収束しない数列にも極限をつける(上極限と下極限、lim sup と lim inf)
に極限はありません。それでも上極限は 、下極限は と決まります。
番目より先だけを見て上限と下限をとり、 を進めながらその値を追いかける。これだけで、収束しない数列にも つの値が付きます[1]。
先頭を切り落としていく
と置きます。 を 増やすと が候補から外れるので、上限は下がるか、そのままです。
つまり は単調に減っていく数列。有界なら下に押さえられているので、必ず収束します。
のほうは逆に単調に増えます。こちらも必ず収束する[2]。
赤い線が 、青い線が です。 と の 本の点線へ、上下から寄っていきます。
定義
有界数列 に対して、 の極限を上極限、 の極限を下極限といいます。
は単調減少なので極限は下限に一致し、 は単調増加なので極限は上限に一致する。だから と の形にも書けます[1]。
以降の上限を下げていった先。数列が最終的にどこまで上がりうるかの限界
以降の下限を上げていった先。数列が最終的にどこまで下がりうるかの限界
極限と違って、有界でありさえすれば必ず存在します。ここが上極限を使う最大の理由になります。
問題 1:交代する数列
の上極限と下極限を求めよ。
解答 1
どの 以降にも と の両方が現れます。上限はいつも 、下限はいつも です。
つが食い違うので、この数列は収束しません。
問題 2:振動しながら収束する
の上極限と下極限を求めよ。
解答 2
以降の上限は偶数番目の最初の項で、 か 。下限も同じ大きさで符号が逆です。
どちらも に行くので 。 つが一致したので、この数列は に収束します。
問題 3:交代しながら振幅が縮む
の上極限と下極限を求めよ。
解答 3
偶数番目は で上から に、奇数番目は で下から に近づきます。
、。図に描いた数列がこの形です。
各項は ですが、上極限はちょうど 。上極限は「到達する値」ではなく「最終的な限界」を測ります。
問題 4:三角関数
の上極限と下極限を求めよ。
解答 4
項で一周します。値は 、、、、、 の繰り返し。
どの 以降にも全部の値が現れるので、、 です。
周期数列では、 周期に現れる値の最大と最小がそのまま答えになります。
問題 5:非有界の場合
の上極限と下極限を求めよ。
解答 5
どの 以降にもいくらでも大きい偶数番目の項があるので、上限はつねに です。
拡大実数 の中で考えると、どんな数列にも上極限と下極限が定まります。
収束との関係
上極限と下極限を使う最大の理由がここにあります[1]。
数列が収束するための必要十分条件は、上極限と下極限が一致することです。
極限値を知らなくても、 つの値を計算して比べるだけで収束を判定できる。
上と下が食い違えば、数列は つの高さのあいだを行き来し続けます。 つの値に落ち着けません。
で、両端が同じ値へ行くなら、はさみうちの原理がそのまま働きます。
部分列の極限として読む
もう つの見方があります。部分列の極限としてありうる値を全部集めた集合を とすると、次が成り立ちます[1]。
有界ならボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理から は空になりません。最大と最小が実際にとれるところが要点です。

問題 6:部分列の極限を数え上げる
の上極限と下極限を求めよ。
解答 6
は 、、、 の繰り返しです。 は へ消えます。
部分列の極限として現れるのは 、、 の つ。その最大と最小をとります。
不等式
つねに成り立つ順序関係があります。
和については片側の不等式だけが成り立ちます[1]。
下極限のほうは向きが逆で、 になります。
問題 7:和の等号が崩れる例
、 について、和の不等式が等号にならないことを確かめよ。
解答 7
なので、左辺は です。
右辺は 。 で、確かに等号になりません。
原因は、上限をとる場所が両者でずれていること。 が をとるとき は をとります。
問題 8:積では不等式さえ崩れる
、 について、 と を比べよ。
解答 8
は と 、 は と を交互にとり、積はつねに です。左辺は 。
右辺は 。ここでも大きく開きます。
積の場合、両方が非負でなければ不等式の向きさえ保証されません。和の不等式をそのまま流用しないところです。
収束半径への応用
上極限がいちばん働くのはべき級数です。 の収束半径 は次の式で決まります。
コーシー・アダマールの公式といいます[3]。通常の極限 は存在しないことがある。上極限なら必ず存在するので、どんなべき級数にも当てはまります。
なら は絶対収束し、 なら発散する。
比判定法が使う は存在しないことがある。根判定法は上極限で書けるぶん、当てはまる場面が広い。
問題 9:比では判定できない級数
( が偶数)、( が奇数)とする。 の収束を判定せよ。
解答 9
比を見ると、 が偶数から奇数へ移るときと奇数から偶数へ移るときで値が跳ねます。 は存在しません。
根のほうは落ち着いています。 は と を交互にとる。
絶対収束します。同じ係数のべき級数 なら、収束半径は です。
問題 10:収束半径を出す
で のとき、収束半径を求めよ。
解答 10
は と を交互にとります。 は と で、どちらも に近づく。
したがって となり、 です。
係数が振動していても、 乗根をとると差が消えます。振動の幅が有界なら収束半径には効きません。









