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族が連続に動くとはどういうことか(平坦射とファイバーの重さ)

図形の族をパラメータに沿って動かすとき、ファイバーが急に痩せたり太ったりしないでほしい。この「連続に動く」を代数の条件に直したものが平坦性です[1]。

条件そのものは、拍子抜けするほど代数的です。テンソル積が単射を保つ、と書くだけで済みます。

幾何の言葉に翻訳したときに何が保証されるのか。そこを追うと、この定義の狙いが見えてきます。

テンソル積は完全とは限らない

加群の完全列に をテンソルすると、右側は生き残りますが左端の単射は壊れることがあります[1]。

典型例を 1 つ見ます。 の完全列に をテンソルします。

を掛ける写像は単射ですが、 をテンソルすると は になるので、零写像に変わります[1]。

単射が零写像に落ちた。この崩れが起きない加群を平坦といいます[3][5]。

平坦になるもの

自由加群は平坦です。テンソル積が直和と交換し、直和をとっても完全性が保たれるためです[1]。

局所化も平坦です。分母を許す操作は、完全列を完全列のまま送ります[5]。

自由加群は平坦
射影加群も平坦
局所化 は 上で平坦
多項式環 は 上で平坦
は 上で平坦だが射影的でない

有限表示なら、平坦であることと射影的であることが一致します[4]。単項イデアル整域の上では、平坦であることとねじれがないことが同じになります。

射の平坦性

スキームの射 が平坦であるとは、どの点でも局所環の写像が平坦になることをいいます[2]。

局所環だけを見ればよいのは、平坦性が素イデアルごとの条件に落ちるためです[1]。すべての素イデアルで局所化が平坦なら、もとの写像も平坦になります。

開埋め込みは平坦です。平坦な射の合成も平坦で、基底変換をしても平坦のまま残ります[2]。

ファイバーの重さが変わらない

平坦性が効く場面を、族として見ます。次の図は 2 つの族を並べたものです。

左は で決まる族です。 では 2 点、 では 1 点に見えますが、その点の局所環は で長さが 2 あります。重さは動きません。

右は原点 1 点だけをとり出した族です。原点の上では重さが 1、そこを外れると に落ちます。急に消える族は平坦ではありません。

有限な射については、この見方がそのまま判定になります。連結成分ごとに、重複度を数えたファイバーの点の個数が一定であることと、平坦であることが同値です[1]。

次元と、なめらかな場合

局所ネーター的な状況では、次元が足し算になります[3]。

底の次元とファイバーの次元を足すと、全体の次元になる。平坦でない射では、この式が崩れます。

なめらかな多様体どうしの全射については、判定がさらに簡単になります。すべてのファイバーの次元が等しいことと、平坦であることが同値です[1]。

ブローアップがその例です。原点以外では 1 対 1 なのに、原点の上だけ 次元の例外因子が乗ります[3]。次元が飛ぶので、平坦にはなりません。

開写像になる

平坦で局所有限表示な射は、普遍的に開写像です[2]。像が開集合になり、基底変換してもそのまま。

多様体の平坦な射についても同じことが言えます[1]。閉じることを保証するのが固有性なら、開くことを保証するのが平坦性です。

一般化を持ち上げる性質もあります[2]。行き先で点が一般化されたとき、もとの側でも対応する一般化がとれる。降下定理と呼ばれる主張が、この形で書けます[1]。

忠実平坦

平坦であって、しかも の写像が全射になるものを忠実平坦といいます[1]。

から が従う、という条件でも同じことです。情報を落とさずに係数をとりかえられる、と読めます。

局所環のあいだの平坦な局所準同型は、いつでも忠実平坦になります[1]。上へ持ち上げて調べた結果を、下へ戻せる。降下の議論はここを土台にしています。

ヒルベルト多項式が動かない

平坦で固有な族については、ファイバーのヒルベルト多項式が一定になります[3]。

族を平坦に動かす

各ファイバーのヒルベルト多項式は同じ

次数も算術種数も動かない

同じ多項式を持つ図形を集めてヒルベルトスキームを作れるのは、この一定性のおかげです。平坦性は、族という言葉に意味を与える最低条件になっています。

平坦性は一般的な性質でもあります。適当な条件のもとで、底のある空でない開集合の上では平坦になる[3]。壊れるのは、せまい閉集合の上だけです。

よくある誤り

ファイバーの点の個数が同じなら平坦だと思う。重複度まで数えないと判定できない
平坦を「ファイバーが同型」と思う。同型までは要求されず、重さが保たれるだけ
閉埋め込みが平坦だと思う。1 点をとり出す射は平坦でない
を平坦と思う。テンソルすると単射が壊れる
平坦なら開写像だとすぐ言う。局所有限表示という条件が要る
ブローアップを平坦と思う。例外因子の上で次元が飛ぶ
平坦性を大域的な条件と思う。局所環ごとの条件に落ちる

参考文献

J. S. Milne, *Algebraic Geometry*, course notes v6.10, Chapter 9 c(Flat maps and their fibres)
The Stacks Project, Tag 01U2: Flat morphisms
Flat morphism - Wikipedia
Flacher Modul - Wikipedia(ドイツ語)
Module plat - Wikipédia(フランス語)
パラメータを動かしたときにファイバーが急に痩せたり消えたりしない、という要求を代数で書くと、テンソル積が単射を保つという条件になります。x の 2 乗が t に等しい族では、2 点が 1 点に重なっても長さ 2 が残る。重複度まで数えたファイバーの重さが動かないことが平坦性で、次元の足し算、開写像であること、ヒルベルト多項式が一定になることまで確かめます。