グラフをたどった上下の総距離 - 有界変動関数とジョルダンの分解
関数のグラフを左から右へたどるとき、上下に動いた距離の合計を測ります。これが有限にとどまる関数を有界変動といいます[1]。
上限は の分割 全部にわたってとります。分割を細かくすると和は減らないので、上限は単調な増え方の行き先。
カミーユ・ジョルダンが 1881 年に、フーリエ級数の収束条件を広げるために導入しました[3]。単調でない関数を、単調な 2 つの差として扱う道が開けます。
分割を細かくすると和は増える
分割に点を 1 つ足すと、三角不等式から和は減りません。
細分するほど和が上がっていくので、上限は「細かくしきったときの値」にあたります。有界変動とは、その行き先が無限大にならないこと。
数値が単調に上がって、ある値の手前で落ち着きます。落ち着く先が全変動。
例:単調関数はいつでも有界変動
が で単調増加なら、どの分割でも差の絶対値は そのものです。和は望遠鏡のように潰れます。
分割によらず同じ値なので、。単調な関数は、有界変動のいちばん素朴な例になります。
例:リプシッツ関数
を満たすなら、和は区間の長さで押さえられます。
上限も 以下です。導関数が有界な 関数はここに入ります。
全変動関数を作る
右端を動かして と定めます。区間を継ぎ足せば変動も足されるので、 は単調増加。
さらに も単調増加です。 のとき が成り立つため。
ジョルダンの分解定理
前の節の 2 つを組み合わせると、分解が書けます[1]。
も も単調増加なので、右辺は増加関数の差です。逆に増加関数の差はいつでも有界変動になる。
つまり有界変動であることと、2 つの単調増加関数の差に書けることは同値です。符号付き測度をジョルダン分解したのと、まったく同じ形をしています。

不連続点は可算個しかない
単調関数の不連続点は跳びだけで、しかも可算個です。跳びの高さの総和が有限だから、大きい跳びは有限個しかありません。
有界変動は単調関数の差なので、この性質を引き継ぎます[1]。振動して収束しないような不連続は起こりえない。
跳びの高さを全部足すと、全変動を超えません。跳びが可算個という結論は、そこから出ます。
ほとんどいたるところ微分可能
ルベーグの定理により、単調関数はほとんどいたるところ微分可能です。有界変動もその差なので、同じ結論を引き継ぎます[2]。
微分可能な点の集合の外は零集合。ただし導関数を積分しても、もとの関数に戻るとはかぎりません。
有界変動なら必ず成り立つ。カントール関数も満たす
もっと強い条件が要る。カントール関数では成り立たない
例: は有界変動でない
で 、 と定めます。連続ですが、原点の近くで振動が減りません。
を分割点にとると、 で符号が交互に変わります。差の和は次のように下から押さえられる。
右辺は調和級数と同じ速さで発散します。振幅の減り方が では追いつきません[2]。
なら導関数が有界になるので、有界変動です。振幅を 1 段強く減らせば救われる。
例:微分可能でも有界変動とはかぎらない
で 、 とします。 から原点でも微分可能です[3]。
では なので 、その隣の零点では 。上下の往復が ずつ積み上がります。
各点で微分できても、動いた距離は無限になりうる。微分可能性と有界変動は、どちらも相手を含みません。
例:カントール関数は有界変動
カントール関数 は単調増加なので、 です[4]。有界変動の条件はあっさり満たします。
それでも が概収束の意味で成り立ち、導関数の積分は 。有界変動であることは、微積分学の基本定理を保証しません。
有界変動より強い条件が要る、という事実がここで見えます。
演算で閉じる
有界変動な関数の和、差、積はまた有界変動です[3]。分母が から離れていれば商も入ります。
全変動には劣加法性が成り立ちます。
をノルムにすると、 はバナッハ空間になります[1]。可分ではありません。
ルベーグ・スティルチェス測度との対応
右連続な有界変動関数 から、区間の測度を で定めると符号付き測度が作れます。
逆に有限符号付き測度から と置けば、右連続な有界変動関数が得られる。両者は 1 対 1 に対応します[1]。
しかも の全変動と、符号付き測度 の全変動 が一致します。名前が同じなのは偶然ではありません。
| が単調増加 | が正測度 |
| が跳ぶ | が原子を持つ |
| が絶対連続 | |
| がカントール関数 | が特異連続 |
quiz で確かめる
上の関数について、有界変動であるものはどれですか。
- 、
- カントール関数
- 、
- 有理数で 、無理数で をとる関数











カントール関数は単調増加なので全変動は 1 です。1 番目と 3 番目は原点の近くの振動で発散し、4 番目はどの区間でも上下に跳び続けるので発散します。