固有射と射影射:コンパクト性のかわりに普遍的に閉を課す
アフィン直線 には無限遠点がありません。座標をいくら大きくしても、その先に落ち着く点が用意されていない。
射影直線 にはそれがある。2 つの差を射の言葉へ直したものが固有性です[1]。
位相ならコンパクト性が同じ役をします。ところがザリスキ位相では も準コンパクトになるため、コンパクト性をそのまま持ちこんでも 2 つを区別できない[6]。
かわりに閉写像であることを条件にします。
閉写像だけでは足りない
まず素朴に、閉集合の像が閉集合になることだけを課してみます。これでは弱すぎる。
の第 1 座標への射影を見ます。双曲線 は の閉集合ですが、その像は原点を除いた直線になる。
原点だけが像から抜けます。閉集合を送ったのに、像は閉集合になっていない。
そのものは閉写像です。ところが をかけて にした途端に壊れる。1 回の閉写像性では足りないという証拠になります。
普遍的に閉
そこで、どんな基底変換をしても閉写像であることを課します[1][6]。
が普遍的に閉であるとは、任意の について が閉写像になることをいう。
位相にも同じ形の言いかえがあります。ハウスドルフ空間 がコンパクトであることと、 から 1 点への写像が普遍的に閉であることは同値になる[4]。こちらの形なら局所コンパクト性を仮定せずに書けるため、スキームへも持ちこめます[6]。
この条件は合成で保たれ、基底変換でも保たれる[2][6]。しかも行き先について局所的なため、 をアフィンで覆って確かめれば十分です[1]。
固有射の定義
分離的は極限が 2 つに割れないこと、有限型は座標環が有限生成であることにあたる。普遍的に閉が、遠ざかる点にも行き先を保証する部分。
分離的と普遍的に閉は、どちらも独立に破れる。 は分離的で有限型ですが、普遍的に閉ではありません。射影直線の原点を 2 つに割ったスキームは、有限型で普遍的に閉でも分離的でない[2]。
有限型は役どころが違う。固有なスキームの上でコホモロジーの有限次元性を言うには、この条件が必要です[3]。
付値による判定
固有性は、離散付値環を使って判定できます[6]。
を離散付値環、 をその商体とする。分離的で有限型な について、 と が両立しているとき、 への延長がちょうど 1 つ存在する。これが固有性と同値になります[6]。

分離性の判定と形がそろっています。3 つの条件がそれぞれ延長の何を握るかを並べると、次のようになる。
| 条件 | 付値環からの延長 |
|---|---|
| 分離的 | たかだか 1 つ |
| 普遍的に閉 | 少なくとも 1 つ |
| 固有 | ちょうど 1 つ |
実際に回してみます。 をとると、商体は 、一様化元は 。
への射 を、 で決めます。延ばすなら で を へ送ることになる。ところが の付値は負で、 には入りません。
延長がとれないため、 は 上で固有ではありません。破れたのは 3 つのうち普遍的に閉だけで、分離性も有限型も生きている。
上の について正しいのはどれですか。
- 分離的でないため固有ではない
- 分離的で有限型だが、普遍的に閉ではない
- 普遍的に閉だが有限型でない
射影空間は S 上で固有
固有射がたくさんあることは、次の主張から分かります[1][6]。
有限型であることは標準的なアフィン開被覆から分かり、分離的であることも貼り合わせを書き下せば確かめられる。残るのは普遍的に閉で、ここは付値環を使うと計算になる[6]。
を離散付値環、 をその商体とし、一様化元 をとります。
極大イデアルの生成元。 の でない元は ( は単元、)と書ける。
は、同時には にならない斉次座標で書けます[6]。
座標全体を の元で同時にかけても、射は変わりません。 まで延ばすとは、 をすべて に入れ、そのうち 1 つを単元にするような をとること。
の付値を とし、その最小値を とおきます。 とすれば、どの も付値が になって に入り、最小値を与えた座標は付値 、つまり単元になる。
は単元倍を除いてこれに限られるため、延長は 1 通りに決まります[6]。座標の付値をそろえて、いちばん低いところを に合わせる操作にあたる。
で先ほどの点を見ると、斉次座標は です。付値は と で、最小値は 。 をかけると になり、両方の座標が に入って第 2 座標は単元になる。
での値は 、つまり無限遠点です。 で止まった延長が、 では最後まで通る。
が離散付値環まで延びない。普遍的に閉が破れる
を に直せば延びる。行き先は無限遠点
消去理論として読む
普遍的に閉であることには、方程式で書かれた古典的な言い方があります[7]。 の座標を消去すると、像が係数だけの方程式で書けるという主張です。
と の 2 次形式を 2 つとる。
を考え、 で決まる閉集合を係数の空間へ落とす。像は、 と が に共通零点を持つような係数の集合。
その集合が、次の行列式の零点と一致する[7]。
この行列式を終結式といいます[7]。係数の多項式であり、像は超曲面として閉じている。
冒頭の で像が閉じなかったのは、アフィン直線のまま消去しようとしたためです。 に置きかえれば、零点が無限遠にあっても捕まえられて消去は通る[7]。通ることの中身が、この行列式になる。
射影射と有限射
が射影的であるとは、ある について閉埋め込み があり、 への射と両立することをいいます。
閉埋め込みは固有で、固有射の合成も固有です[2]。だから射影射はすべて固有になる。
閉埋め込みは固有
射影空間は S 上で固有
合成して、射影射は固有
固有射の供給源は射影射だけではありません。有限射も固有です[6]。
証明は Cohen-Seidenberg の定理に落ちる。整拡大 と素イデアル について、 となる素イデアル がとれるという主張です[6]。
有限射はアフィンだから、 をアフィン開でとり、 の像を見れば済みます。この定理から、像が に一致すると分かる。
逆向きも成り立ちます。固有かつアフィンな射は有限射で、固有でファイバーが有限な射も有限射になる[6]。3 つは同じ条件を別の角度から述べたものです。
固有だが射影的でない
射影射は固有ですが、逆は成り立ちません[4]。なめらかで完備な 3 次元多様体に、射影的でないものがある。広中が 1960 年の学位論文で作った例です[8]。
体 上のなめらかな射影的 3 次元多様体 をとり、その中に 2 本のなめらかな有理曲線 、 が 2 点 、 で横断的に交わっているとします[8]。、、、 が具体例。

を抜いた側では を先にブローアップし、そのあとで の移った先をブローアップします。 を抜いた側では順を入れかえ、 から始める[8]。 を抜いた側が写すのは のまわり、 を抜いた側が写すのは のまわりです。
右肩のダッシュは、先のブローアップで曲線が移った先を表す[8]。
と を両方抜いた の上では、 と が交わりません。ブローアップは局所的な操作で、交点がなければ順序が効かない。 と は の上で同型になり、そこで貼り合わせられます[8]。
貼ってできた 3 次元多様体を とおく。ブローアップは局所的には の射影で、これは が完備であるため閉写像です。閉であることは行き先について局所的なため、 も完備になる[8]。
射影的でないことの筋
で と の上を見ると、どちらも 2 本の射影直線に分かれます。、 です[8]。
ブローアップででき上がる例外曲面は 2 つあります。 の上にある と、 の上にある [8]。この 2 つに制限すると、2 本がそろって見えるとは限りません。順を入れかえて貼ったぶん、片側では 1 本しか残らない[8]。
| の の上 | |
| の の上 | |
| の の上 | |
| の の上 |
と は有理曲線なので、その上のどの 2 点も線形同値になる。 と を避けて 上に点 、 上に点 をとります[8]。
を の上で と へ、 を の上で と へ動かして引き戻すと、上の 4 行がそのまま 4 本の同値になります[8]。
上の 2 行を足しても下の 2 行を足しても、左辺は です。だから右辺どうしが同値になる。
両側から が消え、 が残ります。
が射影的だとします。その場合、 でない有効なサイクルの次数は正になる。ところが も も射影直線なので次数は正で、和が に同値であることと合いません[8]。
次元を下げると、この例は作れない。完備な曲線はすべて射影的で、なめらかで完備な曲面もすべて射影的です[4]。なめらかなものに限れば、3 が最小の次元です。
固有射と射影射の関係について正しいのはどれですか。
- 固有射はすべて射影射である
- 射影射はすべて固有射だが、逆は成り立たない
- 射影射でも固有でないものがある
閉埋め込みが固有で、射影空間が 上で固有なので、合成である射影射は固有です。逆は成り立たず、なめらかで完備な 3 次元多様体に射影的でないものがある。完備な曲線はすべて射影的で、曲面はなめらかならすべて射影的になります。
チャウの補題
固有射と射影射の隔たりは、覆いを 1 枚はさむと消える[3][5]。
をネーター的、 を分離的で有限型とすると、固有かつ全射な と、 への埋め込みがとれます[5]。しかも の稠密な開集合 があって、 は の上で同型になる。
が固有なら も固有で、この埋め込みは閉埋め込みになります[5]。つまり固有射は射影射で覆える。
だから射影射で示した主張の多くは、覆いを経由して固有射まで運べます。広中の例があっても、射影的な場合に作った道具はそのまま使える。
固有だと何が言えるか
像が閉集合になります[2]。 が 上で固有、 が 上で分離的なら、 上の射 の像は の閉集合です。
コンパクト集合の連続像がコンパクト、という主張と同じ形をしている。位相で効いていた性質が、そのまま移ってきています。
大域関数も強く制限されます。体 上で固有なスキームでは、構造層の大域切断が有限次元の 線形空間になる[3]。完備で連結な多様体まで絞ると、残るのは定数関数だけです[4]。
の上に非定数の正則関数がないという事実は、その特別な場合にあたります。 の上の は無限次元で、ちょうど逆になる。
アフィン射との交わりも決まっている。固有かつアフィンな射は有限射に限られ、ファイバーは有限集合になります[6]。
複素数の上では
複素数体の上の多様体については、位相の言葉へ翻訳できます[4]。
コンパクト性のかわりという言い方が、ここで文字どおりの意味になる。射影多様体の複素点がコンパクトであることも、この対応から読めます[4]。
発展
固有射とアフィン射は、分離的で準コンパクトな射の全体を 2 つの向きから覆っている[6]。
テムキンの分解定理が 2011 年に示されました。 が準分離かつ準コンパクトなら、分離的で準コンパクトな射 は、アフィン射 と固有射 の合成に分かれる[6]。
2 つが重なるところは有限射でした。有限射を無視してよいものと見なすと、分離的で準コンパクトな射はアフィンな部分と固有な部分に切り分けられる、という見通しになります[6]。










A1 はアフィンだから分離的で、k[u] が有限生成であるため有限型です。u↦1/t が離散付値環まで延びないため、破れているのは普遍的に閉であることだけになります。