ド・モアブルの定理は、累乗が偏角を n 倍にすると述べている[2]。
(cosθ+isinθ)n=cosnθ+isinnθ
n が自然数のときは、掛け算の規則をくり返すだけで出る[1]。掛けるたびに偏角が θ 増えるので、n 回で nθ になる。
負の整数まで伸ばせる。ただし分数の指数では、等式の意味が変わる[1]。
積の規則をくり返す
絶対値 1 の複素数どうしを掛けると、偏角が足される。長さは 1 のまま動かない。
(cosα+isinα)(cosβ+isinβ)=cos(α+β)+isin(α+β)
右辺を展開すると、実部が cosαcosβ−sinαsinβ、虚部が sinαcosβ+cosαsinβ になる。三角関数の加法定理そのものである[3]。
同じ数を n 回掛ければ、偏角は θ を n 回足した値になる。これが定理の中身である。
帰納法で示す
n=1 では両辺が cosθ+isinθ で、そのまま成り立つ[1]。
n=k で成り立つと仮定する。k+1 乗を k 乗と 1 個の積に分ける。
(cosθ+isinθ)k+1=(cosθ+isinθ)(cosθ+isinθ)k=(cosθ+isinθ)(coskθ+isinkθ)=cos(k+1)θ+isin(k+1)θ
最後の行で積の規則を 1 回使った。k で成り立てば k+1 でも成り立つので、すべての自然数で成り立つ[1]。
例:2 乗から加法定理が出る
n=2 を入れる。左辺を素直に展開すると次のようになる。
(cosθ+isinθ)2=cos2θ−sin2θ+2isinθcosθ
右辺は cos2θ+isin2θ である。実部どうし、虚部どうしを見比べる。
cos2θ=cos2θ−sin2θ と sin2θ=2sinθcosθ が同時に出た。2 倍角の公式が 1 行の計算から落ちてくる。
負の指数へ伸ばす
n が負のときは n=−m と置く。m は正の整数である。
(cosθ+isinθ)−m=cosmθ+isinmθ1
分母の共役を掛けると、分母が cos2mθ+sin2mθ=1 になる[1]。
=cosmθ−isinmθ=cos(−mθ)+isin(−mθ)
cos が偶関数、sin が奇関数なので符号がそろう。n=0 は両辺が 1 で、これも成り立つ。整数全体へ広がった[2]。
例:(1+i)12
絶対値は 2、偏角は 45∘ である。12 乗すると絶対値は (2)12=64。
偏角は 45∘×12=540∘ で、360∘ を引いて 180∘ になる。
(1+i)12=64(cos180∘+isin180∘)=−64
二項定理で展開すると 13 項になる。極形式なら 2 行で済む。
例:(1+i)−6
絶対値は (2)−6=81、偏角は 45∘×(−6)=−270∘ である。
−270∘ に 360∘ を足して 90∘。
(1+i)−6=81(cos90∘+isin90∘)=8i
(1+i)6=−8i の逆数をとっても同じ値になる。負の指数でも手順は変わらない。
例:何乗すると 1 に戻るか
(cos40∘+isin40∘)n が 1 になる最小の自然数 n を探す。
定理から偏角は 40n 度である。1 の偏角は 0∘ なので、40n が 360 の倍数になればよい。
40n=360k から n=9k である。最小は n=9。
絶対値が 1 の数だけがこの形で戻る。絶対値が 1 でなければ、何乗しても長さが 1 に戻らない。
有理数の指数では言い方が変わる
n が分数のとき、左辺は 1 つの値に決まらない。n=21 なら平方根が 2 つあるためである。
このとき定理は「cosnθ+isinnθ は左辺の値の 1 つである」という形になる[1]。すべてを尽くしてはいない。
θ=0、n=21 で試す。右辺は cos0+isin0=1 だが、左辺の 11/2 には −1 も含まれる。
等号を「等しい」と読むか「候補の 1 つ」と読むか。整数と分数のあいだにこの段差がある。
| n が自然数 | 等式として成り立つ |
| n=0 | 両辺が 1 |
| n が負の整数 | 等式として成り立つ |
| n が分数 | 右辺は左辺の値の 1 つ |
例:分数の指数で数える
n=31、θ=0∘ とする。右辺は 1 である。
左辺の 11/3 は 1 の 3 乗根なので 3 つある。1 のほかに 2 つの虚数が入る。
右辺が拾えるのはそのうち 1 つだけ。残りを出すには偏角へ 360∘ の整数倍を足し直す必要がある。
(cos20∘+isin20∘)−9 の値はどれか。
__RESULT__
偏角は 20∘×(−9)=−180∘ である。絶対値は 1 のままなので cos(−180∘)+isin(−180∘)=−1 になる。1 は偏角を −360∘ と見た値、i は符号を落として 90∘ とした値。
偏角を n 倍し、絶対値を n 乗する。整数の範囲ではこの 2 行で閉じており、分数へ踏み出したところで値が枝分かれする。
参考文献
Marc Deisenroth. *Complex Numbers*. Revision Notes, Imperial College London, Department of Computing, 2017. de Moivre's Identity. Wolfram MathWorld. Jörn Dunkel, Jeremy Orloff. *18.04 Complex Analysis with Applications*. MIT, Spring 2019.
$(\cos\theta+i\sin\theta)^n = \cos n\theta + i\sin n\theta$ は、掛けるたびに偏角が $\theta$ 増えることのくり返しです。$n=1$ から始めて $k+1$ 乗を $k$ 乗と 1 個の積に分ければ、帰納の一段が積の規則 1 回で片づきます。負の指数は $n=-m$ と置いて逆数をとり、分母が $\cos^2+\sin^2=1$ になることから同じ形へ戻る。$(1+i)^{12}$ が $-64$、$(1+i)^{-6}$ が $\frac{i}{8}$ と 2 行で出ます。分数の指数では左辺が枝分かれし、等式が「値の 1 つ」という言い方に変わります。
偏角は 20∘×(−9)=−180∘ である。絶対値は 1 のままなので cos(−180∘)+isin(−180∘)=−1 になる。1 は偏角を −360∘ と見た値、i は符号を落として 90∘ とした値。