と長さの両方が 1 行で出ます。

この証明では 2 乗すら使いません。長さと向きの両方が要る主張では、ベクトルのまま比べるほうが速い。

不等式は 2 乗の差を見る

不等式では、両辺とも 以上であることを先に確かめます。そのうえで 2 乗して差をとる。

、 のとき、 と は同じ意味になります。大きさは必ず 以上なので、この言いかえがいつでも使える。

差が 以上であることを示せば証明が終わります。等号が成り立つ条件も、差が になる場合として同時に出る。

例:三角不等式

を示します[2]。右辺の 2 乗から左辺の 2 乗を引く。

で なので、。差は 以上になります。

三角形の 2 辺の和が残りの 1 辺より長い、という事実がこの形です。

例:等号が成り立つとき

差が になるのは 、つまり のときです。

なので、 と が同じ向き。()と書ける場合になります[2]。

平行でも向きが逆なら等号は成り立ちません。「平行なとき」ではなく「同じ向きのとき」と書きます。

どちらかが のときも等号が成り立つ。答案では、この場合を別に断るか、 の形にまとめます。

例:引き算の形の不等式

を示します。 を分けて書くのがこつ。

とみて、三角不等式を当てます。 です。

を移項すると 。すでに示した不等式を使い回す形になります。

左辺が負になる場合もありますが、右辺は 以上なので不等式は成り立つ。両辺を 2 乗する道は、ここでは使えません。

コーシー・シュワルツの不等式

内積の絶対値は、大きさの積を超えません[2]。

で、 だから、というのがいちばん短い説明になります。

等号は のとき、つまり と が平行なとき。三角不等式のときと違い、向きが逆でも等号が成り立ちます。

例:成分で書き直す

、 を入れると、次の形になります。

文字式だけを見ると証明の見当がつきにくい不等式ですが、ベクトルで読むと にすぎません。

、、、 なら、左辺は 、右辺は 。たしかに成り立っています。

例:等式と不等式を組み合わせる

で、 のとき、 を求めます。

平行四辺形の法則から 。

なので です。展開の等式を使うと、内積を経由せずに答えが出ます。

三角不等式の側から見ると 。 はこの範囲に収まっており、条件に矛盾がないことも確かめられる。

等式と不等式の違い

等式の証明

展開して両辺が一致することを見る。始点の選び方で計算量が変わる

不等式の証明

差をとって 以上を示す。等号が成り立つ条件も同時に書く

不等式では、どこで等号が成り立つかまで書いて答案が完成します。差が になる条件を最後に確かめます。

が成り立つのはどんなときですか。

  • と が垂直なとき
  • と が同じ向きのとき
  • と が平行なとき
__RESULT__

差をとると で、 になるのは のときです。平行でも向きが逆なら となり、等号は成り立ちません。「平行」では条件がゆるすぎます。

よくある誤り

不等式で両辺の符号を確かめずに 2 乗する。左辺が負のときは 2 乗できません。
三角不等式の等号を「平行なとき」と書く。同じ向きのときに限られます。
コーシー・シュワルツの等号を「同じ向き」とする。こちらは逆向きでも成り立ちます。
等号が成り立つ条件を書かない。不等式の答案では最後に必要です。
始点を決めずに計算を始める。すべての点を同じ始点で表してから展開します。
長さの等式を長さのまま変形する。2 乗して内積に直します。
の大きさを とする。別の値です。

長さは 2 乗、不等式は差。この 2 つの型に載せると、図形の証明が計算の作業になります。

参考文献

[1] が平行四辺形の法則と中線との関係、[2] がコーシー・シュワルツの不等式と三角不等式および等号の条件、[3] が内積の展開規則、[4] が大きさと内積の対応です。

Parallelogram law - Wikipedia(英語)
Cauchy-Schwarz inequality - Wikipedia(英語)
Skalarprodukt - Wikipedia(ドイツ語)
Produit scalaire - Wikipédia(フランス語)
中線定理 $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$ は、中点 $M$ を始点にとって $|\vec{b}-\vec{a}|^2+|\vec{a}+\vec{b}|^2$ を展開すると、内積の項が符号違いで消えて出てきます。補助線も合同も要りません。中点連結定理にいたっては $\overrightarrow{MN}=\dfrac{1}{2}\overrightarrow{BC}$ と定数倍で書けた時点で、平行と長さが同時に決まる。不等式は差をとって $0$ 以上を示す型で、$|\vec{a}+\vec{b}|\leq|\vec{a}|+|\vec{b}|$ の等号は「平行」ではなく「同じ向き」のときだけ成り立ちます。コーシー・シュワルツの等号条件との違いも扱いました。