ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理

有界な数列は、どんなに複雑に振動していても、必ずどこかに収束する部分列を含んでいます。これがボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理であり、実数の解析学を支える最も基本的な定理の一つです。

部分列とは何か

数列 の部分列とは、添字を増加列 で間引いて得られる数列 のことです。もとの数列の項の順序を保ったまま、一部の項だけを取り出した数列と考えればよいでしょう。

たとえば数列 から偶数番目の項だけを取り出すと

となり、これは に収束する部分列です。奇数番目を取り出せば に収束する部分列が得られます。もとの数列は収束しませんが、うまく項を選べば収束する部分列を見つけることができるわけです。

定理の主張

ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理: 実数の有界数列は、収束する部分列を持つ。

主張自体は簡潔ですが、「有界」と「実数」の 2 つの条件がどちらも本質的に効いています。有界でなければ部分列も発散しうるし、有理数の範囲では部分列の極限が空間の外に出てしまう可能性があります。

証明:区間の二分法

最も古典的な証明は、閉区間を繰り返し二等分していく方法です。

を有界数列とします。ある に対して が全ての で成り立つとします。

構成の手順

とおき、この区間を二等分して に分けます。少なくとも一方の区間には の項が無限に含まれています(もし両方とも有限個しか含まなければ、全体も有限個になって矛盾します)。項が無限に含まれる方を とします。

を再び二等分し、項が無限に含まれる方を とします。この操作を繰り返すと、閉区間の列

が得られます。

(長さ

二等分して項が無限にある方を選ぶ

の長さは

区間縮小法の原理により交点が 1 点に定まる

は長さ の閉区間で、長さは に収束します。区間縮小法の原理から、 はちょうど 1 点 からなります。

部分列の構成

には の項が無限に入っているので、 から となる項 を 1 つ選ぶことができます。こうして得られた部分列 は、 かつ の長さが に収束するので、 が成り立ちます。

証明の本質

この証明で使われているのは「区間縮小法の原理」であり、これは実数の連続性(完備性)に他なりません。証明の構造を整理すると、次のようになります。

有界性の役割

数列全体を収める有限区間 の存在を保証する。二分法のスタート地点を与える。

無限個の項がある区間を選ぶ操作

鳩ノ巣論理(有限個 + 有限個 = 有限個なので、無限個ある側が必ず存在する)を繰り返し適用している。

区間縮小法の原理

実数の完備性を利用して、縮小する閉区間列の交点の存在を保証する。有理数ではこの原理が成り立たない。

有理数体 でこの定理が成り立たないことを確認してみます。 の十進展開を途中で打ち切った有理数の列

に含まれる有界な有理数列ですが、どの収束部分列を取っても極限は になります。 の中に収束先がないわけです。

集積点との関係

ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理は、集積点の言葉で述べることもできます。

数列 の集積点(cluster point)とは、 のある部分列の極限となる値のことです。定理の主張は「有界数列は少なくとも 1 つの集積点を持つ」と言い換えられます。

集積点全体の集合を とすると、前の記事で扱った上極限・下極限は に対応しています。ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理は、 が空でないことを保証する定理です。

有界数列には必ず部分列の極限が存在し、上極限・下極限が定義できることの根拠。

収束する数列の場合は集積点が 1 つだけであり、上極限と下極限が一致します。振動する数列ほど集積点が多く存在します。

応用:有界閉集合上の連続関数の最大値

ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理は、解析学の多くの基本定理の証明に使われます。代表的な応用として、最大値の定理(ワイエルシュトラスの定理)を見てみます。

定理: 有界閉区間 上の連続関数 は最大値と最小値を持つ。

証明の概略: 上で有界であることがまず示せます(背理法で、有界でなければ となる点列 が取れますが、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理で収束部分列を取ると連続性に矛盾します)。

次に とおくと、 となる点列 が存在します。ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理により、 は収束部分列 を持ちます。 の連続性から となり、 で最大値を達成します。

応用:一様連続性の証明

もう一つの重要な応用として、閉区間上の連続関数が一様連続であること(ハイネ・カントルの定理)の証明があります。

この証明でも背理法を用い、一様連続でないと仮定すると矛盾する点列が得られ、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理で部分列を取ると連続性に矛盾する、という流れになります。

最大値の定理

が上限に近づく列」→ 部分列を取って極限で最大値を実現

ハイネ・カントルの定理

「一様連続でないことを示す列」→ 部分列を取って連続性と矛盾

どちらの証明でも「有界列から収束部分列を取り出す」というステップが本質的に使われています。

への一般化

ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理は にも一般化できます。 の有界点列は収束する部分列を持ちます。

証明は の場合を各成分に順番に適用する方法が標準的です。まず第 1 成分に対して収束部分列を取り、その部分列に対して第 2 成分の収束部分列を取り、と繰り返します。 回の操作で全成分が収束する部分列が得られます。

この一般化により、 の有界閉集合(コンパクト集合)上で連続関数が最大値・最小値を持つことが同様に証明できます。さらに一般の距離空間では、「コンパクト」であることと「点列コンパクト(任意の点列が収束部分列を持つ)」であることが同値になり、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理はコンパクト性の特徴づけの一つと見なせます。

数列 について正しいものはどれですか?

  • 収束する
  • 発散するが、収束する部分列を持つ
  • 収束する部分列を持たない
  • 有界でない
__RESULT__

なので有界であり、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理から収束する部分列が存在します。ただし数列全体としては収束しません。