複素数の三角不等式(和の絶対値が膨らまない仕組み)
複素数 , を足したとき、和の絶対値はそれぞれの絶対値の和を超えません。
三角不等式と呼ばれる関係で、三角形の 2 辺の長さの和が残りの 1 辺より短くならない、という事実がそのまま式になっています。
複素数平面に置くと意味がはっきりする。 を原点から矢印で伸ばし、その先端から を継ぐと、継いだ先が です。原点からその先端まで、まっすぐ引いた線より短い道はない。
の向きが変わっても、先端は を中心とする半径 の円をなぞります。原点から最も遠くなるのは、 と が同じ向きに並んだ瞬間。
展開して押さえる
図で納得できても、式で確かめておくと応用が利きます。絶対値は 2 乗して に直すと扱いやすくなる。
真ん中の 2 項は互いに共役なので、足すと実部の 2 倍になります。
実部が絶対値を超えることはありません。 は、どんな複素数でも成り立つ関係です。これと を合わせると次の形になる。
両辺とも 以上なので、平方根をとって三角不等式が出ます。
上のバーが 、下のバーが です。 と の角度差を から まで開いていくと、下のバーだけが縮んでいく。
等号が立つ場面
証明でゆるめたのは の 1 か所だけです。ここが等号になるのは、 が 以上の実数のとき。
として ( の実数)とおくと、 から次が出ます。
は の 以上の実数倍。2 本の矢印が同じ向きを指す状況です。逆にこのとき等号が成り立つことは、代入すれば確かめられる。
数を入れて確かめる
, で両側を見てみます。, 、和は なので 。
上限がおよそ 、下限がおよそ 、実際の値はおよそ です。きちんと間に収まっている。
向きをそろえた なら で絶対値は 、いっぽう になります。等号が立つ場面。
下から押さえる
上限があれば下限も気になります。三角不等式を裏返すと、こちらが出る。
導き方は使い回しです。 と見て三角不等式を当てると 、つまり になります。
と を入れ替えれば も同じように出る。2 つ合わせて絶対値の形にまとまります。
等号は向きが正反対のとき。さきほどのバーがいちばん短くなった瞬間が、この下限に触れた場面です。
3 つ以上に伸ばす
項が増えても形は変わりません。
2 項の場合を繰り返し当てるだけで示せる。図に直すと、折れ線でたどった道のりと、出発点から到着点へまっすぐ引いた距離の比較になります。
同じ速さで走り出しても、まっすぐ進んだ点のほうが先に着きます。寄り道の合計が 、直線距離が にあたる。下の 2 本のバーが、その差の広がり方です。
級数を押さえる道具になる
三角不等式がいちばん働くのは、無限に足す場面です。各項の絶対値の和が収束していれば、もとの級数も収束する。複素数の級数を扱うときの土台になります。
たとえば ()と押さえられれば、部分和どうしの差が等比数列で抑えられ、収束が言えます。図形の話に見えて、極限の議論を支えているのがこの不等式。










