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コイルを通る電気量と磁束の変化〜速さによらない理由

回巻きのコイルを磁場から引き抜くと、 の電気量が回路を通ります。

ゆっくり抜いても、素早く抜いても同じ値です。速く抜けば電流は大きくなりますが、流れている時間がそのぶん短くなります。

流れる電気量を決めるのは、磁束がどれだけ変わったかだけ[1]

電流を時間で積む

電気量は、電流を時間で足し上げた量です。ファラデーの法則から電流を書きます。

これに を掛けると、 が約分で消えます。

残ったのは磁束の変化量と巻数と抵抗だけ。時間がどこにも入っていません。

はじめと終わりの磁束を出す

差をとって巻数を掛ける

抵抗で割る

速さが消える理由

素早く抜くと、電流のグラフは背が高く幅が狭い山になります。ゆっくり抜けば、低くて広い山。

電気量はその山の面積にあたります。高さと幅が逆に動くので、面積が変わりません。

例:コイルを抜く

、面積 のコイルを の磁場に正面から入れ、回路の抵抗を とします。

はじめの磁束は 。抜き終われば です。

かけて抜けば平均 なら平均 が流れます。

電気量が速さによらないのは、力積が力の掛かり方によらない のと同じ構造です。

どちらも「変化量」で決まる。力積は運動量の変化、電気量は磁束の変化に対応する。

抜くのに要る仕事は速さで変わる

電気量は速さによりません。ところが、抜くのに要る仕事のほうは違います。

一定の速さ で幅 のコイルを抜くとき、磁場から受ける抵抗力は次の形です[2]

速さに比例します。同じ距離を動かすなら、仕事も速さに比例して増える。

通る電気量

磁束の変化だけで決まる。速さは答えに残らない

要る仕事と出る熱

速さに比例する。素早く抜くほど大きくなる

例:仕事を比べる

の 1 巻きコイルを 動かして抜きます。

なら、力は 。仕事は

にすると、力も仕事も 倍になります。

電気量のほうは、どちらでも で変わりません。

例:磁石がコイルを通り抜ける

コイルの中を磁石が落ちていく場合を考えます。磁束は から増えて最大になり、また へ戻る。

前半と後半で、磁束の変わる向きが逆になります。したがって電流の向きも逆。

前半に通る電気量は 、後半も同じ大きさで向きが逆です。差し引きすると正味は になります。

なら、前半も後半も

正味が でも、電流計の針は 2 回振れます。向きが逆なので打ち消し合って見えるだけで、何も起きていないわけではありません。

例:抵抗を変える

の分母に があるので、抵抗を大きくすると電気量は減ります。

にすれば、 に。半分です。

回路を切って を無限大にすれば、電気量は 。起電力は生まれていますが、電流の通り道がありません。

このとき両端には電圧が現れます。電気量が でも、起電力まで になるわけではない。

例:発熱の総量

抜くあいだに出る熱は、電流の 2 乗を時間で積んだ値です。

一定の速さで抜くなら、電流も一定になります。時間を として書きます。

が分母に残りました。素早く抜くほど熱が増える。電気量とは効き方が逆になります。

かけると なら 倍の です。

磁束を測る道具になる

この性質は、磁束を測る装置に使われています。

コイルを磁場から素早く引き抜き、流れた電気量を積算します。抵抗と巻数が分かっていれば、逆に解いて磁束が出る。

抜く速さを制御する必要がありません。手で引き抜いても、機械で抜いても同じ値になります。

地磁気を測るときも同じ手を使います。小さなコイルを地磁気の中で 反転させ、流れた電気量から磁束密度を出す[3]

測りたい量与える量使う式
磁束
抵抗
巻数

例:180 度反転させる

抜くのではなく、コイルを裏返す場合を考えます。

磁束は から へ変わるので、変化量は 。抜く場合の 倍です。

さきほどの数値なら 。同じコイルでも、操作を変えると電気量が倍になります。

電気量が抜く速さで変わると考える。
磁束の変化量ではなく、変化率を使ってしまう。
巻数を掛け忘れる。1 巻きぶんの値になります。
反転させたときの変化量を とする。 です。
仕事や発熱も速さによらないと考える。こちらは速さで変わります。

検算のしかた

単位を見ます。 になるはず。 で合います。

平均の電流からも確かめられます。 を実際にかかった時間で割った値が、平均の電流になるはずです。

抜き方を変えた 2 通りで計算し、同じ値が出るかを見るのも早い。違えば、どこかに時間が残っています。

回巻き、面積 のコイルを の磁場から抜きます。回路の抵抗が のとき、通る電気量はどれですか。

  • 抜く速さによって変わる
__RESULT__

磁束は です。 になります。時間が式から消えるので、速さは答えに影響しません。

変化率ではなく変化量。この 1 語の違いで、時間が式から落ちます。

参考

Faraday's Law. University Physics Volume 2, OpenStax.
Motional Emf. University Physics Volume 2, OpenStax.
*Versuch E08: Das Faradaysche Induktionsgesetz*. Physikalisches Grundpraktikum, Universität Greifswald.
$100$ 回巻きのコイルを $0.20\ \mathrm{T}$ の磁場から抜くと、抵抗 $5.0\ \Omega$ の回路に $0.040\ \mathrm{C}$ が流れます。ゆっくりでも素早くても同じ値。$q = N\Delta\Phi / R$ を導く途中で $\Delta t$ が約分で消えるためです。電流のグラフは高さと幅が逆に動くので、面積が保たれる。一方で抜くのに要る仕事と発熱は速さに比例し、こちらは逆の効き方をします。$180^\circ$ 反転させると変化量が $2BA$ で電気量が倍になること、磁石が通り抜けると正味が $0$ になること、電気量から磁束を逆算する使い方まで。