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重なりを許さない単射、すきまを許さない全射と逆写像

単射は「行き先が重ならない」、全射は「行き先を余らせない」。写像 を、矢印の出方と届き方の 2 方向から見た条件です。

どちらも の計算規則だけでは決まりません。 と をどう選んだかで、同じ が単射になったり全射になったりする[1]。

単射は行き先が重ならない

が単射であるとは、 のどの元にも、矢印が高々 1 本しか届かないことをいいます。

証明では対偶のほうを使います。 から を導く形[3]。

なら から が出ます。単射です。

全射は行き先を余らせない

が全射であるとは、 のどの元にも、矢印が少なくとも 1 本は届くことをいいます。

言いかえると 。像が終域と一致するという条件です。

単射は「重なりを禁じる」、全射は「余りを禁じる」。禁じている場所が の同じ元に対する矢印の本数の上と下で、ちょうど裏返しになっています。

単射

の各元に届く矢印は 1 本以下。0 本があってよい

全射

の各元に届く矢印は 1 本以上。2 本以上があってよい

両方を満たすと、どの元にもちょうど 1 本。これが全単射です。

矢印の本数で見分ける

下の図は 4 通りの写像を順に映します。緑が矢印の届いた元、灰色が余った元、橙が矢印を 2 本以上集めた元です。

の各元からは必ず 1 本ずつ矢印が出ます。写像の定義がそれを要求するので、判定に使うのは 側だけ。

例:矢印で数える

、 とし、、、 と定めます。

重なりはないので単射。ところが に矢印が届かないので全射ではありません。

矢印の本数を全部足すと になる。 で なら、届く元は多くても 3 個なので、全射になりようがありません。

定義域と終域まで込みで写像

写像を決めるには、計算規則のほかに定義域と終域が要ります。この 3 つのうち 1 つでも違えば、別の写像です[1]。

「 は単射ですか」という問いには答えられません。どこからどこへの写像かが決まっていないためです。

という同じ計算規則でも、定義域と終域の選び方で 4 通りの写像になります。

単射か、全射か、全単射か、どちらでもないか。4 つの答えがすべて現れる。

横線を引いて確かめる

実数上の写像なら、グラフに横線を引くだけで判定できます。高さ の横線とグラフの交点の個数が、 に届く矢印の本数です。

の横線は 2 回交わるので単射が壊れ、 の横線は交わらないので全射が壊れます。壊し方が別々なところが要点。

例: は 4 通りに化ける

定義域と終域を と で切り替えると、 の性質が 4 通りに分かれます[1]。

左は放物線が両側に伸びるので、同じ高さに 2 点が乗る。右は右半分だけを使うため、高さと点が 1 対 1 に対応します。

定義域と終域単射全射
いいえいいえ
はいいいえ
いいえはい
はいはい

定義域を狭めると単射に近づき、終域を狭めると全射に近づく。効く向きが逆です。

例:指数関数

を と見ると、狭義単調増加なので単射。ただし負の値をとらないので全射ではありません。

終域を にとりかえると全射になり、全単射に変わります。逆写像は 。

対数が定義できる理由がここにあります。 のままでは逆写像が作れません。

全単射と逆写像

が全単射なら、各 に対して となる がちょうど 1 つ決まります。

その を と書くと が定まる。これが逆写像です[2]。

逆写像も全単射で、 が成り立ちます。

片側だけの逆写像

全単射でなくても、片側だけなら逆が作れることがあります[2]。

となる を左逆写像、 となる を右逆写像と呼びます。

が単射

左逆写像がある

単射なら から が復元でき、余った は適当な一点へ送ればよい。逆に左逆があれば から が出ます。

全射のほうは右逆写像に対応します。ただし各 に対して行き先の候補から 1 つずつ選ぶので、無限集合では選択公理が要る[2]。

合成すると受け継がれる

と を合成した について、次が成り立ちます。

と がどちらも単射なら、 も単射。
と がどちらも全射なら、 も全射。
と がどちらも全単射なら、 も全単射。

逆向きは成り立ちません。 が単射でも が単射とは限らず、言えるのは が単射だということだけ[2]。

有限集合では個数が効く

と が有限集合のとき、単射があれば 、全射があれば が従います。

なら単射は作れません。鳩の巣原理と呼ばれる言い分と同じ内容です。

そして のときは、単射と全射が同値になる。有限だからこそ言える性質です。

無限集合では単射と全射がずれる

、 を考えます。単射ですが、 に届く矢印がないので全射ではありません。

自分自身への単射でありながら全射でない写像を持つこと。これが無限集合の特徴づけの 1 つです[2]。

、 は全単射なので、偶数全体は と同じ濃度。部分なのに減っていません。

、 について正しいのはどれですか。

  • 単射だが全射でない
  • 全射だが単射でない
  • 全単射
__RESULT__

なので、同じ値に 3 点が届いており単射ではありません。3 次関数は で に発散し、連続なので中間値の定理からすべての実数値をとります。よって全射です。

よくある誤り

「グラフが右上がりなら単射」は正しくありません。 は定義域のどの区間でも増加しますが、 なので単射ではない。増加が言えるのは区間ごとで、定義域全体ではないためです。

「 を示せばよい」と書いて、実際には しか示していない答案も多い。示すべきは のほうです。

の記号も混乱のもとです。全単射のときの逆写像と、集合の逆像 は別物で、逆像のほうは単射でも全射でなくても定義できます。

矢印の本数が多くても少なくても困る。多いほうを禁じるのが単射、少ないほうを禁じるのが全射という 2 方向で覚えると、判定の手が止まりません。

参考

Yannick Viossat. *Chapitre 3 : Applications*. Algèbre 1, Université Paris-Dauphine, 2010-2011.
Stephen New. *Injective and Surjective Functions and Cardinality*. MATH 147 Lecture Notes, University of Waterloo.
Injection. Encyclopedia of Mathematics.
終域の元に矢印が何本届くかを数えると、単射は 1 本以下、全射は 1 本以上。禁じている側が上と下で裏返しになっています。だから同じ $x \mapsto x^2$ でも、$\mathbb{R} \to \mathbb{R}$ なら両方とも崩れ、$\mathbb{R}_{\geq 0} \to \mathbb{R}_{\geq 0}$ なら全単射になる。計算規則だけでは決まらず、定義域と終域まで込みで写像です。横線テストで交点を数える見分け方、$e^x$ の終域を狭めて $\log$ が現れる仕組み、左逆と右逆、有限集合での個数の効き方、そして無限集合で単射と全射がずれるところまで。