sin1∘+sin2∘+⋯+sin179∘ は 114.5887⋯ です。179 個を足したわけではありません。
三角関数の和には、公式で一気に片づける手があります。
sinθ+sin2θ+⋯+sinnθ=sin2θsin2nθsin2(n+1)θ
見た目は複雑ですが、作り方は素朴です。全体に 2sin2θ を掛けるだけ。
掛けた瞬間、項どうしが打ち消し合って両端しか残りません。
2sin(θ/2) を掛ける
sinkθ に 2sin2θ を掛けます。積和の公式を当てる[1]。
sinαsinβ=21{cos(α−β)−cos(α+β)} で、α=kθ、β=2θ。
2sin2θsinkθ=cos2(2k−1)θ−cos2(2k+1)θ
右辺が差の形になりました。k 番目の後ろの項と、k+1 番目の前の項が同じ式です。
k=1 では cos2θ−cos23θ、k=2 では cos23θ−cos25θ。
cos23θ が符号を変えて 2 回現れ、足すと消えます。
これが n 個ぶん続くので、生き残るのは最初と最後だけ。望遠鏡が縮むように、中身が畳まれます[2]。
2sin2θk=1∑nsinkθ=cos2θ−cos2(2n+1)θ
canvas: 式は呼び出しにそのまま書いてください。この引数は焼けません -> drawMath(… fsLabel[index][0] …)
和積でもう一段きれいにする
cos2θ−cos2(2n+1)θ を積の形に直します。
cosA−cosB=−2sin2A+Bsin2A−B を当てます[1]。
平均は 2(n+1)θ、差の半分は −2nθ です。
sin は奇関数なので、−2×sin2(n+1)θ×(−sin2nθ)=2sin2(n+1)θsin2nθ。
両辺を 2sin2θ で割れば、冒頭の公式が出ます。
k=1∑nsinkθ=sin2θsin2nθsin2(n+1)θ
sin2θ=0、つまり θ が 2π の整数倍のときは割れません。そのときは各項が 0 なので、和も 0 です。
例:n = 3、θ = π/3
素直に足してみます。sin3π+sin32π+sinπ=23+23+0=3。
公式でも出します。2nθ=2π、2(n+1)θ=32π、2θ=6π。
sin6πsin2πsin32π=211×23=3
一致しました。項が 3 つなら手で足すほうが速いですが、n=179 ではそうもいきません。
冒頭の 179 項を出す
θ=1∘、n=179 とします。2nθ=89.5∘、2(n+1)θ=90∘、2θ=0.5∘。
sin0.5∘sin89.5∘×sin90∘=sin0.5∘sin89.5∘
sin89.5∘=cos0.5∘ なので、これは sin0.5∘cos0.5∘=tan0.5∘1 です。
tan0.5∘≒0.0087269 なので、和は 114.5887。
179 個の値を 1 つずつ足す代わりに、tan を 1 回計算するだけで済みました。
sin90∘=1 がうまく効いています。n が奇数で θ=1∘ という設定は、そこを狙ったものです。
和が 0 になる場合
θ=n2π とすると、sin2nθ=sinπ=0 です。
分子が 0 なので、和も 0 になります。
sinn2π+sinn4π+⋯+sinn2nπ=0
図で見ると当たり前です。単位円を n 等分した点の y 座標を全部足しているので、上下で釣り合います。
cos のほうを足しても 0 になります。正 n 角形の重心が中心にある、という事実の言い換えです。
n 等分点の座標をすべて足すと 0 になるのは、図形の対称性 から出ます。
全体を n2π 回転しても点の集合が変わらないので、和のベクトルも回転して変わらない。そんなベクトルは 0 しかありません。
cos の和も同じ手で出る
coskθ に 2sin2θ を掛けます。今度は sinαcosβ の積和を使う。
2sin2θcoskθ=sin2(2k+1)θ−sin2(2k−1)θ
やはり差の形です。足し合わせると、途中が消えて両端だけ残ります。
k=1∑ncoskθ=sin2θsin2nθcos2(n+1)θ
sin のときと比べると、分子の後ろが sin から cos に変わっただけです。
n=1 で確かめます。sin2θsin2θcosθ=cosθ。合っています。
まちがえやすい点
掛ける相手を sinθ とする誤りが多い。2sin2θ で、半分の角です。
半分でないと差の形が隣とつながりません。2(2k±1)θ という刻みが要ります。
最後に 2sin2θ で割り忘れる形もよく出ます。掛けたものは戻します。
θ が 2π の整数倍の場合を確かめずに公式を当てる誤りもあります。分母が 0 になります。
cos の和で分子の後ろを sin のままにする形も見ます。sin の和は sinsin、cos の和は sincos です。
sin4π+sin2π+sin43π+sinπ の値はどれですか。
__RESULT__
θ=4π、n=4 です。素直に足すと 22+1+22+0=1+2 になります。公式では sin8πsin2πsin85π で、これも同じ値です。
和が消える場合も確かめます。
sin52π+sin54π+sin56π+sin58π+sin510π の値はどれですか。
__RESULT__
θ=52π、n=5 なので 2nθ=π です。sinπ=0 が分子に来るので、和は 0 になります。単位円を 5 等分した点の y 座標を全部足した形で、上下が釣り合っています。
2sin2θ を掛けて差に変え、畳んで、割り戻す。三角関数の和は、この 3 手で閉じた形になります。
参考文献
Sum-to-Product and Product-to-Sum Formulas. Algebra and Trigonometry 2e, OpenStax(積和と和積). Po-Shen Loh. Telescoping Sums and Products, Carnegie Mellon University(sin2x を掛けて積和で畳む手順).
$\sin 1^\circ + \sin 2^\circ + \cdots + \sin 179^\circ$ は $114.5887\cdots$ ですが、179 個を足したわけではありません。全体に $2\sin\dfrac{\theta}{2}$ を掛けると、積和で各項が差の形に変わり、隣どうしが打ち消し合って両端しか残らない。あとは和積でまとめて割り戻すだけです。答えは $\dfrac{\sin\frac{n\theta}{2}\sin\frac{(n+1)\theta}{2}}{\sin\frac{\theta}{2}}$。$\theta = \dfrac{2\pi}{n}$ で和が $0$ になるのは、単位円の $n$ 等分点の座標を全部足した形だから。$\cos$ の和と、掛ける相手が半分の角でなければならない理由まで。
θ=4π、n=4 です。素直に足すと 22+1+22+0=1+2 になります。公式では sin8πsin2πsin85π で、これも同じ値です。