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重なった球から交わらないものを選ぶ|ヴィタリの被覆補題と極大関数

重なり合う球の集まりから、交わらないものだけを選び出す。選んだ球を 3 倍にふくらませると、もとの全部が覆えます[1]。

覆う量は 倍までしか増えません。重なりを数えずに全体の測度を押さえられるので、微分定理の証明がここから動き出します。

もう一つの道具が極大関数です。点のまわりで平均をとり、半径を動かして上限をとったもの。この 2 つを組み合わせると、ハーディ・リトルウッドの不等式が出ます[2]。

有限版の被覆補題

の開球を有限個 とします。このとき交わらない部分族 が選べて、次が成り立ちます[5]。

ジュゼッペ・ヴィタリが 1908 年に示した被覆定理に名前が由来します[3]。証明は貪欲な選び方そのもの。

証明:大きいものから選んで交わるものを捨てる

いちばん半径の大きい球を とし、それに交わる球をすべて捨てます。残りからまた最大の球を選び、同じことを繰り返す。

球が尽きたところで止めれば、選んだ族は互いに交わりません。捨てた球は、そのとき選んだ球より半径が小さく、かつ交わっています。

半径 の球に交わる、半径 以下の球は、もとの球を 3 倍にふくらませた中に丸ごと入る。中心どうしの距離が 以下だからです。

次元で半径を 3 倍にすると体積は 倍になります。これが定数の正体。

薄い青の帯が、捨てた灰色の球をすべて飲み込んでいます。選んだ球だけで測度を数えても、 倍を見込めば足りる。

無限版では 5 倍になる

球が無限個あるときは、半径に上限があれば可算個の交わらない部分族がとり出せます[4]。ただし定数は 3 ではなく 5 になります。

最大の半径が存在しないため、上限の より大きい球を選ぶという妥協が要る。そのぶん、ふくらませる倍率が上がります。

有限版では 3 より大きい定数ならどれでも成り立ちますが、3 ちょうどは成り立ちません[1]。

極大関数の定義

局所可積分な に対し、極大関数 を次で定めます[2]。

を中心とする球で の平均をとり、半径を全部試して上限をとる。ゴッドフリー・ハーディとジョン・リトルウッドが 1930 年に導入しました。

球の代わりに立方体を使っても本質は変わりません。ただし細長い長方形は使えない。縦横比を無制限に伸ばすと、体積が に縮んでも平均が値に近づかないためです。

概収束の意味で等しい 2 つの関数は、同じ極大関数を持ちます。

例:区間の指示関数

を で考えます。 なら半径を に近づけて平均が になるので、。

では、区間に届く半径のうち が最良になります。平均は次の値。

もとの は で なのに、 は になりません。遠くでも の速さでしか落ちない。

極大関数は下半連続

の可測性は、集合 が開集合であることから出ます[5]。

なら、ある半径 で平均が を超えます。少し大きい を選んでも、まだ を超えるようにできる。

を満たす に対して が成り立ち、平均の評価が引き継がれます。よって も に入る。

開集合の逆像で書けるので、 はボレル可測です。上限をとる操作が可測性を壊さない、めずらしい形。

極大関数は可積分にならない

が零関数でなければ、 は に入りません[2]。遠方での減衰が遅すぎます。

のとき、半径 の球は原点まわりの を含みます。そこから次の下からの評価が出る。

は遠方で可積分ではありません。 が可積分なら右辺の積分がすべての で になり、 が従います。

例:局所可積分ですらない場合

もっと悪い例もあります。 で 、それ以外で と定めます。

置換 で確かめると です。ところが で次の評価が立ちます[5]。

右辺は原点の近くで可積分ではありません。可積分な関数の極大関数が、局所可積分ですらなくなる。

弱 という逃げ場

は に入りませんが、そこまで悪いわけでもありません。行き先が弱 です[5]。

このような定数 が によらずとれる関数の全体を弱 といいます。大きい値をとる集合が、 の速さで痩せていく条件。

の関数は必ず弱 に入ります。チェビシェフの不等式がそれを言う。

証明は 1 行です。 の上で なので、。

例:逆は成り立たない

を で考えます。 となるのは のときなので、測度はちょうど 。

弱 の条件を満たしています。ところが は可積分でも局所可積分でもない。

弱 は より真に広い空間です。極大関数がちょうどこの隙間に落ちます。

積分そのものが有限。強い条件で、極大関数は入らない

弱

大きい値をとる集合が で痩せる。極大関数の行き先はここ

ハーディ・リトルウッドの最大不等式

に対して、次元だけで決まる定数 がとれて、すべての で成り立ちます[5]。

弱 型の評価と呼ばれます。極大関数がどれだけ大きくなっても、大きい値をとる場所の量は ノルムで抑えられる。

なら、もっと強い評価が成り立ちます。 は から への有界作用素になり、次元によらない定数がとれることまで知られています[2]。

証明

と置きます。ルベーグ測度の内部正則性から、コンパクト部分集合 について示せば足ります。

のそれぞれに、平均が を超える開球 がとれます。 はコンパクトなので、有限個の で覆えます。

ここで被覆補題を使い、交わらない部分族 を選びます。

選んだ球は交わらないので、右端の和は で押さえられます。 で主張が出ました。

被覆補題がしているのは、重なりを数える手間の肩代わりです。重なったまま足すと同じ質量を何度も数えますが、交わらない族に落とせばその心配が消えます。

可積分な関数 の極大関数 について、正しいものはどれですか。

  • も可積分になる
  • は有界になる
  • は可積分ではないが、弱 には入る
  • は が連続なときだけ可測になる
__RESULT__

遠方で の速さでしか落ちないので積分は発散します。それでも大きい値をとる集合の測度は で痩せ、ハーディ・リトルウッドの不等式がその減り方を保証します。

よくある誤り

被覆補題の定数が 3 だと思う。覆えるのは 3 倍にのばした球で、測度は 倍まで増えます
有限版と無限版で定数が同じだと思う。無限版では 5 倍が要ります
極大関数が可積分だと思う。零関数でないかぎり には入りません
極大関数が局所可積分だと思う。 が反例です
弱 が に含まれると思う。包含は逆で、 が差を見せます
極大関数の定義に細長い長方形を使ってよいと思う。縦横比を抑えないと平均が値に戻りません
上限をとると可測性が壊れると思う。 は下半連続なのでボレル可測です
でも強い評価が成り立つと思う。 でだけ 有界になります

参考文献

Vitali covering lemma. Wikipedia(英語).
Hardy–Littlewood maximal function. Wikipedia(英語).
Überdeckungssatz von Vitali. Wikipedia(ドイツ語).
Lemme de recouvrement de Vitali. Wikipédia(フランス語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
有限個の球から交わらないものを貪欲に選ぶと、3 倍にのばしただけでもとの全部が覆えます。測度が増えるのは $3^n$ 倍まで。この一手で、重なりを数えずに全体を押さえられる。もう一方の主役が極大関数で、点のまわりの平均を半径について上限まで持ち上げたものです。可積分な関数から作っても $L^1$ には入らず、行き先は弱 $L^1$ になる。2 つを合わせるとハーディ・リトルウッドの最大不等式が出ます。