∫0∞1+x2logxdx=0
被積分関数は x=1 の前後で符号が変わり、負の側の面積と正の側の面積がぴったり釣り合います。0 から 1 までが −G、1 から ∞ までが +G。この G=0.91597 はカタラン定数で、初等関数では書けない値です。
書けない値どうしが打ち消し合って 0 になる。分けて計算しようとすると難しく、まとめて見ると易しい積分です。
対数が入る積分は、鍵穴の経路と相性がよくありません。素直に logz を掛けると、対数が消えてしまう[3]。そこで 2 乗して掛ける、という手を使います。
置換だけで 0 が出る
複素解析を持ち出す前に、x→1/x を試します。
x=1/t とすると dx=−dt/t2、logx=−logt、1+x2=(1+t2)/t2 です。区間の向きも入れかわる。
∫0∞1+x2logxdx=−∫0∞1+t2logtdt
自分自身のマイナス 1 倍に等しいので、値は 0。積分が収束することさえ言えれば、これで終わりです。
置換で済むなら、それがいちばん速い。ただしこの手は分母が x→1/x で形を保つときだけ効きます。1+x2 はうまくいき、(1+x)2 では通らない。
鍵穴に logz を掛けると失敗する
一般の場合に備えて、複素の側の道を作ります。まず、素直な形が通らないことを見ておきます。
切れ目を正の実軸にとった鍵穴で、f(z)logz を回すとします。上側では logx、下側では logx+2πi。
∫0∞f(x)logxdx−∫0∞f(x)(logx+2πi)dx=−2πi∫0∞f(x)dx
対数の項が引き算で消えました。残ったのは f だけの積分で、欲しかった flog が出てこない[3]。
これは失敗ではなく、別の道具です。分枝を持たない有理関数の 0 から ∞ までの積分を出す手として使えます。偶関数でなくても半直線のまま扱える。
2 乗すれば残る
そこで (logz)2 を掛けます。上下の差を展開すると、消えずに残る項が出る。
(logx)2−(logx+2πi)2=−4πilogx+4π2
第 1 項に logx が生きています。第 2 項は f だけの積分で、これは既知として片づける。
∮f(z)(logz)2dz=−4πi∫0∞f(x)logxdx+4π2∫0∞f(x)dx
左辺は留数で計算できます。右辺の第 2 項が分かっていれば、第 1 項がとり出せる。
1 段ずつ次数を上げると、log の 2 乗の積分も同じ形で出ます。(logz)3 を掛ければよい。
1 周ぶんで虚部が 2π 増えます。1 乗ならその差は定数で、log の情報が落ちる。2 乗なら交差項に log が生き残ります。
1/(1+x2) で試す
f(z)=1/(1+z2) でやってみます。極は ±i の 2 つで、選んだ分枝では argi=π/2、arg(−i)=3π/2。
Resz=i1+z2(logz)2=2i(iπ/2)2=8iπ2
Resz=−i1+z2(logz)2=−2i(3iπ/2)2=−89iπ2
和は −iπ2 で、2πi を掛けると 2π3 です。右辺の第 2 項は 4π2⋅π/2=2π3。
2π3=−4πi∫0∞1+x2logxdx+2π3
差し引きすると積分は 0。置換で出した答えと合いました。
arg(−i) を −π/2 にしてしまうと、この計算は合いません。切れ目のとり方に従って 3π/2 をとる。ここが最も間違えやすい点です。
上半円のほうが軽い
分枝の切れ目を負の虚軸にとると、上半平面の半円で足ります。こちらのほうが極は 1 つで済む。
−π/2<argz<3π/2 と決め、logz/(1+z2) を上半円で積分します。負の実軸の上では log(−t)=lnt+iπ。
∫−R−ε+∫εR=2∫0∞1+x2lnxdx+iπ∫0∞1+x2dx
右辺は 2πi 掛ける z=i の留数、つまり 2πi⋅(iπ/2)/(2i)=iπ2/2 です。
第 2 項が iπ⋅π/2=iπ2/2 なので、実部の 2L が 0。1 本の経路で 2 つの積分が同時に決まります。
同じ経路で (logz)2 を回すと、もう 1 段深い値が出ます。
∫0∞1+x2(logx)2dx=8π3
log の次数を 1 上げるたびに、既に分かっている低い次数の値を使って新しい値が決まる。階段を上るような構造です。
分母を 2 乗すると値が残る
0 になったのは対称性の偶然です。分母を変えると、log の積分が実際に値を持ちます。
∫0∞(1+x2)2logxdx=−4π
x→1/x で (1+x2)2 は (1+t2)2/t4 になり、dx の t−2 と合わせても打ち消しの形になりません。だから 0 にならない。
負になるのは、重みが x の小さい側に寄っているためです。(1+x2)−2 は (1+x2)−1 より速く落ちるので、logx<0 の領域の効きが強くなる。
分母に定数が入る形
a>0 として一般化すると、0 になる理由がはっきりします。
∫0∞x2+a2logxdx=2aπloga
a=1 で右辺が 0。a<1 なら負、a>1 なら正になります。
x=at と置けば logx=loga+logt と分かれ、loga の項が ∫dt/(1+t2)/a=π/(2a) を掛けた形で残り、logt の項が本文の 0 になる。一般形のほうが構造が見やすい。
a を大きくすると、重みの山が右へ移ります。logx が正になる領域を強く数えるようになり、値が正へ振れる。
よくある誤り
1 乗の logz を鍵穴で回しても、対数が消えて f だけの積分になります
分枝を決めたら、極の偏角もその範囲で読みます。arg(−i) は −π/2 ではなく 3π/2
切れ目の上に極を置いてはいけません。1/(1+x2) で正の実軸を切れるのは、極が ±i にあるためです
(logz)2 の左辺は複素数です。実部と虚部を分けてから読みます
既知として使う ∫fdx の値を先に確かめます。これが違うと log 側も狂う
x→1/x が効くのは分母がその置換で形を保つときだけです
参考文献
Jerry Shurman. Contour Integrals, Math 311 Complex Analysis. Reed College. Jeremy Orloff. Definite Integrals Using the Residue Theorem, 18.04 Complex Variables with Applications. MIT OpenCourseWare, 2018. Catalan constant. OEIS Foundation.
$\int_0^{\infty}\log x/(1+x^2)\,dx$ は $0$ です。前半が $-G$、後半が $+G$ で、初等関数で書けないカタラン定数どうしが打ち消し合う。$x \to 1/x$ の置換なら 3 行で済みますが、分母が形を保たない場合には効きません。鍵穴に $\log z$ を 1 乗で掛けると差が定数になり、対数が消えてしまう。そこで $2$ 乗して掛け、交差項として $\log$ を残します。切れ目を負の虚軸へ逃がして上半円で済ませる道、$(\log x)^2$ の積分が $\pi^3/8$ になる階段構造、分母に定数 $a$ を入れた一般形まで。