Burnside問題 - 有限生成ねじれ群は有限か
群論には未解決だった期間の長さや問題の深さで際立つ問いがいくつかありますが、Burnside 問題はその代表格です。問い自体は素朴で、「すべての元の位数が有限な有限生成群は、群として有限になるか」というものです。答えは一般には「No」ですが、そこに至る道のりは 20 世紀の群論を大きく動かしました。
問題の定式化
群 がねじれ群(torsion group)であるとは、すべての元 が有限位数を持つ、すなわちある正整数 が存在して となることです。有限群は明らかにねじれ群ですが、逆は自明ではありません。
Burnside が 1902 年に提起した問いは、有限生成という条件を加えれば逆が成り立つかというものでした。有限生成とは、群の中の有限個の元 からすべての元が積と逆元の操作で得られることで、この条件がないと のような無限ねじれ群が簡単に作れるため、有限生成という仮定は不可欠です。
の各元 は位数 で有限だが、群全体は可算無限。
3 つのバリエーション
Burnside 問題には関連する 3 つの定式化があり、それぞれ難易度と結論が異なります。
有限生成ねじれ群は有限か。最も広い問いで、1964 年に Golod と Shafarevich が否定的に解決した。
有限生成群で、すべての元の位数がある固定された 以下であるとき、群は有限か。すなわち がすべての で成り立つとき有限か。これも一般には否定的で、十分大きい奇数 に対して無限群が存在する。
有界指数 の有限生成群のうち、有限なものの中で最大のものは存在するか。Zelmanov が 1991 年に肯定的に解決し、Fields 賞を受賞した。
3 つの問題は「一般 有界 制限」の順に条件が強くなり、肯定的解決の可能性が高くなります。歴史的にも、最も弱い制限版が肯定的に解決され、他の 2 つは反例が見つかるという結末になりました。
Burnside 群
有界 Burnside 問題を正確に述べるために、Burnside 群を定義します。 個の生成元を持つ自由群 に対して、 のすべての元の 乗で生成される正規部分群を とします。商群
を 生成元、指数 の Burnside 群と呼びます。 はすべての元が を満たす 生成群の中で最大のもの(普遍的なもの)です。有界 Burnside 問題は「 は有限か」と言い換えられます。
小さい指数の場合
指数 が小さいときは の構造が完全に決定されています。
| 指数 | の位数 | 有限性 |
|---|---|---|
| 1 | 1 | 有限 |
| 2 | 有限 | |
| 3 | 有限 | |
| 4 | 有限 | |
| 6 | 有限 |
の場合は最も簡単です。すべての元が 、すなわち を満たすので、任意の 2 元 に対して となり、群はアーベルです。有限生成アーベルねじれ群は有限なので です。
は Burnside 自身と Levi-van der Waerden によって有限と示されました。 は Sanov(1940)、 は Hall-Higman(1956)による結果です。これらの証明はいずれも指数固有の組合せ的議論に依拠しており、一般の に適用できる手法ではありません。
一般 Burnside 問題の否定的解決
1964 年、Golod と Shafarevich は一般 Burnside 問題に対する反例を構成しました。
彼らの手法は群論に直接的なものではなく、Golod-Shafarevich の不等式と呼ばれる環論的な結果が核心にあります。有限生成な次数付き代数について、生成元と関係式の個数に関する不等式が成り立ち、その条件を満たす代数は無限次元でなければならないことを示しました。
関係式の個数が少なすぎると代数が「潰れ切らない」ことを不等式で保証する手法。
この不等式を巧みに利用して、Golod は有限生成無限 群(すべての元の位数が のべきであるような群)を構成しました。具体的には、体 上のある有限生成結合代数を構成し、その単元群の中に有限生成無限ねじれ群を見出すという方法です。
ただし Golod-Shafarevich の反例は、元の位数に一様な上界がありません。各元は有限位数ですが、位数はいくらでも大きくなり得ます。そのため有界 Burnside 問題には答えていません。
有界 Burnside 問題の否定的解決
有界 Burnside 問題は、さらに 30 年近い歳月を要しました。1968 年、Novikov と Adian が画期的な結果を発表します。
が奇数で ならば は のとき無限である。
この証明は非常に長大かつ技術的で、約 300 ページにわたるものでした。後に Adian が指数の下界を まで改良しています。
有限生成ねじれ群は有限か。当時は肯定的と予想されていた。
一般 Burnside 問題の否定的解決。ただし元の位数に一様な上界がない。
十分大きい奇数指数の Burnside 群が無限であることを証明。有界 Burnside 問題の否定的解決。
十分大きい偶数指数(、 は の倍数)でも が無限であることを証明。
制限 Burnside 問題と Zelmanov の定理
制限 Burnside 問題は他の 2 つとは異なり、肯定的に解決されました。この問題は次のように定式化されます。
生成元、指数 の有限群全体の中に、同型を除いて最大のものが存在するか。同値な言い方をすると、 の有限商群の中に最大のものが存在するか。
自身が有限か。答えは一般に No。
の有限商の中で最大のものが存在するか。答えは Yes(Zelmanov)。
Zelmanov は 1991 年にこの問題を任意の指数 に対して肯定的に解決しました。証明は 群の場合に帰着させた上で、Lie 環の理論を深く用いるものです。まず指数 の有限生成 群の冪零性に関する問題に変換し、次にこれを次数付き Lie 環に関する Engel 条件の問題として定式化し、Lie 環の構造定理を用いて解決するという流れです。この業績に対して 1994 年に Fields 賞が授与されました。
Burnside 問題が示すもの
Burnside 問題の周辺には、群論の他の分野との深い関連があります。
Golod-Shafarevich の不等式は数論にも応用され、類体塔問題(class field tower problem)の解決にも使われました。代数体の類体塔が無限になり得ることの証明は、Golod-Shafarevich の定理の直接的な帰結です。
次のうち、現在も未解決の問題はどれですか?
- 一般 Burnside 問題(有限生成ねじれ群は有限か)
- 制限 Burnside 問題(最大有限商の存在)
- が有限かどうか
- の構造の決定
Burnside 問題が提起されてから 1 世紀以上が経過していますが、 の有限性のように具体的な指数に関する未解決問題が残されています。有限か無限かが不明な最小の指数は (生成元 )であり、この問題は計算機を用いた試みも含めて現在も活発に研究されています。
B(2,5) は 2 生成元、指数 5 の Burnside 群で、有限であると予想されていますがいまだに証明されていません。一般 Burnside 問題は Golod-Shafarevich が、制限 Burnside 問題は Zelmanov が、B(m,2) は初等的に解決済みです。