微分形式の次数が星印ひとつで裏返る〜ホッジ双対と調和形式
微分形式には外微分 しかありませんでした。次数を 1 つ上げる方向だけです。
計量を入れると、次数を 1 つ下げる が現れます。この 2 つを組み合わせたラプラシアンの核をとると、コホモロジーの各類にただ 1 つの代表元が決まる[1]。
出発点はホッジ双対です。 形式を 形式に移す線型同型から始めます。
形式に内積を入れる
計量があると、各点の余接空間 に内積が入ります。これを へ広げる方法は素直です[2]。
正規直交基底 をとり、(添字は増加列)を正規直交基底と決める。これで 形式の空間に内積が入ります。
分解できる形式では、行列式の形にもなります。
向きも決めておくと、体積形式 が 1 つ定まります[2]。
ホッジ双対
内積と体積形式がそろうと、次の性質で線型同型がただ 1 つ決まります[2]。
両辺とも 形式なので、比べられます。 が内積を測る、という約束で が定まる。
基本の値は次のとおりです。、。正規直交基底では、選んだ添字の補集合が現れます[2]。
2 回かけると符号だけが残ります。

例:平面では 90 度の回転
で計算します。基底を とすると、次のようになる[1]。
を 、 を と読み替えると、 は反時計まわりの 90 度回転そのものです[1]。
形式に 2 回かけると 。、 を符号の式に入れた値と合っています。
例:3 次元では面と法線
では、 形式と 形式が向かい合います[1]。
形式の側から戻すと です。、。
ベクトルで読むと、 は外積と同じ働きをします。2 本のベクトルが張る面に、法線を対応させている[1]。
ベクトル解析が戻ってくる
次元では、 と の組み合わせが rot と div になります[2]。
は計量でベクトル場を 形式に直したものです。 を当てる場所が違うだけで、両方が出てきます。
ここから の言い替えが 2 本手に入る[2]。
逆向きも同じです。 次のド・ラームコホモロジーが消える開集合では、 から が出ます[2]。
余微分
を使うと、次数を下げる作用素が作れます[2]。
これを余微分といいます。 も から従う。
ベクトル場の言葉では発散にあたります。 という形[2]。
局所正規直交基底では、 と対になる形にも書けます。 に対して です[2]。
随伴になっている
コンパクトで向き付けできる多様体では、形式の空間に 内積が入ります[2]。
証明はストークスの定理から出ます。 を左右に展開して比べるだけ[1]。
ラプラシアン
関数に当てると、よく知られた形になります。 で、平坦な空間では です[2]。
リーマン幾何では解析と符号が逆向きになる約束です。ここでは が正の作用素になる側をとります[2]。
は形式的自己随伴です。上の随伴関係から が出る[1]。
調和形式
を満たす形式を調和形式といいます[4]。
コンパクトなら、条件が 2 つに割れます。内積をとるだけで示せる[1]。
右辺は つとも 以上です。和が なら両方 で、 かつ 。
閉じていて、同時に余閉じている。調和とはこの状態です。
例:調和 0 形式は定数
形式は関数です。 は 形式で消えるので、条件は だけになります[1]。
連結なら は定数。連結成分がいくつかあれば、成分ごとに値を選べます。
だから調和 形式の空間の次元は連結成分の個数です。 の意味がそのまま出ています。
コンパクトという条件がここで効いています。部分積分で境界項が消える ので、 から と の両方が言える。
のような開いた空間では成り立ちません。有界でない調和形式がいくらでもあります。
ホッジ分解
調和形式の空間 は有限次元です[1]。ラプラシアンが楕円型であることから出ます。
そのうえで、形式の空間が 2 つに割れます[1]。
コンパクトなリーマン多様体での直交直和です。ホッジ分解と呼ばれます。
を開くと、 つに分けた形にもなります。完全な部分、余完全な部分、調和な部分の直交和です。

ホッジの定理
分解から、目当ての主張が出ます[1]。
ド・ラームコホモロジーのどの類にも、調和な代表元がただ 1 つ存在する。
存在は分解から出ます。閉形式 を分けると となり、差が完全形式なので同じ類に入る[1]。
一意性も短い。同じ類の調和形式 と を比べると、 と から が出ます[1]。
つまり 。位相の不変量が、微分方程式の解の空間として実現されました[4]。
各類でいちばん短い形式
一意性には別の読み方があります。類の中で ノルムが最小の形式が、調和代表元です。
類は という平行移動した部分空間です。調和形式は完全形式と直交するので、原点から下ろした垂線の足にあたる。
垂線の足はただ 1 つ。一意性が幾何の言葉に化けました。
ベッチ数が有限になる
が有限次元だったので、 も有限です[1]。
コンパクトな多様体のベッチ数が有限だという事実が、楕円型作用素の性質から出てきました。位相の主張を解析が支えている形です。
例:平坦トーラスの 1 形式
に平坦な計量を入れます。定数係数の 形式 を見ます。
はすぐ分かる。 も定数係数の 形式なので で、 です。
閉じていて余閉じているので、 は調和。 本が独立なので が言えます。
ポアンカレ双対性が見える
は調和形式を調和形式へ送ります。 と から確かめられる。
が調和なら と 。すると は の定数倍で 、 は の定数倍でやはり です。
だから が同型になります。ホッジの定理と合わせると 。
ポアンカレ双対性が、 という 1 本の線型写像として目に見える形になりました。
ボホナー公式
形式では、ラプラシアンが接続のラプラシアンと曲率に分かれます[3]。
ボホナー公式と呼ばれます。左辺はコホモロジーを測る作用素、右辺の第 2 項は曲率そのもの。
この等式のおかげで、曲率の符号がベッチ数を縛れます。曲率と位相が 1 行でつながる場所です。
例:リッチ曲率が正なら b1 は 0
コンパクトで とします。調和 形式 に上の式を当て、 との内積をとる。
左辺は 、右辺は と正の項の和になります。両方 でなければならず、[3]。
調和 形式が しかないので です。リッチ曲率が非負なら、調和 形式は平行になります[3]。
ボネ・マイヤースの定理が直径を押さえたのと同じ方向の主張です。こちらは 次のベッチ数を押さえている。
コンパクトで向き付け可能な 次元多様体で、 について正しいのはどれですか。
- は完全形式を完全形式へ送るので になる
- が調和形式を調和形式へ送るので になる
- は計量に依存するので、ベッチ数とは関係しない
計量の選び方によらない部分
も も も、計量を選ばないと決まりません。調和形式が何かは計量ごとに変わります。
それでも次元は変わらない。 の次元がコホモロジーの次元に等しいので、計量の選び方から独立です[1]。
代表元は動くのに、部屋の広さは動かない。ホッジの定理はそう読めます。
計量を 1 つ入れる。それだけで、コホモロジーの各類に住所がひとつ決まりました。










δ=−∗d∗ から、ω が調和なら ∗ω も調和です。∗ は p 形式を n−p 形式へ送る同型なので Hp≅Hn−p になります。∗ 自体は計量に依存しますが、次元は依存しません。