形が違えば音も違うのか?ラプラス・ベルトラミ作用素からグラフラプラシアンまで
曲がった空間のラプラシアンは、計量の逆行列と行列式だけで書けます[1,2]。
極座標に入れれば の形が出ます。グラフの上では という行列になる。同じ作用素の顔です。
平坦な場合の復習
の標準計量では、、 です。上の式は次に戻ります[1]。
符号にマイナスが付いています。リーマン幾何では を正の作用素として扱う約束です[1]。
解析の教科書では逆符号で書きます。固有値の符号がひっくり返るだけなので、どちらを使うかを最初に決めておきます。
定義そのもの
もとの定義は です[1]。
外微分と余微分で書くと になります[1]。ヘッセ行列のトレースでも書けて、。
微分形式に広げたホッジ・ラプラシアン を 形式に制限したものが、この作用素です[4]。
座標での式を組む
手順は 段です。計量の逆行列 を出し、行列式の平方根 を出し、上の式に入れる。
対角な計量なら、逆行列は各成分の逆数、行列式は対角成分の積です。ほとんどの例はこれで終わります。
は体積要素と同じ量です。座標のセルがどれだけ伸びているかを表しています。
例:平面の極座標
、 なので 、、。
入れると次のようになります。
展開すると 。よく見る形です。
第 項の が、 から出ています。座標を曲げたぶんの補正です。
例:3 次元の球座標
、、、。
を止めると、後ろの 項が単位球面のラプラシアンになります。前の 項が半径方向。
この分解が、変数分離で球面調和関数が出てくる仕組みです。
自己随伴で正
コンパクトで境界がない場合、 は 内積について自己随伴で、しかも正です[1]。
から出ます。等号は が定数のときだけ。
階の楕円型作用素なので、コンパクト多様体ではスペクトルが離散になります[1]。固有値は有限重複度を持ち、固有関数が完全正規直交系を作る。
固有値を小さい順に と並べられます。
例:球面のスペクトル
標準計量の では、固有値が完全に分かります[1]。
固有関数は の 次斉次調和多項式を球面に制限したものです[1]。 なら球面調和関数。
重複度も数えられます[1]。
計量を 倍すると固有値は 倍になります。半径 の球面なら です[1]。
例:平坦トーラスのスペクトル
に平坦な計量を入れます。 は階数 の格子です[1]。
双対格子を次で定めます[1]。
に対して がトーラス上の関数になります。これが固有関数です[1]。
スペクトルは双対格子のベクトルの長さで決まります。格子の形が、そのまま音の高さの表に化ける。
形は聞こえるか
スペクトルが同じなら形も同じか、という問いが立ちます。答えは否です。
Milnor が反例を作りました[1]。次元 以上のすべての次元で、同スペクトルだが等長でない平坦トーラスの組が存在します。
鍵は双対格子です。 つのトーラスが同スペクトルであることは、原点まわりのどの球にも と の元が同数入ることと同値になります[1]。
と という つの格子が、その条件を満たしながら等長にならない[1]。音は同じでも形が違う例です。

グラフの上のラプラシアン
離散の側にも同じ名前の作用素があります[3]。
頂点に重み付きの辺があるグラフで、隣接行列を 、次数を対角に並べた行列を とします。
これが非正規化グラフラプラシアンです[3]。 の行列で、対称かつ半正定値になります。
二次形式が本質です[3]。
隣り合う頂点での値の差を、重みを付けて足した量。連続の側で だったものと同じ役割です。

固有値 0 が数えるもの
の最小固有値は で、対応する固有ベクトルは全成分が のベクトルです[3]。
もっと強い主張があります。固有値 の重複度は、グラフの連結成分の個数に等しい[3]。
固有空間は、各成分の指示ベクトルが張ります。連続の側で、調和 形式の次元が連結成分の数だったのと同じ形です[4]。
離散でも連続でも、 固有値がつながり方を数えている。
正規化ラプラシアン
次数がばらつくときは、正規化した形を使います[3]。
はランダムウォークに対応します。 の固有値問題は、一般化固有値問題 と同じ[3]。
の二次形式にも、差の形が残ります[3]。
スペクトラルクラスタリング
小さいほうの固有値に属する固有ベクトルを並べ、その座標で点をクラスタに分ける。これがスペクトラルクラスタリングです[3]。
固有値 が連結成分を数えるので、 に近い固有値は「ほとんど切れている」場所を拾います。
弱い辺をまたぐ差は二次形式にほとんど効きません。だから固有ベクトルはそこで符号を変え、切れ目を教えてくれる。
曲面の上の振動が節線で分かれるのと、同じ理屈です。
グラフラプラシアン の固有値 の重複度が表すのはどれですか。
- 辺の本数
- 連結成分の個数
- 頂点の次数の最大値
書き下した式を確かめる
書き下した式が正しいかどうかは、 つの当て方で確かめられます。
定数関数に当てて になるか見ます。 が成り立たなければ、どこかで符号か係数を落としています。
平坦な場合に戻るか見ます。極座標の式で に依存しない関数を入れると、 が残る。これは 次元の動径方向の式です。
既知の固有関数を入れる手もあります。トーラスで を入れて が出れば、係数がそろっています。
計量の行列式と逆行列。この つを出せば、曲がった空間でもグラフの上でも、同じ作用素が書けます。











fTLf=21∑wij(fi−fj)2 が 0 になるのは、つながっている頂点で f が同じ値をとるときです。各連結成分の上で定数、という自由度がそのまま固有空間の次元になります。