曲率と捩率だけで空間曲線は決まるのか?フレネ・セレの公式
空間の曲線は、 つの関数だけで完全に決まります。曲がり具合を表す と、ねじれ具合を表す です。
この つを与えると、それをもつ曲線が存在し、しかも剛体運動を除いて 1 本に決まる[1]。曲線論の基本定理と呼ばれます。
道具は 3 本の単位ベクトルだけ。順に組み立てます。
弧長で測り直す
曲線 が正則、つまり だとします[1]。
弧長を次で定めます。
なので逆関数 がとれます。 とおくと [1]。
つまり、どの正則曲線も速さ で走り直せます。以下ではいつも弧長でパラメータづけます。
同じ像をもつ曲線はいくつもあります。速さを に固定すると、その自由度が消える。
接ベクトルの回り方が曲率
単位速度なら が単位接ベクトルです。曲線が曲がるとは、 の向きが変わることでした。
そこで変化の速さを曲率と決めます[1]。
直線なら が一定で 。急に曲がるほど が大きくなります。
主法線
単位ベクトル場は、その微分と直交します[1]。 を微分すれば が出るだけです。
だから は と直交します。 のとき、向きを単位ベクトルに直したものを主法線 とする。
の点では が決まりません。以下では を仮定します。
従法線と枠
とおくと、 が正の向きの正規直交枠になります[1]。フレネ標構と呼ばれます。
3 本はたがいに外積で結ばれます。、、。
曲線に貼りついた座標系です。曲線が進むにつれて、この座標系が回っていきます。
フレネ・セレの公式
は定義そのものです。 で、 とも とも直交するので の定数倍になる。
その係数を と決めます。 から残る 1 本も出ます[1]。
の符号は本によって逆です。 とする流儀もあります[1]。
行列が反対称になる理由
3 本を並べて行列で書くと、係数がきれいな形になります[3]。
対角が で、上下が符号違い。反対称行列です。
偶然ではありません。正規直交枠を並べた行列は直交行列で、直交行列の族の微分は必ず反対称になります。
反対称行列は の元、つまり回転の速度です。曲線を進むことは、枠を回し続けることでした。
捩率が測るもの
と が張る平面を接触平面といいます[1]。曲線がその場でいちばんよく乗っている平面です。
は接触平面の法線なので、 の回り方が接触平面の回り方になります。。
だから は、曲線が接触平面からどれだけ外れていくかを測っています[1]。
なら が一定で、曲線は 1 枚の平面に収まります。逆に なら空間の中でねじれる[1]。

例:円
半径 の円は です。弧長でパラメータづけてあります。
微分を 2 回とると 。曲率は で一定です。
平面に収まっているので 。半径が小さいほど曲率が大きい、という感覚どおりになります。
例:常螺旋
をとります。円柱に巻きついた螺旋です[1]。
計算すると、どちらも定数になります。
なら円に戻り、。 を大きくすると捩率が増え、曲率は減ります。
曲率と捩率が両方とも定数になる曲線は、直線と円と常螺旋だけです。基本定理から、それ以外にありません。
一般のパラメータで計算する
弧長に直すのは面倒です。ふつうのパラメータのままでも計算できます[4]。
分子の が両方に現れます。この外積の向きが 、大きさが曲率に効く。
の分子に 3 階微分が要ります。曲率が 2 階までで決まるのに対して、捩率は 1 段深いところを見ています。
例:ねじれ 3 次曲線
で計算します。、、。
外積は です。内積をとると 。
では 、。 を大きくすると両方 に近づき、遠くではほとんど直線に見えます。
弧長で速さを 1 にする
枠 T, N, B を組む
微分を枠自身で書き、係数として κ と τ を読む
曲線論の基本定理
ここまでは曲線から と を作る向きでした。逆向きが成り立ちます[1]。
区間 の上に と が与えられたとき、それを曲率と捩率にもつ曲線が存在し、剛体運動を除いて一意である。
剛体運動とは、行列式が正の直交変換と平行移動の合成です[1]。回して、動かす。鏡に映すのは含めません。
弧長も曲率も捩率も、剛体運動で変わりません[1]。だから「除いて」という但し書きが必要になります。
証明は常微分方程式に落ちる
フレネ・セレの公式は、 本のベクトルに関する 1 階の連立常微分方程式です[1]。
を の曲線と見ると、右辺は の線型式になります。
は連続微分可能なのでリプシッツ連続です。初期条件を決めれば解が一意に決まる[1]。
得られた を積分すれば曲線が出ます。存在も一意性も、常微分方程式の一般論だけで済みました。
バナッハの不動点定理が効いています。解の存在と一意性が、縮小写像の不動点に置き替わる ためです[1]。
初期条件は「出発点」と「出発点での枠の向き」で、これがちょうど剛体運動 1 つ分の自由度にあたる。
全曲率
閉曲線について、曲率を 1 周ぶん足したものを全曲率といいます[2]。
読み替えができます。 は単位ベクトルなので、球面 上の曲線になる。これを接線像といいます。
接線像の速さは です。だから全曲率は、接線像の長さそのもの。
曲がった量を足すことと、球面上でどれだけ動いたかを測ることが、同じになりました。
フェンチェルの定理
閉曲線の全曲率には下限があります[2]。
次元空間の滑らかな単純閉曲線の全曲率は 以上であり、等号が成り立つのは平面上の凸曲線のときに限る。
年の Fenchel の結果です[2]。半径 の円で確かめると、、長さ なので全曲率はちょうど 。
半径によりません。円ならどれでも下限にぴったり乗ります。
ファリー・ミルナーの定理
さらに強い主張があります[2]。
単純閉曲線が結ばれているなら、その全曲率は より大きい。
年に Fáry と Milnor が独立に証明しました。Fáry は 歳、Milnor はプリンストンの学部生で 歳でした[2]。
対偶で読むと使いやすい。全曲率が 以下なら、その曲線はほどけます。曲がりの総量という数値が、結び目かどうかを縛っています。
空間曲線について、 が意味するのはどれですか。
- 曲線が直線になる
- 曲線が 1 枚の平面に収まる
- 曲率も になる
曲率は接ベクトルの回る速さ、捩率は接触平面の回る速さ。どちらも正規直交枠の回転の成分です。
曲がりとねじれ。この 2 つの関数だけで、空間の中の 1 本の線が決まります。












τ≡0 なら B′=0 で B が定ベクトルになります。接触平面の向きが変わらないので、曲線はその平面から出られません。直線になるのは κ≡0 の場合で、こちらは別の条件です。