絶対値のままでは展開できない。2 乗して共役との積に直すと、ふつうの式の計算になる[1]。
∣z∣2=zzˉ
z=a+bi なら zzˉ=(a+bi)(a−bi)=a2+b2。根号が消えて多項式になる[2]。
根号を先に外す
絶対値の入った等式は、両辺を 2 乗してから開く。∣z∣≥0 なので、2 乗しても同値のまま残る。
2 乗した先で zzˉ に置きかえると、z と zˉ の 2 つの文字についての式になる。あとは展開と整理だけ。
例:∣z−α∣2 を展開する
z−α=zˉ−αˉ なので、次のように開ける。
∣z−α∣2=(z−α)(zˉ−αˉ)=zzˉ−αˉz−αzˉ+ααˉ
zzˉ=∣z∣2、ααˉ=∣α∣2 に戻すと、次の形になる。
∣z−α∣2=∣z∣2−αˉz−αzˉ+∣α∣2
z=3+i、α=1+2i で確かめる。左辺は ∣2−i∣2=5。
右辺は 10−(5−5i)−(5+5i)+5=5。合っている。
canvas: 式は呼び出しにそのまま書いてください。この引数は焼けません -> drawMath(… openStep[index] …)
例:∣z∣=2 を式に直す
両辺を 2 乗して ∣z∣2=4、置きかえて zzˉ=4 である。
z=x+yi なら x2+y2=4。原点を中心とする半径 2 の円になる。
複素数のまま扱うなら zzˉ=4 のほうが軽い。x と y に割らずに済む。
例:∣z−1∣=∣z−i∣
両辺を 2 乗して展開する。左は ∣z∣2−z−zˉ+1、右は ∣z∣2+iz−izˉ+1 である。
∣z∣2 と 1 が消えて、−z−zˉ=iz−izˉ が残る。
z=x+yi を入れると、左が −2x、右が −2y になる。よって x=y、直線 y=x である。
1 と i から等距離の点の集合なので、2 点を結ぶ線分の垂直二等分線になっている[4]。
例:∣z−1∣=2∣z∣
2 乗すると ∣z−1∣2=4∣z∣2 である。左辺を開く。
∣z∣2−z−zˉ+1=4∣z∣2
移項して 3∣z∣2+z+zˉ−1=0。z+zˉ=2x、∣z∣2=x2+y2 を入れる。
3(x2+y2)+2x−1=0
3 で割って平方完成すると (x+31)2+y2=94。中心 −31、半径 32 の円である。
x=31 を入れると 31−1=32、231=32 でそろう。
例:余弦定理が出てくる
∣α−β∣2 を同じ手で開く。
∣α−β∣2=∣α∣2+∣β∣2−αβˉ−αˉβ
αβˉ と αˉβ は共役どうしなので、足すと実部の 2 倍になる。
∣α−β∣2=∣α∣2+∣β∣2−2Re(αˉβ)
三角形の 3 辺を結ぶ余弦定理と同じ形である。最後の項が 2∣α∣∣β∣cosθ にあたる。
共役どうしを足すと実数になるのは、虚部が符号違いで打ち消し合うからである。
w+wˉ=2Re(w)。この 1 行が展開の途中でよく効く。
積と商はそのまま分かれる
絶対値は掛け算と割り算を素通りする[3]。
| ∣zw∣ | ∣z∣∣w∣ |
| wz | ∣w∣∣z∣ |
| ∣zn∣ | ∣z∣n |
| ∣zˉ∣ | ∣z∣ |
| ∣z∣2 | zzˉ |
たし算だけは分かれない。∣z+w∣ は ∣z∣+∣w∣ にならないので、和が出たら 2 乗して開くしかない。
例:(1+i)10 の絶対値
展開する必要はない。∣1+i∣=2 なので、10 乗すれば済む。
∣(1+i)10∣=(2)10=25=32
32 である。実際に (1+i)10=32i となり、絶対値が 32 で合う。
例:単位円の上では zˉ=z1
∣z∣=1 なら zzˉ=1。両辺を z で割ると zˉ=z1 になる。
共役を逆数に置きかえられるので、zˉ の入った式が分数式に直せる。単位円上の問題でよく使う手である。
z=21+23i で試す。zˉ=21−23i で、z1 を計算しても同じ値になる。
例:実数であることを示す
w=zˉz の絶対値を求める。∣z∣=∣zˉ∣ なので、比は 1 である[3]。
絶対値が 1 でも実数とは限らない。実数かどうかは w=wˉ で調べる別の話になる。
絶対値は大きさだけの情報で、向きを見ていない。2 乗して展開する手は、大きさの条件にしか使えない。
∣z+2∣=∣z−2i∣ をみたす点の集合はどれか。
__RESULT__
−2 と 2i から等距離の点の集合なので、この 2 点を結ぶ線分の垂直二等分線である。2 乗して開くと 4x+4=−4y+4 となり、y=−x が出る。y=x は 2 と 2i を選んだときの答え、円になるのは片方が原点のときである。
検算
展開の途中では、∣z∣2 の項が消えたかどうかを見る。2 点からの距離が等しい形なら消えて直線、比が 1 でなければ残って円になる。
まちがえやすい点
∣z+w∣ を ∣z∣+∣w∣ に分ける。和では分かれない。
∣z∣2 を z2 と書く。共役を掛けるので zzˉ である。
z−α を zˉ−α とする。α にも共役が付く。
αzˉ と αˉz を同じ項として足す。共役どうしなので、足して実部の 2 倍になる。
∣z∣2 の項が残った式を直線だと決める。残っていれば円になる。
∣w∣2=wwˉ に置きかえる。この 1 手を最初に入れておけば、絶対値の式はすべて z と zˉ の多項式に落ちる。
出典
絶対値のままでは展開できませんが、$|z|^2 = z\bar{z}$ に置きかえると根号が消えて多項式の計算になります。$|z-\alpha|^2$ を開くと $|z|^2-\bar{\alpha}z-\alpha\bar{z}+|\alpha|^2$。$\alpha\bar{z}$ と $\bar{\alpha}z$ が共役どうしなので、足すと実部の 2 倍に落ちます。$|z-1|=|z-i|$ が直線 $y=x$、$|z-1|=2|z|$ が中心 $-\frac{1}{3}$ 半径 $\frac{2}{3}$ の円になる過程を追い、$|z|^2$ の項が消えるかどうかで直線と円が分かれることを見ました。単位円の上では $\bar{z}$ を $\frac{1}{z}$ に置きかえられる。
−2 と 2i から等距離の点の集合なので、この 2 点を結ぶ線分の垂直二等分線である。2 乗して開くと 4x+4=−4y+4 となり、y=−x が出る。y=x は 2 と 2i を選んだときの答え、円になるのは片方が原点のときである。