逆関数の微分|定義からの証明と逆三角関数の導関数
逆関数の導関数は、もとの関数の導関数の逆数になります。式としては一行ですが、成り立つ理由と成り立たなくなる場面を押さえておかないと、使える場面を見誤ります。
対数関数と逆三角関数の導関数は、どれもこの公式から出てきます。定義に戻って微分するより、もとの関数の側で計算するほうが早いからです。
逆関数の微分公式
を区間とし、 を連続かつ狭義単調な関数とします。 が で微分可能で とし、 と置きます。
このとき逆関数 は で微分可能で、導関数は次の形です。
仮定の置き方に注意します。 の微分可能性は点 でだけ要求していて、導関数 が連続であることまでは求めていません。
連続性と狭義単調性のほうは区間全体で要ります。これは逆関数が存在して連続になるための条件で、微分の話に入る前の段階のものです。
ライプニッツ記法での形
と書けば、公式は次の形になります。
分数のように扱えるので覚えやすい形です。ただし記法が評価点を隠しているぶん、危うさもあります。
左辺は での値、右辺の分母は での値です。同じ点を別の変数で指しているだけですが、記号の上では書き分けられていません。
計算するときは をまず の式で求め、そのあと を代入して の式に直します。この代入を忘れるのがよくある誤りです。
連鎖律による導出は証明になっていない
と置き、 の両辺を で微分します。連鎖律から次が出ます。
なら です。式そのものは正しく、公式を思い出すには便利な計算になっています。
しかしこれは証明ではありません。連鎖律を使った時点で、 が微分可能であることを仮定してしまっているからです。
証明したいのは、まさにその「 が微分可能である」という部分です。使ってよいのは、微分可能だと分かったあとの導関数の値だけになります。
を微分する。 の微分可能性を先に仮定しているので、公式を覚えるための計算にとどまる。
差商そのものを変形する。 が微分可能であることと導関数の値を、同時に導ける。
定義からの証明
と置きます。調べるのは としたときの差商の極限です。
と置くと 、 なので、差商はもとの関数の差商をひっくり返した形に書き換わります。
は狭義単調なので単射です。したがって なら となり、右辺の分母は 0 になりません。
は で連続なので、 のとき です。ここが証明の要で、連続性がないと極限の受け渡しができません。
は で微分可能で だから、 のとき右辺の分母側の差商は に近づきます。極限が 0 でないので逆数が取れます。
極限が存在することがここで示せました。つまり の微分可能性と導関数の値が、同じ計算から同時に出ています。
差商をひっくり返して の差商にする
の連続性で を に移す
なので逆数が取れる
逆関数の連続性
前節で使った「 が で連続」は、断りなく使ってよい事実ではありません。
区間 で連続かつ狭義単調な について、値域 もまた区間になります。中間値の定理がこれを保証します。
が狭義単調であるとは、 ならば必ず となる、または必ず となることです。
等号を許す単調性と違い、異なる点が必ず異なる値へ移ります。だから逆関数がそのまま定義できます。
逆関数 も狭義単調です。単調な関数が不連続になるとき、その点の左右の極限のあいだで値が飛び、値域に穴が空きます。
ところが の値域は区間 そのものです。穴を作れないので、 は連続でなければなりません。
単調性がここまで効いています。 を連続とだけ仮定しても、そもそも逆関数は存在しません。
グラフの対称性から見る
<svg viewBox="0 0 460 300" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="60" y1="250" x2="280" y2="30" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="50" y1="250" x2="300" y2="250" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="60" y1="260" x2="60" y2="20" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="60,250 104,236 148,204 192,158 236,99 280,30" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></polyline>
<polyline points="60,250 74,206 106,162 152,118 211,74 280,30" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></polyline>
<line x1="148" y1="210" x2="247" y2="92" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<line x1="108" y1="155" x2="210" y2="70" stroke="#d0562a" stroke-width="1"></line>
<circle cx="192" cy="158" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="152" cy="118" r="3" fill="#d0562a"></circle>
<text x="310" y="60" font-size="11" fill="#1b81e0">f のグラフ</text>
<text x="310" y="80" font-size="11" fill="#d0562a">逆関数のグラフ</text>
<text x="310" y="100" font-size="11" fill="#9a9a9a">直線 y = x</text>
<text x="310" y="132" font-size="11" fill="#1f1f1f">2 本の接線の</text>
<text x="310" y="148" font-size="11" fill="#1f1f1f">傾きは逆数</text>
<text x="60" y="284" font-size="11" fill="#9a9a9a">y = x に関して折り返すと、接線も接線に移る</text>
</svg>のグラフ上の点 は、逆関数のグラフでは に対応します。2 つのグラフは直線 に関して対称です。
この対称移動は接線を接線に移します。傾き の直線を で折り返すと傾きが になるので、公式は図の上ではこの一行に尽きます。
のときだけ折り返した先が垂直な直線になり、傾きを持ちません。 という仮定が図に現れているのがここです。
具体例:対数関数
とすると で、これはどこでも 0 になりません。 は狭義単調増加で、値域は です。
逆関数は なので、公式にそのまま当てはめます。
変数名を に戻せば です。
という書き換えが効いています。 を の値で評価してから、もとの変数だけの式に直す。この手順はどの例でも変わりません。
具体例: 乗根
を 2 以上の自然数とし、 を で考えます。 は正なので狭義単調増加です。
逆関数は で、 を で評価します。
べき関数の微分公式が、指数が のときも同じ形で成り立つと分かります。
は範囲から外してあります。 なので公式が使えず、実際 では は で微分可能ではありません。
具体例:一般のべき関数
指数が任意の実数 のときは、対数を経由します。 で と定めるのが定義です。
連鎖律と、前節で求めた を続けて使います。
逆関数の微分そのものではありませんが、 の導関数を通して間接的に使っています。 乗根の場合はこれの特別な場合です。
具体例:
を に制限します。この範囲で なので狭義単調増加で、値域は です。
と置くと なので、公式は次の形になります。
右辺を の式に直します。 であり、制限した範囲では なので正の平方根を取ります。
符号を決めているのは定義域です。制限する範囲を などに取り替えれば になり、符号は反転します。
具体例:
を に制限します。 なので、こちらは狭義単調減少です。
のとき で、この範囲では です。
が成り立つので、2 つの導関数を足すと 0 にならなければなりません。計算結果はこれと合っています。
狭義単調減少の場合も公式はそのまま使えます。 が負であることが、導関数の符号にそのまま出ているだけです。
具体例:
を に制限します。 で、値域は 全体になります。
のとき なので、次のように計算できます。
平方根が出てこないのがこの例の特徴です。 という関係だけで の式に直せます。
導関数が 全体で正かつ有界なのも読み取れます。 の側が端で発散するぶん、逆関数の傾きは 0 に近づく一方です。
具体例: の逆関数
とします。 なので、 全体で狭義単調増加です。
のとき で、 と から次が出ます。
この逆関数は閉じた式で書けます。 を について解くと となるので、 です。
こちらを直接微分しても同じ答えになります。
2 通りの計算が一致しました。逆関数の側の式が書けない場合でも導関数だけは取り出せる、というのが公式の値打ちです。
端点で公式が使えなくなる
は で定義できますが、微分可能なのは開区間 だけです。
に対応するのは で、そこでは になります。 にあたるので、仮定が破れています。
実際 は で発散します。グラフでは接線が垂直に立ってしまい、傾きという言葉が意味を持ちません。
に同じ現象がないのは、 の導関数が定義域全体で正のままだからです。値域が 全体に広がる代わりに、端点そのものが現れません。
のとき何が起きるか
は 全体で狭義単調増加なので、逆関数 が存在します。
ところが です。 での の差商を直接計算してみます。
でこれは に発散するので、 は で微分可能ではありません。
<svg viewBox="0 0 460 210" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="50" y1="105" x2="190" y2="105" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="120" y1="35" x2="120" y2="175" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="55,170 68,138 81,119 94,109 107,106 120,105 133,104 146,101 159,91 172,72 185,40" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></polyline>
<line x1="95" y1="105" x2="145" y2="105" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></line>
<line x1="260" y1="105" x2="400" y2="105" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="330" y1="35" x2="330" y2="175" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="265,170 297,157 316,144 326,131 329,118 330,105 331,92 334,79 344,66 363,53 395,40" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></polyline>
<line x1="330" y1="80" x2="330" y2="130" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></line>
<text x="50" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">傾き 0 の接線は、折り返すと垂直になる</text>
<text x="50" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a">3 乗のグラフ。原点で接線は水平</text>
<text x="260" y="196" font-size="11" fill="#9a9a9a">3 乗根のグラフ。原点で接線は垂直</text>
</svg>逆関数が存在しなくなるのではなく、存在はするが微分可能でなくなる、というのがこの場合です。狭義単調性と微分可能性は別の条件だと分かります。
は必要条件でもある
仮定 は、証明の都合で置いた技術的な条件ではありません。外せない条件です。
が で微分可能、 が で微分可能だとします。 に連鎖律を使えば が出ます。
積が 1 なのだから、 でなければなりません。裏を返せば、 のとき が で微分可能になることはありえません。
ここで連鎖律を使ってよい理由もはっきりしています。 の微分可能性を仮定したうえで話しているので、循環にはなっていません。
が区間で連続かつ狭義単調増加で、 で微分可能かつ とする。 について正しいものはどれか。
- 逆関数が存在しない
- 逆関数は存在するが で微分可能でない
- 逆関数は で微分可能で、その導関数は 0 になる
- 狭義単調増加なら は起こらない
逆関数が存在する条件
微分の話の前に、逆関数そのものが存在しなければ始まりません。区間で連続かつ狭義単調であれば、逆関数は存在して連続になります。
導関数から狭義単調性を出すときは平均値の定理を使います。区間全体で なら、 に対して となるからです。
狭義単調増加が従う。十分条件ではあるが、必要条件ではない。
導関数については までしか言えない。 は狭義単調増加だが である。
導関数が消える点があっても狭義単調でありうる、というのがこの差です。逆関数の存在だけを問題にするなら、 でも困りません。
導関数の連続性がないと局所的な逆関数も作れない
区間全体ではなく、 の近くだけで逆関数を作りたい場合を考えます。 という条件だけでは足りません。
次の関数を見ます。 では 、そして と定めます。
での差商は で、第 2 項は で押さえられます。したがって です。
では積の微分と連鎖律から次のようになります。
では かつ なので です。 では となり になります。
0 のどんな近くにも の点と の点があります。したがって は 0 のどの近傍でも単調にならず、単射でないので局所的な逆関数も作れません。
が で連続なら話は変わります。 から近くで の符号が一定になり、そこで狭義単調になるからです。
区間で連続かつ狭義単調であればよい。導関数はまったく使わない。
同じ条件から自動的に従う。値域が区間になることが効いている。
さらに が で微分可能で であればよい。 の連続性は要らない。
局所的に逆関数を作る場面でだけ、 の連続性が必要になります。条件がどこで効くのかを分けて覚えておくと混乱しません。
逆関数の 2 階導関数
をもう一度微分します。商の微分と連鎖律を続けて使うだけです。
を代入したので、分母の次数が 3 に上がりました。1 階のときのような素直な逆数にはなりません。
を で取って確かめます。、 なので、公式は を与えます。
一方 を直接 2 回微分すると です。 を代入すれば両者は一致します。
符号が反転するところも読み取れます。増加する凸関数の逆関数は凹になり、 に関する折り返しと辻褄が合っています。











逆関数の存在に導関数は関係しない。一方 g′(b)f′(a)=1 が必要なので、f′(a)=0 なら微分可能になりえない。f(x)=x3 が実例である。