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平均してから曲げるか、曲げてから平均するか、イェンセンの不等式

平均をとってから曲げるのと、曲げてから平均をとるのでは、値が変わります。曲げ方が凸なら、順番の違いはいつも同じ向きに出ます[1]

が確率測度、 が凸関数のときに成り立つ形です。ヨハン・イェンセンが 1906 年に示しました。

証明は 1 本の直線で終わります。凸関数の下に接する直線を引き、両辺を積分するだけ。相加相乗平均もヘルダーの不等式も、この 2 行から出てきます。

凸関数と支持直線

が凸であるとは、グラフの 2 点を結ぶ弦がいつもグラフの上にあることをいいます。

同値な言い方として、どの点 にも支持直線が引けます。傾き をうまく選べば、次がすべての で成り立つ。

微分できる点では 、折れている点では左右の微分係数の間から選びます。凸関数はどの内点でも左右の微分係数を持つので、直線は必ず引ける。

赤い点が青い点より上にあり続けます。広がりを にすると重なる。ここが等号の起きる場所です。

不等式の証明

と置きます。 が確率測度なので、 の平均です。

支持直線の不等式を に当てます。

両辺を で積分します。右辺の第 2 項は なので消えます。

最後で を使いました。証明はここまで。凸性を支持直線に翻訳した時点で、話が終わっています。

有限個の点に対する形は、帰納法でも示せます。イェンセン自身の証明のほか、オットー・ヘルダーが 1889 年に 2 階微分できる場合について先に示した筋道も残っています[2]

確率測度でないと崩れる

を落とすと成り立ちません。 にルベーグ測度を入れ、 とします。

左辺のほうが大きくなり、不等号が逆です。全測度が でないと、 の項が邪魔をします。

一般の有限測度なら、 で割って確率測度に直してから使う。

例:分散が非負であること

確率空間で を当てます。

移項すると分散の非負性そのもの。イェンセンの不等式は、分散が 以上であることの一般化だと読めます。

例:指数関数

は凸なので、次が成り立ちます。

統計力学で自由エネルギーの評価に使われる形です。左辺と右辺の差がゆらぎの大きさを表します。

例:相加相乗平均

で凸です。二階微分が だから。

重み に対して不等式を当てます。

両辺の符号を変えて指数をとると、重み付きの相加相乗平均が出ます。

とすれば見慣れた形。凸関数を 1 つ選ぶだけで導けます[3]

等号条件

が狭義凸なら、等号が成り立つのは が概収束の意味で定数のときに限られます[3]

支持直線の不等式が、 となる点で狭義に成り立つため。そこが正の測度を持てば、積分に差が残ります。

狭義でない凸関数では話が変わります。 の値域で 1 次式なら、定数でなくても等号が立つ。

狭義凸

等号は が定数のときだけ。 がこの型

凸だが狭義でない

値域の上で 1 次なら等号。 を正の値だけで見る場合など

例:有限測度上の の包含

とし、 とします。 なので凸です。

に当てると次が出ます。

両辺を 乗して 。確率空間では、 が大きいほど空間が小さくなります。

無限測度では成り立ちません。全測度が であることを使っているからです。

例:情報量が非負であること

2 つの確率測度 について、カルバック・ライブラー情報量を次で定めます。

の凸性から が出ます。 について積分し、 を使う形。

等号は のときだけ。情報量が距離らしく振る舞う根拠が、イェンセンの不等式にあります。

条件付きの形

条件付き期待値についても同じ不等式が成り立ちます。

概収束の意味での不等式です。マルチンゲールに凸関数を当てると劣マルチンゲールになる、という事実がここから出ます。

凹関数では向きが逆になる

が凹なら が凸なので、不等号が反転します。

、有界な効用関数などが凹です。経済学でリスク回避を表すときは、この向きを使います。

確率空間の上で を凸関数とするとき、いつでも成り立つのはどれですか。

  • が単調増加のときにかぎり不等号が立つ
__RESULT__

曲げてから平均するほうが大きくなります。等号は が狭義凸なら が定数のときだけ。単調性は関係しません。

よくある誤り

不等号の向きを逆に覚える。曲げてから平均するほうが大きくなります
確率測度でなくても成り立つと思う。全測度が であることを使っています
凹関数でも同じ向きだと思う。凹なら不等号が反転します
等号が の性質だけで決まると思う。狭義凸なら が定数であることが要ります
支持直線が微分可能な点にしか引けないと思う。折れ点でも左右の微分係数の間から選べます
の包含が無限測度でも成り立つと思う。有限測度が要ります
条件付き期待値では使えないと思う。概収束の意味で同じ形が成り立ちます
凸性を 2 階微分でしか確かめられないと思う。弦がグラフの上にあることが定義です

参考文献

Jensen's inequality. Wikipedia(英語).
Jensensche Ungleichung. Wikipedia(ドイツ語).
Inégalité de Jensen. Wikipédia(フランス語).
凸関数なら順番の違いはいつも同じ向きに出て、曲げてから平均したほうが大きくなります。証明は支持直線を 1 本引いて積分するだけ。$1$ 次の項が消えて $\varphi(x_0)$ が残ります。$\varphi(x) = x^2$ なら分散の非負性、$-\log$ なら相加相乗平均、$t^{r/p}$ なら確率空間での $L^p$ の包含が出てくる。全測度が $1$ でないと不等号が逆を向くので、有限測度では割ってから使います。