cos2θ=2cos2θ−1、cos3θ=4cos3θ−3cosθ。
どちらも cosθ だけの式になっています。sinθ が 1 つも残りません。
これは偶然ではありません。cosnθ は、どんな n でも cosθ の n 次式になります。
x=cosθ と置けば、cos4θ=8x4−8x2+1、cos5θ=16x5−20x3+5x。
三角関数が多項式に化ける。この事実は、次数の低いところを作るだけで確かめられます。
1 つ前と 2 つ前でつながる
作り方の鍵は、和積の 1 本にあります[1]。
cos(n+1)θ+cos(n−1)θ=2cosnθcosθ
cosA+cosB=2cos2A+Bcos2A−B に A=(n+1)θ、B=(n−1)θ を入れた形です。
平均が nθ、差の半分が θ になります。
移項すると、cos(n+1)θ が 1 つ前と 2 つ前で書けます。
cos(n+1)θ=2cosθcosnθ−cos(n−1)θ
cosnθ が x の n 次式で、cos(n−1)θ が n−1 次式なら、右辺は n+1 次式です。
2x を掛けると次数が 1 上がるためです。出発点は cos0=1 と cosθ=x。
数学的帰納法の形がそろいました。n 次式になることが、これで示せます。
順に作ってみる
n=1 からたどります。T1=x、T0=1 と書くことにします。
T2=2x⋅x−1=2x2−1。cos2θ の式と合っています[2]。
T3=2x(2x2−1)−x=4x3−2x−x=4x3−3x。3 倍角の公式です。
T4=2x(4x3−3x)−(2x2−1)=8x4−6x2−2x2+1=8x4−8x2+1。
T5=2x(8x4−8x2+1)−(4x3−3x)=16x5−16x3+2x−4x3+3x=16x5−20x3+5x。
検算します。θ=0 なら x=1 で、どの Tn も 1 になるはずです。
T4 は 8−8+1=1、T5 は 16−20+5=1。合いました。
| T1 | x |
| T2 | 2x2−1 |
| T3 | 4x3−3x |
| T4 | 8x4−8x2+1 |
| T5 | 16x5−20x3+5x |
先頭の係数を並べると 1、2、4、8、16。2n−1 です。
漸化式で毎回 2x を掛けるので、2 が 1 つずつ積み上がります。
sin のほうはどうか
sin2θ=2sinθcosθ には cos が残ります。sinθ だけの式にはなりません。
sin3θ=3sinθ−4sin3θ はなります。n が奇数のときだけ、sinθ の多項式になる。
理由は偶奇にあります。sin(π−θ)=sinθ なので、θ と π−θ で sinθ は同じ値です。
n が偶数だと sinn(π−θ)=sin(nπ−nθ)=−sinnθ となり、符号が変わります。
同じ入力に違う出力が対応するので、sinθ だけの式では書けません。
cos にはこの問題が起きません。cos(−θ)=cosθ で、cosn(−θ)=cosnθ も成り立つためです。
cos の場合
どんな n でも cosθ の n 次式になる。偶関数どうしなので矛盾が出ない
sin の場合
n が奇数のときだけ sinθ の多項式になる。偶数では符号の食い違いが起きる
方程式の解が cos の値になる
Tn(x)=0 を解きます。cosnθ=0 と同じことです。
nθ=2π+kπ から θ=2n(2k+1)π。
x=cosθ に戻すと、解は cos2n(2k+1)π の形になります。k=0 から n−1 までで n 個。
n=3 で確かめます。4x3−3x=0 から x(4x2−3)=0、解は 0 と ±23。
公式では cos6π=23、cos2π=0、cos65π=−23。一致しました。
n 次方程式が n 個の実数解を持ち、しかもすべて −1 と 1 のあいだにある。めずらしい多項式です。
cos 20 度が満たす方程式
T3(x)=cos3θ に θ=20∘ を入れます。cos60∘=21 です。
4x3−3x=21
両辺を 2 倍して 8x3−6x−1=0。x=cos20∘≒0.9397 がこの方程式の解です。
x=±1、±21、±41、±81 を入れても 0 になりません。分数の解を持たない 3 次方程式です。
30∘ や 45∘ の値が根号で書けるのに、20∘ が書けない。その境目が、この方程式に現れています。
同じ手で cos40∘ や cos80∘ も出せます。3×40=120、3×80=240 なので、どちらも cos3θ=−21。
8x3−6x+1=0 の解が cos40∘、cos80∘、cos160∘ の 3 つです。
canvas: 式は呼び出しにそのまま書いてください。この引数は焼けません -> drawMath(… ldRows[index][0] …)
値が -1 と 1 のあいだに収まる
Tn(x) は n 次式なので、x を大きくすればいくらでも大きくなります。
ところが −1≤x≤1 に限ると、値も −1 と 1 のあいだから出ません。
x=cosθ と書けるので、Tn(x)=cosnθ になるためです。cos の値域そのもの。
T5(x)=16x5−20x3+5x は、先頭の係数が 16 もあります。それでも 1 を超えません。
x=1 で 16−20+5=1。ぎりぎり 1 に届いて、そこで止まります。
高い次数の項と低い次数の項が、うまく打ち消し合っている。多項式としては特別な性質です。
Tn が −1 と 1 のあいだで暴れないことは、近似の道具 としての価値につながります。
高校では扱いませんが、関数を多項式で近づけるときにこの性質が使われます。ここでは cosnθ の書き換えとして見ておけば足ります。
まちがえやすい点
漸化式の符号をまちがえる誤りが多い。−Tn−1 で、引き算です。
T4 を作るとき 2x⋅T3 だけで止める形もよく見ます。T2 を引くところまでが 1 手です。
sinnθ も sinθ の多項式になると思い込む誤りもあります。奇数のときだけです。
Tn(x)=0 の解を求めるとき、k の範囲を書き忘れる形も起きます。0 から n−1 までで n 個。
x=cosθ と置いたあと、x の範囲を落とす誤りもあります。−1≤x≤1 です。
T4(x)=2xT3(x)−T2(x) を計算するとどれになりますか。
- 8x4−8x2+1
- 8x4−6x2
- 8x4−8x2−1
__RESULT__
2x(4x3−3x)=8x4−6x2 から 2x2−1 を引きます。8x4−6x2−2x2+1=8x4−8x2+1 です。x=1 を入れると 8−8+1=1 で、cos0=1 と合います。
方程式の解も確かめます。
8x3−6x−1=0 の解の 1 つはどれですか。
__RESULT__
4x3−3x=cos3θ で x=cosθ です。8x3−6x=1 すなわち 4x3−3x=21 なので cos3θ=21、3θ=60∘ から θ=20∘ になります。cos30∘ を入れても 0 にはなりません。
和積の 1 本から漸化式が出て、そこから n 次式が積み上がる。三角関数と多項式をつなぐ橋です。
参考文献
Sum-to-Product and Product-to-Sum Formulas. Algebra and Trigonometry 2e, OpenStax(cosA+cosB の和積). Double-Angle, Half-Angle, and Reduction Formulas. Algebra and Trigonometry 2e, OpenStax(cos2θ=2cos2θ−1).
$\cos 2\theta = 2\cos^2\theta - 1$ にも $\cos 3\theta = 4\cos^3\theta - 3\cos\theta$ にも $\sin$ が残りません。偶然ではなく、$\cos n\theta$ はどんな $n$ でも $\cos\theta$ の $n$ 次式になります。鍵は和積の 1 本で、$\cos(n+1)\theta = 2\cos\theta\cos n\theta - \cos(n-1)\theta$。$2x$ を掛けるので次数が 1 ずつ上がり、先頭の係数は $2^{n-1}$ になります。$\sin$ が奇数のときしか多項式にならない理由、$8x^3-6x-1=0$ の解が $\cos 20^\circ$ になる仕組み、$n$ 個の解がすべて $\cos$ の値になる話まで。
2x(4x3−3x)=8x4−6x2 から 2x2−1 を引きます。8x4−6x2−2x2+1=8x4−8x2+1 です。x=1 を入れると 8−8+1=1 で、cos0=1 と合います。