積分してから微分すると元に戻る - 微分積分学の基本定理
定積分は長方形の和の極限として定義されます。定義をそのままなぞると、 ひとつ出すのにも和の極限を扱うことになる。
ところが原始関数を 1 つ見つけて両端で引き算すれば、同じ値が 2 行で出ます。この近道を微分積分学の基本定理が保証します[1]。
微分と積分はたがいに逆の操作である、と一言でまとめられます。ただし逆になる向きは 2 つあり、必要な仮定も別物。以下では 2 つの主張を分けて述べ、証明を書き下し、仮定を外すとどこが壊れるかまで扱います。
面積を x の関数と見る
出発点は、積分の上端を動かすことです。 を で連続とし、上端だけを変数にした関数を作ります。
が右へ進むほど、拾う面積が増えていく。 は「 から までに溜まった量」を表す関数になります。
積分変数を と書き分けたのは、上端の と混ざらないようにするためです。中身の は積分し終われば消えるので、 は だけの関数になります。
第一基本定理
が で連続なら、 は で微分可能で、導関数がもとの に戻ります[1,2]。
積分してから微分すると元に戻る、という向きです。連続な関数は必ず原始関数を持つ、という存在の主張でもある。
高さが大きい場所ほど面積は速く溜まります。溜まる速さがそのときの高さに等しい。等式の中身はそれだけです。
証明:増分は細い短冊になる
とし、差をとります。積分の区間を分ければ、余分な部分が消えて短い区間だけが残る。
は連続なので、この短い区間で積分の平均値の定理が使えます。 と のあいだのどこかに があって、短冊の面積が長方形 1 枚ぶんに等しくなる[3]。
は と に挟まれているので、 とすれば です。 の連続性から となり、差分商の極限が になります。
でも同じ議論が通ります。区間の向きが逆になるぶん符号も逆になり、割り算で打ち消し合う。

第二基本定理
こちらは計算のための主張です。 が でリーマン積分可能で、 が で連続かつ で を満たすとします[1]。
右辺を と略記します。ニュートン・ライプニッツの公式とも呼ばれる形です。
仮定が第一定理より弱い点に注意が要ります。 には連続性を要求せず、積分可能でありさえすればよい。
が連続なら、第一定理から原始関数の存在まで込みで言えます。実際に手を動かす場面では、こちらの系の形で使うことがほとんどです。
証明:2 つの原始関数の差は定数
が連続な場合から見ます。 と置くと第一定理から 、仮定から なので、差の導関数が消えます。
平均値の定理の系より、導関数が区間全体で なら関数は定数です。よって と書ける。
から が決まります。 を代入すれば主張の形になる。
が連続でない一般の場合は、分割の各小区間で平均値の定理を当てます。 を隣り合う差の和に分け、各差を に書き換えると、右辺がちょうど のリーマン和になる。
分割を細かくすると、リーマン和は が積分可能という仮定から積分値へ収束します。左辺は分割によらず のままなので、両者が一致する。
例 1:多項式
原始関数を 1 つ見つけて両端で引くだけです。
定義に戻れば の極限を計算することになります。和の公式を思い出す手間が、原始関数 1 つに置きかわりました。
例 2:三角関数
原始関数の定数のとり方は答えに影響しません。 を使っても、引き算で が消える。
例 3:符号が変わる場合
前半の正の面積と後半の負の面積が打ち消し合っています。基本定理は符号つきの面積を返すので、囲まれた図形の面積が欲しいときは に直してから積分します。
例 4:区間を分けて計算する
を出します。絶対値のままでは原始関数が書けないので、 で切る。
それぞれ なので、合わせて です。 は連続なので第一定理も使え、面積関数は でもなめらかにつながります。
例 5:上端が関数になっている場合
上端が そのものでなく のときは、合成関数の微分を重ねます。 を微分します。
と置けば で、 です。
例 6:両端とも動く場合
一般に両端が動くときは、途中に定点を挟んで 2 つに割ります。
ライプニッツの積分則と呼ばれる形です[2]。 を微分すると になる。
被積分関数の原始関数が初等関数で書けなくても、微分のほうは書けます。 がその代表例です。
例 7:極限に使う
積分の形をした不定形も、基本定理で片づきます。
分子分母とも に行くのでロピタルの定理を当てます。分子の微分は第一定理から なので、式は になる。
から、極限は です。
例 8:定義に戻って確かめる
基本定理を使わずに を出し、答えを突き合わせます。区間を 等分し、右端で高さをとる。
で になり、 と一致しました。1 次関数でこの手間なので、 以上では和の公式が要ります。
仮定を外す:不連続点があると折れる
第一定理の仮定は の連続性でした。外すとどこが壊れるかを、階段状の関数で見ます。
は不連続ですが積分はできます。面積関数は で 、 で になる。
は連続で、 以外では が成り立ちます。ところが では左右の傾きが と に分かれ、微分できません。
跳びの点だけが例外になる、という壊れ方です。飛び先が有限個なら は連続のまま折れ線になり、積分値には影響しません。

原始関数を持つのに積分できない関数
逆向きの壊れ方もあります。微分可能なのに、導関数がリーマン積分できない例です[1]。
原点でも なので微分可能で、 です。
ところが での導関数には という項が現れます。原点に近づくと際限なく大きくなる。
リーマン積分は有界な関数にしか定義されません。 は で有界でないので、 という式自体が書けない。
ヴォルテラの関数
導関数が有界でも足りません。ヴォルテラは、いたるところ微分可能で導関数が有界なのに、その導関数がリーマン積分できない関数を作りました[4]。
作り方は を種にして、正の測度を持つスミス・ヴォルテラ・カントール集合の補集合へ縮小コピーを詰めていくものです。
導関数はこの集合の各点で不連続になります。ルベーグの判定法により、不連続点の集合が正の測度を持てばリーマン積分はできない。
第二基本定理が の積分可能性を仮定に置いているのは、この種の例があるからです。原始関数の存在だけでは足りません。
積分できるのに原始関数を持たない関数
さきほどの階段関数がそれです。積分はできますが、原始関数はありません。
ダルブーの定理により、導関数は中間値の性質を持ちます。 と を値にとる導関数なら、あいだの も値にとらなければならない。
階段関数は と しか値をとらないので、どんな関数の導関数にもなれません。跳ぶ関数は原始関数を持たない、と言いかえられます。
積分できることと原始関数を持つことは、どちらも他方を含みません。2 つの性質が独立だという事実が、定理を 2 つに分けて述べる理由になっています。
に連続性が要る。結論は の微分可能性と 。原始関数の存在を保証する
に積分可能性、 に連続性と が要る。結論は積分値が両端の差になること
より広い積分での言いかえ
リーマン積分の枠を出ると、仮定の形が変わります。ルベーグ積分では、 が可積分なら はほとんどいたるところ微分可能で、そこで になる[5]。
第二定理のほうは、 に絶対連続性を課す形になります。連続なだけでは足りず、カントール関数が反例です。
カントール関数は連続で単調、ほとんどいたるところ導関数が です。それでも から まで値が だけ増えるので、 となる。
ヘンストック・クルツヴァイル積分まで広げると、余計な仮定なしで両方の主張が書けます。微分可能でありさえすれば導関数は積分可能になり、第二定理がそのまま成り立つ。
誰が最初に見つけたか
グレゴリーが初等的な形の主張と証明を最初に発表し、バローがより一般の形を示しました[1]。
ニュートンが理論として仕上げ、ライプニッツが無限小の計算体系にまとめて、いまも使う記号を導入します。 の記号もライプニッツによるものです。
面積を求める問題と接線を引く問題は、もともと別々に研究されていました。この 2 つが逆の操作だと分かった時点で、個別の工夫が 1 本の手続きに置きかわった。
を求めるとどうなりますか。
よくある誤り
どちらの定理を使っているのかを毎回確かめる。仮定の違いを押さえておけば、反例が出てくる場面でも迷いません。
参考文献
[1] が 2 つの定理の主張と仮定、歴史、反例の全体、[2] がドイツ語での定式化と平均値の定理による証明、[3] が積分の平均値の定理、[4] がヴォルテラの関数、[5] がルベーグ積分と絶対連続性への一般化です。











上端が x3 なので、第一基本定理に合成関数の微分が重なります。被積分関数の t に x3 を入れて 1+x121、それに上端の微分 3x2 を掛けた形です。