位数が全部有限でも群は無限になれる(Burnside 問題)
有限個の元で生成され、どの元の位数も有限。それでも群が無限になることがあります[2]。
Burnside が 1902 年に立てた問いは、そうならないだろう、というものでした[1]。答えが出るまで 60 年かかり、しかも否定でした。
2 つの問い
Burnside は 1902 年に 2 つの問題を挙げています[1]。
周期群とは、すべての元の位数が有限な群のことです。ねじれ群ともいいます。
2 番目は、 がすべての元で成り立つ場合です。ここでの を指数といいます。
指数が一定なら位数も一定というのは自然な期待でした。有限個の生成元しかなく、各元の位数にも上限がある。それでも無限になれるとは考えにくい。
自由 Burnside 群
問いを群の言葉に直します。階数 の自由群を 、すべての 乗が生成する正規部分群を とします[1]。
これが自由 Burnside 群です。 個の生成元を持ち、指数が を割る群のうち、いちばん大きいもの。
だから「指数 の 生成群がすべて有限か」は、「 が有限か」と同じ問いになります[1]。
指数 2 なら可換
の場合は数行で片づきます。 からすべての元が自分自身の逆元です。
可換になりました。可換で指数 なら 上のベクトル空間と同じで、 生成なら次元 。
Burnside 自身が 1902 年に示しています[1]。 が位数 の巡回群になることも同じ論文にあります[1]。
指数 3、4、6
は 1933 年に Levi と van der Waerden が片づけました[1]。 は有限で、冪零類 の可解群になります。
なら 、 なら です[1]。
は Sanov が 1940 年に示しました[1]。位数の値は別問題で、 を Tobin が 1954 年に決めています[1]。[3]。
は Marshall Hall が 1958 年[1]。ここで止まりました。

一般の問いは崩れた
1964 年、Golod と Shafarevich が反例を作りました[1]。有限生成で、すべての元の位数が有限で、しかも無限な群です。
構成は環論を経由します。次数つき代数のヒルベルト級数に関する不等式から、無限次元だが局所冪零な代数を作り、その乗法群から群をとり出す[2]。
指数は一定になりません。元ごとに位数が有限なだけで、上限がない。だからこの例は 1 番目の問いを否定しますが、2 番目には届きませんでした。
有界の問いも崩れた
4 年後、Novikov と Adian が 2 番目を否定します[1]。1968 年、奇数 で が無限だと示しました。
組み合わせ論的な議論の塊で、Novikov の以前の試みを土台にしたものです[2]。指数が一定の無限な有限生成群として、最初の例になりました[2]。
境界はその後下がっていきます。Adian が 1975 年に奇数 まで押し下げました[1]。
偶数を含む形は遅れました。Ivanov が 1994 年に 、 で、Lysenok が 1996 年に で示しています[1]。
制限つきの問い
2 つとも否定されたあと、問いを弱めた形が残りました[1]。
指数 の 生成群のうち、有限なものだけを見る。それらの位数に上限があるか、という問いです。1930 年代に立てられ、1950 年に Magnus が制限つき Burnside 問題と名づけました[1]。
同じことを、 生成で指数 の有限群が同型を除いて有限個しかないか、と書いてもよい。
Kostrikin が 1955 年と 1958 年に、指数が素数の場合を解きました[1]。Higman が 1956 年に を扱っています[1]。
同じ 1956 年、Hall と Higman が還元定理を出します[1]。指数が素数冪の場合さえ解ければ、一般の指数でも従う、という形です。
残った素数冪の場合を Zelmanov が 1989 年に解決しました[1]。Lie 環の理論を使う議論で、この仕事により 1994 年に Fields 賞を受けています[1]。
どちらも否定。有限生成でねじれがあっても、群は無限になれる
肯定。有限なものに限れば、位数に上限がある
3 つの問いのうち、肯定で終わったのはこれだけです。無限な例を許さない条件を足して初めて、期待どおりの結論が出ました。
別の反例
Golod と Shafarevich、Novikov と Adian のあとに、まったく違う構成が出ています[2]。
Grigorchuk が作った群は、有限生成の無限なねじれ群で、しかも語の増大度が中間になります[2]。多項式より速く、指数関数より遅い。そういう群の最初の例でした。
1980 年代には、異様な有限性を持つねじれ群を作る手法が発達します[2]。Ol’shanskii の Tarski 怪物がその出発点で、その後は双曲群の理論を使うものへ広がりました[2]。
Golod と Shafarevich の構成は、いったんこうした例に押されます[2]。ここ数年また使われるようになり、双曲群の道具が効かない問題で結果を出しています[2]。
残っているところ
が有限かどうかは、いまも分かっていません[1]。
有限だと示された最大の指数が 、無限だと示された最小の指数が 前後。あいだの から までは、ほとんど空白のままです。
Kostrikin と Higman は制限つきの問いで を扱えましたが、 そのものが有限かどうかは別の問題です[1]。有限な商に上限があることと、群自体が有限であることは違う。
Burnside の 3 つの問いのうち、肯定的に解決したのはどれですか。
- 有限生成の周期群は必ず有限か
- 指数 の 生成有限群の位数に上限があるか
- 指数が一定の有限生成周期群は必ず有限か
指数を一定に押さえても、生成元を有限個にしても、群は無限に伸びられる。 という 1 本の関係式が、有限性を保証しないという事実に、90 年ぶんの仕事が詰まっています。












1 番目は 1964 年に Golod と Shafarevich が、3 番目は 1968 年に Novikov と Adian が反例を作って否定しました。2 番目が制限つき Burnside 問題で、Hall と Higman の還元を経て 1989 年に Zelmanov が肯定的に解決しています。有限なものだけを見る、という制限が効いています。