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密度で書ける部分と書けない部分、ルベーグ分解で絶対連続と特異に割る

基準の測度 から見ると、どんな測度も 2 つの成分に分かれます。 が見ている場所に乗っている部分と、 が完全に無視する場所に乗っている部分。

ルベーグ分解は、この分け方が一意であることを言います[1]。絶対連続と特異という 2 つの関係が、片方ずつの成分として実際にとり出せる。

アンリ・ルベーグが 1910 年に のルベーグ測度について示し、ラドンとハーンが一般の測度空間へ広げました[4]。

特異とは台が交わらないこと

2 つの測度 、 が互いに特異であるとは、 を交わらない と に割って 、 とできることをいいます[3]。

の質量が全部 に乗り、 の質量が全部 に乗る状態です。互いに相手の住所を零集合だと思っている。

絶対連続と違って対称な関係になります。 と は同じ主張。

例:点質量はルベーグ測度に特異

にルベーグ測度 とディラック測度 を置きます。分割は 、。

で なので、たしかに です。

長さでは見えない 1 点に、質量が全部乗っています。特異のいちばん素朴な例。

例:有理数に質量を配る

の元を と並べ、 に の質量を置いた測度 を考えます。総量は です。

有理数全体は可算なので 、一方で 。分割 、 が特異性の証拠になります。

は で稠密なので、 の質量はどの区間にも入り込んでいます。それでもルベーグ測度から見れば、すべてが零集合の上の出来事。

稠密であることと、長さを持つことは別。特異性は位置ではなく測度の目で決まります。

絶対連続かつ特異なら零測度

分解の一意性は、この 1 行から出ます。 と が同時に成り立てば 。

特異性から で 、 がとれます。絶対連続性を に当てると から 。

したがって となり、 は零測度です。両方の関係を同時に満たす余地がありません。

一意性の証明

と 2 通りに分かれたとします。移項すると次の形。

左辺は絶対連続な測度の差なので絶対連続、右辺は特異な測度の差なので特異です。前の節から両辺は零測度になります。

つまり 、 です。分解の仕方は最初から 1 通りしかありません[1]。

ルベーグ・ラドン・ニコディムの定理

分解と密度を合わせると、次の形にまとまります[5]。 を 有限符号付き測度、 を 有限測度とします。

は について概収束の意味で一意、 は に特異です。絶対連続な部分は密度で書き切れて、書けない残りが特異部分になります。

証明はラドン・ニコディムの定理と同時に進みます[6]。 を満たす の上限を とすると、 が特異になる。

密度で吸えるだけ吸って、吸い残しを特異部分と呼ぶ。分解はそういう手つきで作られます。吸い残しが ならもとから絶対連続だった、というだけの話。

例:一様分布と点質量の混合

上で、 の一様分布と の点質量を半分ずつ混ぜます。

を基準にすると、分解はそのまま読めます。

絶対連続部分
特異部分
密度

なので ではありません。それでも半分は密度で書けます。分解が意味を持つのはこういう場面。

特異部分はさらに 2 つに割れる

特異な測度は、原子を持つかどうかでもう一段細かく分かれます[3]。原子とは、それ自身が正の測度を持つ 1 点のこと。

離散部分

特異連続部分

絶対連続部分

離散部分は原子だけに乗る測度です。特異連続部分は原子を持たないのに、ルベーグ測度から見れば零集合に全部が乗っている。

3 つ目が絶対連続部分。この 3 層への分解も一意に決まります。

いちばん上が元の測度で、下の 3 段がその成分です。3 段目のとびとびの帯が、次に作るカントール測度にあたります。

カントール測度の作り方

から真ん中の を除き、残った 2 本からまた真ん中を除く。これを繰り返した共通部分がカントール集合 です。

そこへ質量を配ります。第 段の 本の区間に、それぞれ ずつ均等に置く。

段を進めても総量は のまま変わりません。極限で得られる測度 がカントール測度です。

分布関数 はカントール関数と呼ばれます[2]。

平らな踊り場だけを足すと長さが に近づきます。それでも関数は から まで上がりきる。

カントール測度が特異連続である理由

まず原子がありません。1 点 は第 段のどれか 1 本に入るので となり、 で 。

次に特異であることを見ます。カントール集合の長さは次のとおり。

ところが です。、 と割れば でも なので、 が成り立ちます。

原子を持たないのに特異。この 2 つが同居している点が、特異連続という名前の由来です[3]。

カントール関数は絶対連続でない

は連続で単調増加、しかもほとんどいたるところ微分可能で です[2]。踊り場が長さの全部を占めるため。

導関数を積分しても元に戻りません。

微積分学の基本定理が破れています。連続で単調でも、絶対連続でなければ導関数から関数を復元できない。

はほとんどいたるところ を満たしながら、 から まで上がりきります。増加が起きているのは長さ のカントール集合の上だけ。

悪魔の階段と呼ばれる形。増加のすべてが、測度 の集合に押し込められている。

例:3 つの成分をすべて持つ測度

の上に、3 つを均等に混ぜた測度を作ります。

ルベーグ測度を基準にした分解は、そのまま項ごとに読めます。

成分正体 との関係
絶対連続部分
離散部分
特異連続部分

ルベーグ分解では、下の 2 つがまとめて になります。密度は 。

分布関数から成分を読む

上の有限測度は、分布関数 で表せます。3 つの成分が、 の 3 種類の振る舞いに対応する。

離散部分は の跳びに出ます。跳びの高さがその点の質量。
絶対連続部分は の絶対連続な増え方に出ます。導関数が密度。
特異連続部分は の連続で微分係数がほとんど の増え方に出ます。

跳び、なめらかな増加、悪魔の階段。この 3 つで 上の測度は言い尽くせます。

逆から見ると、単調増加関数の増え方は 3 種類しかないことになります。分解の一意性が、そのまま増え方の分類になっている。

確率論では、離散分布と連続分布という 2 分法をよく使います。厳密には 3 つ目があり、それがカントール分布のような特異連続分布です。ふつうの応用で出てこないだけで、存在しないわけではありません。

カントール測度 について、正しい記述はどれですか。

  • 原子を持つので離散測度である
  • 原子を持たず、それでもルベーグ測度に特異である
  • ルベーグ測度に絶対連続で、密度が存在する
  • 全測度が なので零測度と一致する
__RESULT__

各点の測度は なので原子はありません。ところが長さ のカントール集合に総量 が乗るので、ルベーグ測度に特異です。この組み合わせを特異連続と呼びます。

よくある誤り

特異なら離散だと思う。カントール測度は原子を持たない特異測度です
分解が 2 通り以上あると思う。絶対連続かつ特異なら零測度なので、一意に決まります
でも でもない測度はないと思う。混ざった測度のほうがふつうです
特異部分に密度があると思う。密度で書けるのは絶対連続部分だけです
が概収束の意味で成り立てば が定数だと思う。カントール関数が反例です
カントール集合が可算だと思う。長さは でも濃度は連続体です
有限性を落としてよいと思う。ラドン・ニコディムと同じく、ここでも仮定に入ります
特異という言葉が病的な例だけを指すと思う。点質量も特異で、確率論では日常的に現れます

参考文献

Lebesgue's decomposition theorem. Wikipedia(英語).
Cantor function. Wikipedia(英語).
Singular measure. Wikipedia(英語).
Zerlegungssatz von Lebesgue. Wikipedia(ドイツ語).
Théorème de Radon-Nikodym. Wikipédia(フランス語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
基準の測度から見ると、どんな測度も絶対連続な部分と特異な部分に一意に分かれます。絶対連続かつ特異なら零測度、この一行が一意性の全部。密度で吸えるだけ吸って、吸い残しが特異部分になる。特異部分はさらに離散と特異連続に割れ、後者の代表がカントール測度です。長さ $0$ の集合に総量 $1$ が乗り、分布関数は連続なのにほとんどいたるところ微分係数が $0$ になる。悪魔の階段と呼ばれる形です。