質量分析器は磁場の中の半径の差で同位体を分ける
速さをそろえたネオンのイオンを の磁場へ送ります。質量数 の原子は半径 、質量数 の原子は の円を描きます。
差は 。この隔たりが、化学的にまったく同じ 2 つの原子を分けます。
半径が質量に比例するので、質量の 割の違いが半径の 割の違いになって現れる。それだけの仕組みです。
速さをそろえてから磁場へ
磁場の中の円運動の半径は、質量と速さの積を電荷と磁場で割った値です[1]。
質量が知りたいのに、速さも入っています。イオン源から出る粒子は速さがばらばらなので、このままでは半径から質量を読めません。
そこで手前に速度選別器を置きます。電場と磁場を直交させ、 の粒子だけを通す装置です[2]。
速度選別器で速さをそろえる
一様な磁場に入れて円運動させる
半径を測り、質量に直す
半径は質量に比例する
速さと電荷と磁場をそろえてしまえば、半径を決めるのは質量だけになります。
質量数 と の原子なら、半径の比も 。10\ \mathrm{%} の違いがそのまま出ます。
質量そのものを出すときは、式を逆に解きます。
例:ネオンの同位体
原子質量定数は [3]。質量数 の原子の質量はその 倍です。
価のイオンとし、、 で計算します。
質量数 なら、比例なので 。

着地点は 2r 離れる
境界から垂直に入った粒子は半円を描き、入口から 離れた点へ戻ります。
検出器はその位置に置きます。半径の差が なら、着地点の差はその倍の 。
測る量が倍になるぶん、分けやすくなる。半円を使う配置が選ばれるのは、この効きめのためです。
測るのは半径ではなく、入口からの距離 です。
半径そのものは直接測れない。着地点までの距離を測り、半分にして半径に直す。
例:質量を求める
着地点までの距離が と測れたとします。半径は 。
原子質量定数で割ると 。質量数 のネオンでした。
速度選別器の と も式に入れると、測定に使うのは 3 つの磁場と電場と長さだけになります[2]。
電荷が 2 価なら半径は半分
同じ質量でも、電荷が のイオンは半径が半分になります。分母に があるためです。
質量数 の 価イオンは、質量数 の 価イオンと同じ半径を描く。装置が見分けているのは質量そのものではなく、 の比です。
| イオン | 質量数 | 価数 | 半径 |
|---|---|---|---|
| Ne の 1 価 | |||
| Ne の 1 価 | |||
| Ar の 2 価 |
質量数 の 価と質量数 の 価は、この装置では重なります。切り分けるには、別の条件を加えるしかありません。
例:磁場を走査する
実際の装置では、検出器の位置を固定します。動かすのは磁場のほうです。
半径 を固定した式を見ます。
に比例するので、磁場を少しずつ強めていけば、検出器に届く質量が順に大きくなっていく。
で質量数 が届いたなら、 では が届きます。磁場を掃きながら信号を記録すれば、質量ごとの量が並んだグラフになります。
これが質量スペクトルです。横軸の目盛りは、そのまま磁場の目盛りから作れます。
例:空気の成分を並べる
同じ条件で、いろいろな質量数の半径を計算してみます。
窒素分子と酸素分子は と 。着地点では 開くので、余裕をもって分かれます。
質量数が しか違わないアルゴンと酸素でも、 と で 25\ \mathrm{%} の差。重い側ほど半径が大きいぶん、隔たりも広くなります。
質量数が同じ相手は分けにくい
窒素分子も一酸化炭素も質量数は です。原子核の結合エネルギーの差だけ実際の質量が違いますが、その差は 0.1\ \mathrm{%} にも届きません。
もそのまま 0.1\ \mathrm{%} 未満。半径 に対して 以下です。
ここまで細かい差を読むには、速度選別器の幅をさらに狭め、検出器の位置も精密にする必要があります。高分解能の装置が別に作られるのは、この線を越えるためです。
相対差が数十パーセント。ふつうの装置で楽に分かれる
相対差は数パーセントから 10 パーセント。装置の設計しだいで分かれる
相対差が 0.1 パーセント未満。高分解能の装置が要る
分解能
半径の相対的な差は、質量の相対的な差にそのまま等しくなります。
ネオンの と なら 10\ \mathrm{%} で、分けるのは楽です。
塩素の と は 5.7\ \mathrm{%}。同じ条件で半径を計算すると と で、差は 。着地点では 開きます。
質量数が大きくなるほど、相対的な差は小さくなる。ただし半径そのものが大きくなるので、絶対的な差はさほど縮みません。
質量の相対差が大きく、半径がはっきり分かれる
相対差は小さいが、半径も大きい。絶対的な隔たりは残る
検算のしかた
半径の比が質量の比と一致するかを見ます。速さと電荷と磁場が共通なら、比は必ず質量の比になります。
単位も確かめます。 が になるはず。
質量数に直したときに整数の近くに来るかも手がかりです。 や から大きく外れたら、どこかの桁が違います。
質量数 のイオンが半径 の円を描く装置に、同じ速さで同じ価数の質量数 のイオンを入れます。半径はどれですか。
速さをそろえてから磁場へ入れる。この 1 手で、半径が質量だけを映す量に変わります。
















半径は質量に比例するので、4.0×2024=4.8 cm です。3.3 cm は反比例させた場合の値になります。着地点までの距離は 9.6 cm で、質量数 20 の 8.0 cm より 1.6 cm 遠くなります。