平行な直線はどこで交わるのか(射影空間と斉次座標)
平行な 2 直線に交点はありません。この例外をなくすために、直線の向きそのものを新しい点として足したものが射影空間です。
体 上で 個の座標を並べ、原点を除き、定数倍を同じものと見なします。
1 つの点にあたるのは、原点を通る 1 本の直線です[3]。その直線の上のどのベクトルを代表に選んでも、指している点は変わりません。
次の図は の場合です。原点を通る直線が回るにつれて、縦線 との交点が動きます。
直線が縦になった瞬間だけ交点が消えます。消えた先が無限遠点で、射影直線はアフィン直線にこの 1 点を足したものになります。
斉次座標という書き方
代表を 1 つ選んで と書き、これを斉次座標といいます。コロンで区切るのは、比だけが意味を持つという合図です[4]。
と と は、どれも同じ点を指します。座標が点を決めるのに、点は座標を決めません。
すべての成分が の組だけは外します。原点はどの向きも表さないので、直線に対応しないためです。
値は決まらないのに、零点は決まる
斉次座標には代表のとり方の自由が残っているので、多項式の値がそのままでは決まりません。 に と を入れると、値は と に割れます。
ところが が 次の斉次多項式なら事情が変わります。各項の次数がそろっているので、代表を 倍したぶんがそっくり外へ出ます。
なので、 の値が かどうかは代表によりません[4]。値そのものは決まらないのに、零点だけは決まる。射影空間で斉次多項式しか扱わないのは、この一点のためです。
射影空間で図形を書くときは、この理由から斉次多項式だけを使います。次数がそろっていない のような式は、零点集合すら定まりません。
すべての項の次数が等しい多項式。 次なら を満たす。
斉次化と非斉次化
アフィンの式と射影の式は、機械的に行き来できます。 次の に対し、足りない次数を で埋めたものが斉次化です[1]。
逆向きは を代入するだけで、こちらを非斉次化といいます。 と書きます。
放物線 で試します。斉次化すると のように次数が でそろい、 を入れれば元に戻る。
2 つの操作は完全な逆ではありません。 が で割り切れるときは、非斉次化で落ちた成分が斉次化では戻らないためです。
アフィン標準被覆
射影空間は、 枚のアフィン空間で覆えます。 番目の座標が でない点を集めたものを と置きます。
で全体を割れば 番目が になり、残りの 個の比が自由に決まります。つまり はアフィン空間 と 1 対 1 に対応します。
この対応は単なる集合の全単射ではなく、ザリスキ位相まで込めた同相になります[1]。どの点も少なくとも 1 つの座標は でないので、 枚で全体が覆えます。

重なりの部分も大事です。 では と のどちらでも割れるので、2 通りの座標が入ります。その 2 つを結ぶ変換が、貼り合わせの規則になります。
例:射影直線を 2 枚で覆う
で書き下します。 の座標は 、 の座標は です。
重なり は両方の座標が でないところで、そこでは が成り立ちます。
の座標 t で見る
重なりでは t と 1/t が一致する
の座標 s で見る
で見えない点は の 1 点、 で見えない点は の 1 点です。2 枚を貼ればとりこぼしがありません。
球面を北と南の 2 枚の地図で覆う話と、形はまったく同じです。
無限遠にあるのは方向
をアフィン空間と見なすと、残りは の部分です。ここは の形の点だけからできています。
無限遠にあたるのは 1 点ではなく、 つ低い次元の射影空間まるごとです[1][6]。 では 1 点、 では 1 本の直線がそこに乗ります。
この分解を繰り返すと、次のように胞体へ分かれます。
は 1 点です。有限体 の上で点を数えると となり、この分解がそのまま個数の式になります。
例:平行な 2 直線はどこで交わるか
アフィン平面の 2 直線 を射影平面の中で閉じます。斉次化すると です。
無限遠直線 との交わりを見ると、 から点が 1 つ決まります。
この点は の比だけで決まり、定数項にはよりません[1]。定数項を変えても平行なままなので、平行な直線どうしは同じ無限遠点を共有します。
つまり無限遠点は傾きの名札です。平行という関係は、無限遠で同じ点に会うことと言いかえられます。
位相としての姿
実数体や複素数体の上では、射影空間はよく知られた図形になります。
| 実射影直線 | 円 |
| 複素射影直線 | 球面 (リーマン球面) |
| 実射影平面 | 向きづけできない閉曲面 |
| 複素射影空間 | コンパクトな複素多様体 |
が球面になるのは、 に無限遠点を 1 つ足した形だからです[7]。複素解析でリーマン球面と呼ぶものと同じ図形になります。
複素射影空間はコンパクトです。この一点が、射影多様体を扱う理由の中心にあります。有界性を仮定しなくても、連続像が閉じるような舞台が手に入るためです。
座標を使わない言い方
ここまでは座標を固定して話しました。ベクトル空間 を用意すれば、座標なしでも同じものを作れます。
を の 次元部分空間全体と定めます。 とすれば元の定義に戻り、基底のとり方を変えれば座標が変わるだけです[3][5]。
環論の言葉でも書けます。多項式環に次数を入れ、 という操作を通すと射影空間が出ます[2]。
この見方では標準被覆が として現れ、体の上に限らず任意の環の上で射影空間を作れます。
射影変換
の正則な線形変換は、直線を直線へ送るので の変換を引き起こします。定数倍の行列は同じ変換を与えるため、群としては商をとります。
これが射影変換の全体です。アフィン変換と違い、無限遠直線を有限のところへ送れます。
射影直線では、相異なる 3 点を好きな 3 点へ送る変換がちょうど 1 つ存在します。4 点目に現れる不変量が複比です。
「無限遠」が特別な場所ではないことは、この群の存在からも見てとれます。どの超平面も、変換で無限遠直線へ移せるためです。











