sin x/x の積分はなぜ π/2 になるのか?ディリクレ積分と原点をよける半円
です。ディリクレ積分と呼ばれます。
実数の範囲では手が出ません。 の原始関数は初等関数で書けず、部分積分も置換も効かない。値だけがきれいな に決まるのに、そこへ届く道が実軸の上にない[1]。
複素平面へ出ると届きます。原点を小さくよけた半円を使い、消える部分と残る部分に分ける。残った部分が求めたい積分です。
のまま延ばすと発散する
まず、素直に を上半平面へ延ばして半円で閉じる、という道が塞がっていることを見ます。
とおくと 、 です。上半平面では なので、後ろの項が で膨らむ。
半径 の半円のてっぺんでは ですから、 はおよそ になります。分母の で割っても 。 を大きくすると弧の寄与が爆発する。
実軸の上でだけ有界だという性質は、複素平面へ持ち上げた瞬間に消えます。ここが最初の関門。
に置き換える
そこで を に置き換え、最後に虚部をとります。
上半平面では なので、今度は膨らみません。 が大きいところではむしろ指数的に小さくなる。
替えてよいのは、虚部が求めたいものと一致するからです。 をそのまま使うと の側が残るので、同じ理由で失敗します[2]。
替えたぶんの代償もあります。 は原点で に伸びるのに、 は原点で発散する。もとの積分にはなかった極が、途中で現れてしまいました。
原点をよけた半円
極が実軸の上に乗ってしまったので、経路をその点でくぼませます。半径 の小さい半円で原点を上からまたぎ、外側は半径 の大きい半円で閉じる。
小さい半円を上へ張り出させたので、原点は経路の内側に入りません。この向きのとり方が、あとで符号を決めます。
経路は 4 本です。実軸の 、原点をまたぐ小さい弧、実軸の 、外側の大きい弧。
内側に極はない
の特異点は ただ 1 つで、それを外へ追い出しました。囲まれた領域の中に極がないので、周積分は になります。
留数定理の右辺が空和になっただけの、いちばん素朴な使い方です。値が だと分かっているので、4 本の和が という等式が手に入る。
あとは、消える部分を消し、残る部分を計算するだけ。
大きい弧はジョルダンの補題で消える
外の弧では です。 が と の近くを除けば、 とともに指数的に小さくなる。
端の近くだけが残りますが、そこは弧の長さが短い。両方を合わせると、全体としてきちんと へ落ちます[2]。
右辺の評価には ()を使います[6]。ジョルダンの不等式と呼ばれ、 の弧を弦で下からおさえる形。
を大きくすると、山は両端の細い柱だけになります。柱の高さは で頭打ちですが、幅が の程度まで細る。
ここで効いているのは の減衰だけで、 の側は へ行きさえすればよい。分母の次数が しかなくても通ります。そこがこの補題の値打ち。
小さい弧は半周ぶんだけ残る
内側の弧は消えません。半径を小さくすると、留数の定数倍という決まった値へ寄っていきます。
のまわりでローラン展開すると、 です。 の項だけが半径によらない量を出し、残りは とともに消える。
角度 の弧なら 倍です[1]。1 周が 倍で、半周なら半分。ここでは上向きにまたぐぶん時計回りなので、符号が負になります。
この比例は 1 位の極でだけ成り立ちます。2 位以上だと が残って極限そのものがない。
角度と寄与がまっすぐ比例するところが、この定理の使いやすさです。 円なら 、 円なら 。
4 本を足す
材料がそろいました。周積分が で、外の弧が 、内の弧が です。
したがって主値は です[5]。実部と虚部に分けます。
のほうは奇関数なので、主値が になるのは見た目どおり。 は偶関数なので、半分にして が出ます。
特異点は途中で生まれ、途中で消える
もとの は原点で困りません。 ですから、割ると で、値は に伸びる。
除ける特異点しか持たない関数を、わざわざ極を持つ関数へ置き換え、その極の寄与を最後に回収した。回り道に見えますが、これが唯一つながる道です。
の主値が で、虚部だけが生き残る。実部の発散は、左右対称に近づけるという約束の中で打ち消し合っています。
条件収束であって絶対収束ではない
の積分は収束しますが、絶対値をとると発散します。
での の積分は です。分母は高々 なので、区間ごとの寄与は 以上。足すと調和級数になり、発散する。
つまり正と負が交互に打ち消し合って、はじめて有限の値が出ています。順番を入れかえてよい積分ではありません。
途中までの積分は と書かれ、正弦積分と呼ばれます[3]。 で最大の をとり、そこから振れ幅を狭めながら へ寄っていく。
この行き過ぎが、フーリエ級数のギブス現象で見える突き抜けの正体です。角の立った波形は、項をどれだけ増やしても 倍のところまで行ってしまう。跳びの高さに対して約 です。
係数を変えると符号だけが変わる
を実数として を積分すると、 の大きさによりません。
なら と置換するだけで、 が変わらないので値も変わらない。 なら が奇関数なので符号が裏返ります。
を に近づけても のままで、 ちょうどでいきなり に落ちる。値が飛ぶこの性質から、ディリクレの不連続因子という名前が付いています。
複素解析の側から見ると、 の符号によって が減衰する半平面が上下入れかわり、閉じる側が変わっているだけ。飛びの正体は経路のとり方です。
2 乗しても値は変わらない
見た目にそぐわない一致があります。
こちらは絶対収束するので、扱いはずっと楽。部分積分で に落ち、置換すればもとの積分に戻る。
3 乗になると で、一致は途切れます。偶然に見えて、 が矩形関数のフーリエ変換であることから来ている[4]。2 乗の積分はパーセバルの等式で矩形の面積に移り、その面積がもとの積分と同じ値になる。










