射影版の零点定理〜空集合を定めるイデアルが 2 つある
アフィン空間では、根基イデアルと閉集合がきれいに 1 対 1 で対応します。射影空間で同じことをすると、ひとつだけ例外が残ります。
で原点 1 点を定めるイデアル は、 では何も定めません。原点は射影空間の点ではないためです。
この居場所のないイデアルを無関係イデアルと呼びます[1]。射影版の零点定理は、この 1 つを除いたうえで対応を主張する形になります。
斉次イデアル
射影空間で図形を書くには、多項式が斉次でなければなりません。 次の斉次多項式は を満たすので、零点であるかどうかが代表のとり方によりません[1]。
イデアルの側にも同じ条件を課します。 に属するどの についても、その斉次成分がすべて に入るとき、 を斉次イデアルといいます。
定義のままでは確かめにくいので、実際には生成元で判定します。斉次イデアルであることと、斉次多項式の有限集合で生成できることは同値です[1]。
例:斉次かどうかを見分ける
で 3 つのイデアルを比べます。
3 つ目が落ちる理由をもう少し押さえます。 の倍元をどう足しても、 ちょうどは作れません。次数をばらしたときの部品が外に出てしまう、という状況です[1]。
生成元が斉次でなくても、別の生成元のとり方で斉次にできる場合はあります。判定に使うのは「ある斉次な生成系が存在するか」という条件のほうです。
V と I を射影の側で定める
斉次イデアル に対して、共通零点の集合を と書きます。斉次多項式だけを見るので、集合として意味を持ちます。
逆向きは、部分集合 の上で消える多項式を集めます。こうして得られる は、いつでも斉次な根基イデアルになります[1]。
証明は 1 行の計算で済みます。 が の上で消えるなら、代表を 倍して が無数の で成り立ち、 の多項式として恒等的に になるためです。
呼び名は文献で揺れます。既約なものだけを射影多様体と呼び、既約とは限らないものを射影代数的集合と呼び分けるやり方が多い[6][7]。ここでは分けずに書き、必要なところで既約と断ります。
アフィン錐へ持ち上げる
射影の主張を、アフィンの零点定理へ落とすための道具がアフィン錐です。 の部分集合 に対し、 の点にあたる直線を全部集め、原点を足したものを錐と呼びます[2]。
錐は原点を必ず含みます。ここに射影と アフィンのずれが集まっていて、例外の正体もここにあります。
が空でなければ、錐は原点だけの集合より大きくなる。逆に錐が原点だけなら、 は空です。
射影版の零点定理
代数閉体 の上で、斉次イデアル について次が成り立ちます[1][3]。
第 2 の主張はアフィンと同じ形です。第 1 の主張が射影に固有で、空になる条件が「イデアルが を含む」ではなく「無関係イデアルを根基に含む」に変わります。
証明はアフィンの零点定理へ錐で移すだけで済みます。 は、アフィン錐が原点だけになることと同じだからです[2]。
無関係イデアルという例外
と全体 は、どちらも根基イデアルで、どちらも を空集合へ送ります。
根基イデアルと閉集合がちょうど 1 対 1。空集合を定めるのは全体イデアルだけ
空集合を定める根基イデアルが 2 つある。無関係イデアルのぶんだけ対応がずれる
対応を 1 対 1 に直すには、この 2 つを外します。空でない射影代数的集合と、無関係イデアルを含まない斉次根基イデアルが、包含を逆にして対応します[2]。
が既約であることも、この対応から出ます。 は素イデアルで、既約性と素であることが対応するためです。

例:空でない図形を定めているか判定する
で を考えます。根基をとると です。
これは無関係イデアル を含みません。したがって は空ではなく、実際に という 1 点になります。
一方 なら です。根基が無関係イデアルそのものなので、 は空になります。
判定に効くのは根基であって、生成元の見た目ではありません。 の生成元はどれも定数ではないのに、定める図形は空です。
飽和という言い換え
閉部分スキームまで含めて対応をとりたいときは、根基ではなく飽和という条件を使います[4]。
左辺は、無関係イデアルの十分高いべきを掛ければ に入る元をすべて集めたものです。これが と一致するイデアルを飽和イデアルといいます。
の閉部分スキームと飽和した斉次イデアルが 1 対 1 に対応します。根基まで落とすと重複度の情報が消えるので、スキームを相手にするときは飽和のほうを使う。
斉次座標環
既約な射影多様体 に対し、次の商環を斉次座標環といいます[2]。
これは 上のアフィン錐の座標環にあたるので、次元は です。錐のぶんだけ 1 つ大きくなります。
注意が要るのは、この環が だけでは決まらない点です。 への埋め込み方まで込みで決まります[2]。
正則関数の体のほうは埋め込みによりません。同じ次数の斉次多項式の比を集めた、次数 の部分がそれにあたります。
埋め込みに依存することは、欠点ばかりではありません。斉次座標環の各次数の大きさを並べると多項式が現れ、そこから次元・次数・算術種数といった量が読めます[5]。
例:同じ図形なのに環が変わる
射影直線を の中へ 2 次で埋め込みます。
像は円錐曲線 で、 と同型です。ところが斉次座標環は となり、もとの とは違う環になります[2]。
図形として同じでも、座標環は変わる。斉次座標環が図形の不変量ではないというのは、この意味です。
既約性と素イデアル
アフィンと同じく、既約であることと が素であることが対応します[2]。
射影代数的集合 V
アフィン錐 C(V) が既約
I(V) が素イデアル
たとえば は の中で 2 本の直線に分かれます。 が素でないことが、そのまま図形の分解に現れています。
既約成分への分解も、アフィンの議論をそのまま錐へ移すだけで得られます。









