積分を先に決めて測度をあとから取り出す - ラドン測度とリースの表現定理
積分は関数に数を返す写像です。線形で、非負の関数には非負の値を返す。この 2 つの性質だけを持つ写像を集めると、そこに現れるのは測度による積分だけでした[1]。
局所コンパクトハウスドルフ空間 の上で、コンパクト台の連続関数 に対する正線形汎関数は、すべてこの形に書けます。しかも は一意。
リース・マルコフ・角谷の表現定理と呼ばれます。測度を先に作らずに、積分の側から測度をとり出す道が開けます。
測度論はふつう、集合の大きさを決めてから積分を作ります。この定理はその順序を逆にできると言っている。積分のほうが基本的な概念だという見方が、ここから開けます。
ラドン測度
定理に現れる は、ただのボレル測度ではありません。3 つの条件を満たすものをラドン測度といいます[2]。
位相と測度をつなぐ条件です。開集合とコンパクト集合という位相の言葉で、測度の値が決まる。
ルベーグ測度、ディラック測度、局所コンパクト群のハール測度、ポーランド空間上の確率測度は、どれもラドン測度です。
上の数え上げ測度は違います。コンパクト集合の測度が有限になりません[2]。

正線形汎関数
が線形で、 ならいつでも となるとき、正線形汎関数といいます。
有界性は仮定しません。正であることから、コンパクト集合ごとの有界性が自動的に出るためです。
積分がこの条件を満たすことは明らか。定理の中身は逆向きで、条件を満たすものが積分しかないという主張です。
定理と一意性
を局所コンパクトハウスドルフ空間、 を 上の正線形汎関数とします。このときボレル測度 が存在して、すべての で次が成り立ちます[1]。
正則性を課さないと は一意になりません。内部正則なものがちょうど 1 つ、準正則なものがちょうど 1 つ存在する、という形で述べます[3]。
正則性は、測度を位相に縛りつけるための条件です。縛らないと、連続関数からは見えない差を持つ測度が入り込みます。
証明の骨格
開集合から測度を作ります。 が開なら、 の中に台を持つ関数での上限をとる。
一般の集合には、外側の開集合による下限で値を与えます。これが外測度になることを確かめ、カラテオドリの条件でボレル集合が可測だと示す。
最後に を、単関数による近似で確かめます。外測度から測度を作る流れは、ルベーグ測度の構成と同じ型です。
例:ディラック測度は評価汎関数
と定めます。線形で、非負関数には非負の値を返すので正線形汎関数です。
定理から測度が出るはずで、それが です。
点で値を読むという操作が、測度による積分として書き直されました。物理でデルタ関数と呼ばれるものの正体です。
例:積分からルベーグ測度を作る
の上で、リーマン積分を汎関数と見ます。連続関数のリーマン積分は初等的に定義できます。
正線形汎関数なので、定理からラドン測度 が出ます。これがルベーグ測度です[3]。
直方体の体積から外測度を作る道筋を通らずに、測度が手に入りました。積分を先に、測度を後に作る順序です。
平行移動不変性も汎関数の側で確かめられます。 が成り立てば、対応する測度も平行移動不変。
直方体の体積を決め、外測度を作り、カラテオドリで測度にする
連続関数の積分を決め、表現定理で測度をとり出す
の双対空間
正でない汎関数まで広げると、符号付き測度が出てきます。無限遠で消える連続関数の空間 を考えます。
その上の有界線形汎関数は、全変動有限な正則符号付きボレル測度と 1 対 1 に対応します[1]。
汎関数のノルムが、測度の全変動ノルムにぴったり一致します。符号付き測度の全変動を定義した意味が、ここで回収される形。
複素数値の場合も同じで、複素測度が対応します。
測度の弱 収束
双対空間として見ると、測度に弱 位相が入ります。 とは、すべての で積分が収束すること。
確率論で分布収束と呼ぶものです。測度そのものの近さではなく、連続関数で見たときの近さを測ります。
2 つの数値が近づいていきます。密度は各点では発散するのに、汎関数として見れば行き先がある。弱 収束が拾っているのはこの近さです。
歴史
フリジェシュ・リースが 1909 年に の連続関数について示しました[1]。当時はスティルチェス積分の形で述べられています。
アンドレイ・マルコフが 1938 年に一部の非コンパクト空間へ、角谷静夫が 1941 年にコンパクトハウスドルフ空間へ広げました。3 人の名前が並ぶのはこのためです。
quiz で確かめる
上の正線形汎関数について、表現定理が言うことはどれですか。
- 汎関数は有界だが、対応する測度は一般に存在しない
- ラドン測度による積分としてただ 1 通りに書ける
- 対応する測度は存在するが、正則性を課しても一意にならない
- コンパクト空間でしか成り立たない











局所コンパクトハウスドルフ空間で成り立ちます。正則性を課さないと一意になりませんが、内部正則なものは 1 つに決まります。