上極限と下極限(lim sup と lim inf)
数列の極限を考えるとき、収束しない数列には通常の意味での極限値が存在しません。しかし、どんな有界数列にも「上側からの極限」と「下側からの極限」を定義することができます。これが上極限(lim sup)と下極限(lim inf)です。
振動する数列の極限
数列 を考えます。この数列は と振動し、通常の意味では収束しません。しかし、偶数番目の項だけを見れば に、奇数番目の項だけを見れば に近づいています。
このように、数列全体としては収束しなくても、部分列を取れば何らかの値に収束する場合があります。上極限と下極限は、こうした「部分列の極限としてありうる値」の中で最大のものと最小のものを捉える概念です。
上極限・下極限の定義
有界数列 に対して、上極限と下極限を次のように定義します。
まず、各 に対して
とおきます。 は「 番目以降の項の上限」、 は「 番目以降の項の下限」です。
の極限。 以降の項の上限を順に絞り込んでいった先の値。
の極限。 以降の項の下限を順に押し上げていった先の値。
すなわち、
と書けます。 は単調非増加、 は単調非減少なので、有界数列に対してこれらの極限は必ず存在します。
直感的な理解
がどのように振る舞うかを見てみます。 を大きくするにつれて「これ以降の項の上限」は狭まっていく(少なくとも広がることはない)ので、 は単調に減少していきます。
(全体の上限)
( を除いた上限)
(先頭を切り落とすほど上限が下がる)
(最終的に落ち着く値)
この「先頭を切り落としていく」操作は、数列の初期の振る舞いを無視して、十分先の項だけに注目する効果があります。上極限は「数列が最終的にどこまで上がりうるか」の限界値を与えているわけです。
具体例
いくつかの数列で上極限と下極限を計算してみます。
例 1:
偶数番目の部分列は で上限は常に 、奇数番目の部分列は で下限は常に です。 以降の項にはどちらも含まれるので、
となります。
例 2:
この数列は と振動しながら に近づきます。 以降の項の上限も下限も に収束するので、
です。上極限と下極限が一致しているので、この数列は通常の意味でも に収束しています。
例 3:
は周期的ではありませんが、 が整数全体を動くとき、 の中で稠密に分布することが知られています。したがって、
となります。
収束との関係
上極限と下極限の最も重要な性質は、数列の収束と直結している点です。
有界数列 が収束するための必要十分条件は、上極限と下極限が一致することです。
ならば 。逆もまた成り立つ。
これは直感的にも自然です。上極限と下極限が異なるということは、数列が最終的に 2 つの異なる高さの間を行き来し続けることを意味し、1 つの値に落ち着くことができません。
部分列の極限との関係
上極限・下極限は、部分列の極限を通じて別の特徴づけを持ちます。
有界数列 の部分列の極限値全体の集合を とすると、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理により は空でなく、
が成り立ちます。つまり、上極限は「部分列の極限として到達できる最大値」であり、下極限は「部分列の極限として到達できる最小値」です。
先ほどの の例では、部分列の極限値として と の 2 つがあり、 が (上極限)、 が (下極限)になっています。
基本的な不等式
任意の有界数列 に対して、次の不等式が常に成り立ちます。
下限 下極限 上極限 上限という順序関係です。また、2 つの有界数列 , に対して、
が成り立ちます。等号は一般には成立しません。, とすると ですが、 となり、厳密な不等式になっています。
級数の収束判定への応用
上極限は級数の収束判定にも使われます。べき級数 の収束半径 は、コーシー・アダマールの公式
で与えられます。通常の極限 が存在しない場合でも、上極限は必ず存在するため、この公式はあらゆるべき級数に適用できます。
ならば は絶対収束する。 ならば発散する。
比判定法で使う が存在しない場合でも、根判定法は を使うため適用できる場面がある。根判定法のほうが一般的に強力とされる。
たとえば ( が偶数)、( が奇数)のような数列では の極限が存在しませんが、 なので絶対収束が示せます。
非有界数列への拡張
ここまで有界数列を前提にしてきましたが、非有界数列にも上極限・下極限を拡張できます。 がすべての で成り立つ場合、 と定めます。同様に がすべての で成り立てば です。
この拡張により、拡大実数 の中で、任意の数列に対して上極限と下極限が定義されます。
数列 の上極限 はいくつですか?
n が偶数のとき an=2+n1→2、n が奇数のとき an=n1→0 です。部分列の極限として 2 と 0 があり、上極限はその最大値 2 です。