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添字の「上」と「下」をつなぐ計量テンソル - 上げ下げと縮約記法

添字が上に付くか下に付くかは飾りではありません。上は反変、下は共変で、座標を変えたときの動き方が逆になります。

その 2 つを行き来させる道具が計量テンソルです。 で下げ、 で上げる。

上げて下げれば元に戻ります。計量とその逆行列が、たがいに打ち消し合うためです。

線素が計量を決める

多様体の各点の接空間に内積を入れたものが計量テンソルです[1]。 階の対称共変テンソル場になります。

座標で書くと、微小な長さの 乗として現れます[1,2]。

で、行列として非退化、つまり を課します[1]。

正定値なら リーマン計量、符号が混ざるなら 擬リーマン計量です[1]。

例:3 つの座標系

デカルト座標では単位行列です。。

極座標では で、対角に と が並びます[2]。

球座標なら 。対角成分は 、、[2]。

同じ空間なのに成分が違います。計量は座標のとり方に応じて姿を変え、測る長さのほうが変わりません。

アインシュタインの縮約記法

年に Einstein が導入した約束です[3]。積の中で同じ添字が 回現れたら、その添字について和をとる。

相対論では条件がもう 1 つ付きます。上と下に 回ずつ現れたときだけ和をとる[3]。

を書かないだけの話ですが、位置の上下が意味を持つようになります。上下がそろわない式は、たいてい書き間違いです。

上と下で動き方が逆になる

座標をとり替えると、基底も成分も変わります。その変わり方が 通りに分かれ、上下の添字はその区別を表しています。

基底を細かくすると、同じ矢を表す成分は大きくなります。これが反変で、上の添字を付ける。

一方、等高線の束として測る量は、基底を細かくすると値が小さくなります。こちらが共変で、下の添字を付ける。

打ち消し合うので、 のように上下を組ませた量だけが座標によらない数になります[3]。

逆計量

は非退化なので逆行列があります。その成分を上の添字で書きます[2,5]。

対角な計量なら、逆計量は各成分の逆数です。極座標なら 、。

非対角があるときは、ふつうに行列を逆にします。 次なら公式 1 本で済みます。

添字を下げる

ベクトル に計量を当てると、 形式が出ます[4]。

写像としては で、 という定め方です[4]。

デカルト座標では なので、 と が同じ数になります。上下の区別が消えて見えるのはこのためです。

添字を上げる

逆向きは逆計量で行います[2]。

こちらは で、 の逆写像です[4]。

往復すると戻ります。。

例:極座標で上げ下げする

成分が 、 のベクトルを、 の点で考えます。

、 なので、下げると次のようになる。

成分だけが 倍になりました。 の長さが で、その 乗が効いています。

上げ直すと に戻ります。

と は 数として別物 です。同じ矢の別の読み方であって、片方を書けば済むわけではありません。

デカルト座標だけを見ていると同じに見えます。曲がった座標を 1 つ通すと、値が離れます。

内積と長さと角度

内積は上下を組ませて書きます[1]。

通りとも同じ値です。片方を下げてから縮約する、と読めます。

長さは 、角度は 。

上の極座標の例で長さを出すと です。 成分の をそのまま足してはいけません。

テンソルでも同じ操作

添字が増えても、上げ下げは 1 本ずつ行います[2]。

どの添字を動かしたかを見失わないよう、位置をずらして と書きます。

計量そのものを上げ下げすると になります。計量は上下の変換そのものだからです。

縮約

上と下に同じ添字を置いて和をとる操作を縮約といいます。階数が 下がります。

行列のトレースがその例です。 は座標によらない数になります。

曲率でも使います。リッチテンソルは曲率テンソルの縮約、スカラー曲率は という形で出ます[5]。

計量を挟んだ縮約は、下げてから潰すことと同じです。

体積要素

長さだけでなく体積も計量から出ます[2]。

デカルト座標では で、いつもの体積です。座標を曲げると、その分が に集まります。

球座標なら なので 。積分でおなじみのヤコビアンと一致します。

極座標なら で 。 の がここから来ています。

符号が混ざる場合

相対論では、時間の向きだけ符号が逆になります[2]。

このミンコフスキー計量で添字を下げると、時間成分の符号が反転します。、()。

内積が負にも にもなります。 でない で が起こるのは、光の進む向きです。

正定値ではないので、長さの概念が素直に働きません。それでも上げ下げの規則はそのまま使えます[1]。

極座標で 、 のとき、 の値はどれですか。

__RESULT__

なので です。 のままだとデカルト座標と混同しており、 は逆計量を掛けた値になります。

まちがえやすい点

上下の添字を同じものとして扱う。デカルト座標以外では値が違います。
和の記号がないので和がないと思う。上下に同じ文字が来たら和をとります。
式の両辺で添字の上下がそろっていないまま進む。ほとんどの場合そこが誤りです。
長さを成分の 2 乗和で出す。 を計算します。
体積要素の を忘れる。積分の値が変わります。
ミンコフスキー計量で符号を落とす。時間成分だけ上げ下げで符号が変わります。

計量を 1 つ決める。それだけで、上の添字と下の添字が同じ量の つの顔になります。

参考

Metric tensor. Encyclopedia of Mathematics.
Tenseur métrique. Wikipédia(フランス語).
Einsteinsche Summenkonvention. Wikipedia(ドイツ語).
Mark Hamilton, Uwe Semmelmann. *Vorlesungsskript Differentialoperatoren auf Mannigfaltigkeiten*. Universität Stuttgart, SS 13.
*Christoffel Symbols*. Differential Geometry 講義資料, Appalachian State University.
添字が上に付くか下に付くかは飾りではありません。座標を変えると、上の添字が付く成分は基底が細かくなるほど大きくなり、下の添字が付く成分は逆に小さくなる。この 2 つを $v_i = g_{ij}v^j$ と $v^i = g^{ij}v_j$ で行き来させる道具が計量テンソルです。極座標で $r = 5$、$v^\theta = 3$ なら $v_\theta = 75$。長さは $g_{ij}v^iv^j$ で測るので、成分の 2 乗和ではありません。同じ添字が上下に 1 回ずつ出たら和をとる。これがアインシュタインの縮約記法(1916 年)。体積要素の $\sqrt{|\det g|}$、球座標の $r^2\sin\theta$、ミンコフスキー計量での符号反転まで。