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座標を替えたぶんだけ体積が伸び縮みするのを測るヤコビアン

座標をとり替えると、体積の測り方も変わります。変わり方を 1 つの数で表したものがヤコビアンです[2]

はヤコビ行列で、 が各点での体積の伸び率を表します。絶対値を付けるところが要。

出発点は線形写像の場合です。そこで が出る理由が分かれば、あとは局所的に線形で近似するだけになります。

線形写像は測度を 倍にする

を線形写像とすると、任意の可測集合について次が成り立ちます。

が可逆でなければ で、像は次元の低い部分空間に落ちます。測度 になるので両辺が合う。

可逆な場合は、 を基本変形の積に分解して確かめます。拡大は 1 方向だけ倍にし、せん断は面積を変えず、置換は符号だけを変える。

どれも の値と一致します。絶対値が要るのは、向きの反転を測度が区別しないためです。

行列式が負に落ちる瞬間があります。それでも面積は正のまま。測度は向きを区別しないので、絶対値が要ります。

一般の変数変換公式

の開集合、 級の微分同相写像とします。このとき非負可測関数 について次が成り立ちます[3]

可積分な についても同じ形。 次元では置換積分そのものになりますが、絶対値が付く点だけが違います。

次元の置換積分では、積分区間の向きが符号を吸収していました。多次元では区間の向きという概念がないので、絶対値が表に出ます。

仮定はどこまで緩められるか

微分同相という仮定は強すぎます。実際には次のところまで緩められます[1]

が単射であること。ただし零集合の上では破れてよい。
級であること。ヤコビアンが定義できればよい。
であること。これも零集合の上では破れてよい。

極座標変換が原点と半直線で単射でなくなるのに使えるのは、その部分が零集合だからです。

零集合を除いてよい、という但し書きは測度論だから書けるもの。リーマン積分の枠では、こう簡単には済みません。

証明の骨格

線形の場合を認めたうえで、局所化して積を作ります。

線形写像で 倍になることを示す

を各点で線形近似する

細かい立方体に分けて誤差を評価する

極限をとって積分の等式にする

単関数から可測関数へ持ち上げる

各段で使うのは、 級だから近似が一様に効くという事実だけです。オイラーが 1769 年に使い始め、厳密な証明が固まるまで 100 年以上かかりました[1]

例:極座標

のヤコビ行列を書きます。

行列式は です。面積要素が になる理由がここにあります。

原点では でヤコビアンが消えますが、1 点なので零集合。 の端でも単射性が破れますが、こちらも零集合です。

例:ガウス積分

この計算で、変数変換がいちばん鮮やかに効きます。2 次元の積分を極座標に直す。

ヤコビアンから出た が、 の原始関数を作ってくれます。これがなければ手が出ません。

一方でこの積分は に分離するので、 に等しい。両辺を比べて次を得ます。

変数では初等的に解けない積分が、 変数にして座標を替えると解ける。ヤコビアンが 次元では作れない因子を用意しています[3]

例:楕円を円に直す

は線形なのでヤコビアンは定数 です。単位円板が楕円に写ります。

楕円の面積の公式が、線形変換の場合だけで出ました。積分を計算する必要がありません。

単射でない場合

が単射でないと、像を何度も数えることになります。重複度を掛けた形に直せば等式が保てます。

は原像の個数です。面積公式と呼ばれる形で、幾何学的測度論の出発点になります。

で考えると、正の の原像は 2 個。この 2 が右辺に現れます。

リプシッツ写像まで緩められる

級を外して、リプシッツ写像でも成り立ちます[1]。ラーデマッハーの定理から、リプシッツ写像はほとんどいたるところ微分可能だからです。

微分できない点は零集合なので、ヤコビアンが定義できない場所は積分に効きません。仮定を緩めても結論が保たれる、測度論らしい流れ。

この形が、 の中の曲面上の積分を定義するときの土台になります。

測度の押し出しとして読む

変数変換の公式は、押し出し測度の言葉でも書けます。 の押し出しとすると、密度がヤコビアンの逆数になる。

ラドン・ニコディム微分として読み直した形です。座標変換とは、測度を別の測度へ移す操作にほかなりません。

の変数変換について、正しい記述はどれですか。

  • ヤコビアンには絶対値を付けない
  • ヤコビアンの絶対値を掛け、単射性は零集合の上で破れてよい
  • 微分同相でなければ公式はまったく使えない
  • 次元の置換積分にも絶対値が要る
__RESULT__

多次元では区間の向きがないので、符号を絶対値で吸収します。極座標が原点と端で単射でなくなっても使えるのは、その部分が零集合だからです。

よくある誤り

ヤコビアンの絶対値を忘れる。符号をそのまま残すと答えの符号が反転します
次元の置換積分と同じ形だと思う。多次元では絶対値が要ります
極座標で を落とす。面積要素は です
単射性が全域で要ると思う。零集合の上では破れてかまいません
の点があると使えないと思う。零集合なら影響しません
線形の場合が特別だと思う。一般の場合はそこから作られます
級でないと成り立たないと思う。リプシッツ写像まで緩められます
単射でないと公式が壊れると思う。原像の個数を掛ければ等式が保てます

参考文献

Integration by substitution. Wikipedia(英語).
Jacobian matrix and determinant. Wikipedia(英語).
Transformationssatz. Wikipedia(ドイツ語).
線形写像は測度をちょうど $|\det T|$ 倍にします。一般の変数変換は、各点で線形近似してこの倍率を積分に掛けたもの。絶対値が付くのは、多次元には区間の向きがなく、測度が向きの反転を区別しないからです。極座標のヤコビアンが $r$ になるからこそ、ガウス積分が解ける。単射性やヤコビアンが消えないという仮定は、零集合の上でなら破れてかまいません。リプシッツ写像まで緩めても公式は保たれます。