足す順を変えると答えが変わる?二重級数とトネリの定理
同じ数の表を、行から先に足すか列から先に足すかで、答えが と に分かれることがあります。
対角線に 、その つ右に 、あとは という表がその例です。有限の表なら足す順は関係ありませんが、無限になると変わる。
順序を入れ替えてよい条件は、絶対値の和が有限かどうかで決まります[3]。
順序で答えが変わる表
次のように置きます。

行を先に足すと、どの でも です。それを全部足しても 。
列を先に足すと様子が変わります。 の列には しかなく、和は 。 の列は と が つずつで です。
各行で と が打ち消し合い、合計は
最初の列だけ の相手がいない。合計は
最初の列の には打ち消す相手がいません。無限に先送りされた が、どこにも着地しないまま消えています。
絶対値の和を先に見る
この表では が発散します。絶対収束していないことが、順序で答えが変わった原因です。
判定の手順は 段になります。まず絶対値の表で和が有限かを確かめ、有限なら元の表で順序を入れ替える。
の二重級数を作る
非負なので順序を気にせず和を出す
有限なら元の級数も順序交換してよい
段目で順序を気にしなくてよいのは、非負の表なら足す順で値が変わらないからです。
非負なら自由
非負の二重級数では、部分和が単調に増えます。上限として極限が一意に決まるので、足す順が結果に効きません。
両辺が同時に有限になるか、同時に になります。片方だけ収束することはない。
測度論の言葉ではトネリの定理と呼びます。数え上げ測度のもとで積分が級数にあたるので、二重級数は二重積分の離散版です。
絶対収束なら自由
符号が混ざる場合は、絶対値の和が有限であることを条件にします。
こちらがフビニの定理です[2]。実際の運用では、トネリで絶対値の和を確かめてからフビニを使う、という順で回します。
非負なら無条件で順序交換してよい。値が でもかまわない
符号が混ざる場合。絶対値の和が有限であることが条件になる
問題 1:非負の表を計算する
を求めよ。
解答 1
すべての項が非負なので、順序を気にせず内側から計算できます。
外側も同じ形になり、 です。
変数が分離できる表では、二重級数が つの級数の積になります。 の形です。
問題 2:和と積分を交換する
を、積分表示を経由して求めよ。
解答 2
ベータ積分から が出ます。逆に読めば各項の積分表示です。
被積分関数が非負なのでトネリの定理から と を交換できます。
部分分数分解でも出ますが、幾何級数に持ち込むほうが式が短く済みます。
問題 3:順序交換してよいか判定する
について、順序交換が保証されるか。
解答 3
絶対値をとると です。 となる組は 個あります。
一般項が へ行くので発散します。絶対収束しないため、フビニの定理の条件を満たしません。
順序交換の正当性は保証されない。実際に交換できるかどうかは、この判定だけでは決まりません。
問題 4:絶対収束を確かめる
の順序交換が許されるかを判定せよ。
解答 4
です。格子点の和を、第 象限の積分で見積もります。
原点からの距離を とすると被積分関数は で、面積要素が です。
対数で発散します。 が 増えるごとに格子点の数が に比例して増え、各項の をちょうど打ち消すためです。
絶対収束しないので、この表でも順序交換は保証されません。行ごとの和は収束するのに、それを足すと発散する形です。
コーシー積
つの級数の積を、添字の和でまとめたものをコーシー積といいます。
と がともに絶対収束すれば、 も絶対収束して、値は つの和の積になります[3]。
コーシー積は、二重級数 を 対角線ごとに集約 したものです。
絶対収束の仮定が、縦横に足すことと斜めに足すことの一致を保証している。
べき級数の積が収束円の内部で成り立つのも、べき級数が収束円内で絶対収束するためです。
問題 5:コーシー積を計算する
の自分自身とのコーシー積を求めよ。ただし とする。
解答 5
、 なので、積は です。 が から まで動くので項数は 個。
したがって です。
と一致します。 で絶対収束するので、コーシー積の定理が使えました。
無条件収束
絶対収束する二重級数には、もう 段強い性質があります。 の元をどんな順に並べて 列の級数にしても、同じ値に収束します[1]。
並べ替えで値が変わりうる。リーマンの再配列定理により、任意の値に並べ替えられる。
並べ替えによらず同じ値になる。行と列の入れ替えも対角線でのまとめ方も、すべて同じ結果を返す。
変数の級数で起きる並べ替えの問題が、 次元では順序交換の問題として現れます。同じ現象の別の顔です。
非負の二重級数について正しいのはどれですか。
- 順序交換してよい。両辺が同時に有限か、同時に無限になる
- 収束する場合に限り順序交換してよい
- 絶対収束を別に確かめる必要がある
絶対値の表で和が有限かを見る。それだけが判定で、あとは自由に足せます。









非負なら絶対値をとっても変わらないので、絶対収束の確認は要りません。部分和が単調増加するため上限として値が一意に決まり、+∞ になる場合も両辺で一致します。