ブロムウィッチ積分で逆ラプラス変換を留数と分枝切断から組み立てる
ラプラス変換をもとに戻す式です[3]。ブロムウィッチ積分、あるいは反転公式と呼ばれます。
実務ではたいてい変換表を引きます。表に載っていない が出てきたとき、最後に残るのはこの積分だけ。複素平面の縦線に沿った積分で、閉じ方を工夫すると留数の和に化けます。
の符号によって閉じる向きが変わり、その違いがそのまま因果律になる。ここが、この公式のいちばんおもしろいところです。
縦線をどこに引くか
積分路は実部が の縦線です。 の条件は つだけで、 のすべての特異点より右にあること[4]。
が収束するのは、ある実部より右の半平面です。その境界を収束座標と呼び、 はそれより右にとる。
具体的な値は答えに影響しません。 本の縦線ではさまれた帯には特異点がないので、コーシーの定理で移し替えられる。
縦線より左に特異点が集まっています。閉じる側を選ぶ余地は、 の符号が決めます。
の符号が向きを決める
とすると です。指数の符号は と の積で決まる。
のときは が小さいほど が小さくなります。左へ大きく張り出した弧の上で被積分関数が消えるので、左へ閉じられる。
なら逆で、右へ閉じます。右半平面には特異点がないので、周積分は 。積分路そのものが になり、 が出ます。
つまり で値が になるという性質は、計算の結果として自動的に出てきます。ラプラス変換が因果的な系に向くのは、この構造のためです。

左右の濃淡が の符号で入れかわります。薄い側へ弧を伸ばせば、その部分の寄与が消える。
有理関数なら留数の和
が有理関数で、分母の次数が分子より大きいとします。このとき左へ閉じた弧は消え、答えは留数の和です。
いちばん単純な例から見ます。 の極は の 位で、留数は 。
なら極は です。留数は と で、足すと 。
部分分数分解と同じこと
をとります。極は と 。
での留数は 、 では です。
部分分数分解 の係数と、留数がそのまま一致しています。
留数を計算する作業は、部分分数の係数を求める作業と同じ。表を引く方法と留数の方法は、裏で同じ計算をしています。
重根では が出る
の極は の 位です。 位の極の留数は 回微分してから代入する。
微分が を落とします。 位の極なら まで出る。
制御工学で重根が現れると応答に の多項式が掛かるのは、この微分から来ています。極の位数がそのまま多項式の次数になる。
| 極 | ||
|---|---|---|
| 、1 位 | ||
| 、2 位 | ||
| 、2 位 | ||
| 、1 位 |
分枝点があると足りない
熱伝導の問題を解くと、平方根を含む変換が出ます。
は極ではありません。 のせいで分枝点になっていて、留数という言葉が使えない[1]。
負の実軸を切れ目にとり、そこを避けて回る経路を作ります。縦線、円弧、切れ目の上、原点をまわる小円、切れ目の下、そしてもう 本の円弧。
閉じた経路の内側に特異点はないので、周積分は 。したがって、もとの縦線の積分は残り 本の符号を変えたものになります[1]。
切れ目の上下と小円
切れ目の上では なので 、下では です。指数が に分かれる。
上下を足すと差が残り、正弦が出ます。
原点の小円は、 で を出します。、 の 周が で、向きが逆なので符号が付く。
まとめると、実数の積分表示が得られます。
誤差関数にまとまる
右辺の積分は計算でき、相補誤差関数になります[2]。
半無限の棒の端を温度 に保ったときの、内部の温度分布です。 という組み合わせだけで決まる。
長さが に比例して伸びる、という拡散の基本則が、この 変数への縮約に現れています。
曲線の形は変わらず、横方向に で引き伸ばされていきます。 が 変数の関数だという事実の見え方。
端の値だけを知りたいとき
反転しなくても分かることがあります。 の極限を見る手です。
初期値定理と最終値定理と呼ばれます。最終値のほうは、 の極がすべて左半平面にあるときだけ使える。
なら で、 が 。確かに の極限と合います。
に最終値定理を当てると が出ますが、 は振れ続けて極限を持ちません。極が虚軸に乗っているので、条件を満たしていない。
数値で反転しにくい理由
ブロムウィッチ積分を数値的に計算するのは難しい問題として知られています。
が縦線の上で激しく振動するうえ、 の小さな誤差が の大きな誤差に化ける。逆問題として不安定です。
実務では経路を放物線や双曲線に変形し、被積分関数が指数的に落ちるようにします。変形してよい根拠は、いままで使ってきたコーシーの定理そのもの。
発展
が無限個の極を持つ場合は、留数の和が無限級数になります。有限の棒の熱伝導では や が分母に出て、極が虚軸に等間隔で並ぶ。
そこから出る級数が、フーリエ級数による解と一致します。ラプラス変換で解いても変数分離で解いても同じ答えになる、という事実の計算面がここ。
分枝点と極が両方ある場合は、留数の和に切れ目の積分を足します。前者が振動する成分、後者が減衰する成分を担うことが多い。











