項別微分と項別積分|交換できる条件と反例・証明
無限和で定義された関数を微分したり積分したりするとき、 と 、 と の順序を入れ替えてよいかが問題になります。
どちらも無条件には成り立ちません。以下では、この交換を保証する定理を証明し、仮定のどれが効いているのかを反例で確かめます。
有限和なら常に交換できる
有限個の和なら、微分も積分も線形なので順序は自由に入れ替えられます。
無限和はこの式の の極限です。つまり問題は、 と積分の交換ではなく、2 つの極限の交換に置き換わります。
ここで は部分和です。極限の順序を入れ替えてよいか、という形にすると、何が問題なのかがはっきりします。
級数と関数列は同じ話である
級数の話は、部分和の列 についての話にそのまま置き換わります。逆に、関数列 の話も級数に直せます。
差を項に取れば、部分和がもとの列に戻ります。したがって、どちらか一方で反例を作れば他方の反例にもなります。以下では書きやすいほうの形を使います。
計算例:積分が発散してしまう列
の上で次の列を考えます。
各点での極限を調べます。 を固定すると は指数的に へ行き、 の増大に勝ちます。 なので、極限関数は です。
積分は と置換すれば計算できます。
これは で発散します。極限関数の積分は ですから、交換は完全に壊れています。
となり、 で発散する
極限関数は なので、積分も になる
山はどこにあるのか
なぜこうなるのかは、グラフの形を見れば分かります。 の最大点を求めます。
括弧の中が になるのは のときです。 が大きくなるほど、この位置は原点へ寄っていきます。
そこでの高さはおよそ の速さで増えます。幅が縮む速さより高さが伸びる速さのほうが大きいので、面積が残るどころか発散します。
各点で見れば、どの もいずれ山の外に出るので値は に落ちます。山そのものは消えずに、原点へ逃げながら高くなっているだけです。
<svg viewBox="0 0 460 240" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="70" y1="200" x2="410" y2="200" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="80" y1="40" x2="80" y2="215" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="80,200 110,168 140,150 170,148 200,156 240,172 290,186 340,194 400,199" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="80,200 95,130 110,104 125,102 140,114 170,142 210,168 260,184 320,194 400,199" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="80,200 88,90 96,54 104,48 112,60 128,102 150,142 190,172 250,188 330,196 400,199" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></polyline>
<text x="55" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">山は原点へ寄りながら高くなり、面積が残ったまま逃げていく</text>
<text x="176" y="144" font-size="11" fill="#9a9a9a">n が小さい</text>
<text x="132" y="98" font-size="11" fill="#1b81e0">中くらい</text>
<text x="112" y="44" font-size="11" fill="#d0562a">n が大きい</text>
<text x="55" y="228" font-size="11" fill="#9a9a9a">どの点も、いずれ山の外に出るので値は 0 に落ちる</text>
</svg>計算例:積分が有限のまま食い違う列
壊れ方は発散だけではありません。係数を から に下げます。
各点極限はやはり です。積分は同じ置換で計算できます。
極限は有限の値に落ち着きますが、極限関数の積分である とは一致しません。値が食い違うだけで、発散はしていません。
面積が ぶん残ったまま、山が原点へ逃げていく形です。極限と積分の交換が壊れているという点では、前の例と同じことが起きています。
項別積分の定理
一様収束を仮定すれば、交換は保証されます。
定理。 上のリーマン積分可能な関数列 について、 が 上で一様収束するなら、和も積分可能で次が成り立ちます。
各 に要るのは積分可能性だけで、連続性までは要りません。連続関数列に限って述べている本が多いのは、使う場面がたいていそうだからです。
証明:項別積分
部分和を 、和を と書きます。一様収束する積分可能関数列の極限は積分可能なので、 に意味があります。
差を評価します。積分の絶対値は絶対値の積分で押さえられ、さらに上限で押さえられます。
一様収束とは、右端の上限が で に行くことでした。したがって左辺も に行きます。
証明はこの不等式 1 本です。区間の長さ が有限であることが効いている点だけ、覚えておきます。
計算例:初等関数で書けない積分を級数にする
項別積分がよく効くのは、原始関数が初等関数で書けない場合です。
での値を と定めれば、右辺はこの点も含めて成り立ちます。任意の について では各項が で押さえられ、この和は収束します。
一様収束が言えたので項別積分できます。
左辺は初等関数では表せませんが、右辺は交代級数なので誤差評価つきで計算できます。 で 4 項まで取れば となり、真の値と小数第 4 位まで一致します。
計算例:指数の積分を級数にする
同じ手順を に使います。指数関数の級数に を代入します。
有界区間では各項が で押さえられるので、一様収束します。項別に積分します。
で計算すると になります。原始関数を求める代わりに、項別積分で級数を作るのが標準的な扱いです。
上で が に各点収束するとき、 と言ってよいのはどの場合ですか。
- 各 が連続でありさえすれば、いつでも言える
- 収束が一様であれば言える
- 極限関数 が連続であれば言える
一様収束は必要条件ではない
定理は十分条件を与えているだけで、一様収束しなくても交換が成り立つことはあります。
最大点は で、そこでの値は です。これは に近づくので、上限は に行かず一様収束しません。
ところが積分は に収束します。
各点極限は なので、極限と積分は交換できています。一様収束が崩れたからといって、ただちに交換が壊れるわけではありません。
無限区間では一様収束でも足りない
証明で区間の長さを使ったことが効いてきます。区間が無限に長いと、一様収束していても交換が壊れます。
上限は なので、 は に一様収束します。ところが積分はいつでも です。
極限関数の積分は ですから、交換できていません。高さが に下がるかわりに、裾が の速さで伸びているためです。
有限区間なら で押さえられましたが、 が無限大ではこの評価が働きません。広義積分を項別に扱うときは、別の根拠が要ります。
微分はもっと厳しい
積分は関数の値をならす操作なので、値が近ければ結果も近くなります。微分は逆で、値がいくら近くても傾きが近いとは限りません。
各項は で押さえられるので、この級数は実数全体で一様収束します。ところが項別に微分した級数は次のようになります。
を入れると になり、発散します。項が に行かないので、収束しようがありません。
もとの級数は申し分なく収束しているのに、微分した級数は収束すらしない。これが積分との決定的な違いです。
<svg viewBox="0 0 460 230" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="70" y1="110" x2="410" y2="110" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="70,110 85,86 100,110 115,134 130,110 145,86 160,110 175,134 190,110 205,86 220,110 235,134 250,110 265,86 280,110 295,134 310,110 325,86 340,110 355,134 370,110 385,86 400,110" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<line x1="76" y1="134" x2="94" y2="62" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<line x1="121" y1="158" x2="139" y2="62" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<text x="55" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">振れ幅が小さくても、細かく振動すれば傾きは大きいままになる</text>
<text x="55" y="44" font-size="11" fill="#9a9a9a">値は 0 に一様に近づくのに、導関数は近づかない</text>
<text x="148" y="72" font-size="11" fill="#d0562a">接線の傾き</text>
<text x="404" y="114" font-size="11" fill="#1b81e0">値</text>
</svg>項別微分の定理
そこで、微分される側ではなく微分した側に一様収束を要求します。
定理。 上の関数列 が次の 3 条件を満たすとします。
このとき は 上で収束し、次が成り立ちます。
もとの級数については、収束することすら仮定していません。1 点で収束すれば足りて、残りは導関数の側の仮定から出てきます。
もとの級数 が一様収束すること。微分した級数については何も言わなくてよい。
導関数の級数 が一様収束すること。加えて、1 点だけでもとの級数が収束すること。
証明:項別微分
と置きます。連続関数の一様収束極限なので は連続です。
から まで積分します。 は一様収束しているので、前に示した項別積分の定理が使えます。
右端の級数は収束しています。仮定から も収束するので、 が収束することが従います。ここで初めて、もとの級数の収束が言えました。
が連続なので、微分積分学の基本定理から左辺は微分できて になります。右辺の第 2 項は定数です。
の一様収束
項別積分の定理を使う
微分積分学の基本定理で戻す
項別微分が成り立つ
項別微分が項別積分に帰着します。微分の主張を積分に翻訳して解く、という筋道です。
結論はもう少し強く言える
上の証明では の収束しか言いませんでしたが、実際には一様収束まで言えます。
積分の式に戻ります。部分和との差を取ると、 で押さえられます。 に依存しない量で押さえているので、収束は一様です。
つまり項別微分の定理は、もとの級数の一様収束を仮定せずに結論として出してくれます。仮定と結論の関係が入れ替わっている点が、この定理の面白いところです。
C1 級の仮定は落とせる
3 つの仮定のうち、 級は証明の都合で置いたものです。定理そのものは、各 が微分可能でありさえすれば成り立ちます。
そのときは積分を経由できないので、平均値の定理を使う別の道筋を取ります。差 に平均値の定理を当てると、ある について次の評価が得られます。
右辺は の一様収束から小さくできます。 の収束と合わせると、 が一様コーシー列になり、一様収束が出ます。
導関数が連続でない場合まで含めて成り立つので、定理としてはこちらが強い形です。
残り 2 つの仮定は落とせない
1 点での収束を落とすとどうなるか。 という定数関数の列を取ります。
導関数はすべて なので、 は に一様収束します。ところが はどの点でも発散します。結論の「 が収束する」が崩れています。
の一様収束を落とすと、先ほどの が反例になります。もとの級数は一様収束していますが、導関数の級数は収束しません。
3 つの仮定のうち、外せるのは 級だけです。
項別微分の定理で、一様収束が要求されるのはどちらの級数ですか。
- もとの級数
- 導関数の級数
- 両方とも
仮定は、導関数の級数の一様収束と、1 点での の収束です。もとの級数の一様収束は仮定ではなく、結論として導かれます。
繰り返し項別微分する
階の導関数についても、同じ定理を繰り返せば済みます。
各 について が一様収束するなら、和は何回でも項別微分できて、 級になります。1 回ごとに定理を当て直すだけです。
ただし、1 回目が通ったからといって 2 回目が通る保証はありません。回数ごとに条件を確かめる必要があります。あとの計算例でその境目を見ます。
べき級数は内部でつねに通る
べき級数 の収束半径を とすると、 を満たす任意の の上で一様収束します。
収束円の内部を丸ごと取ると一様収束するとは限りませんが、内部の閉区間ごとに一様収束します。この形の収束を広義一様収束といいます。
項別微分も項別積分も、閉区間ごとに条件を確かめれば十分です。だからべき級数は収束円の内部で、何回でも項別微分・項別積分ができます。
収束円の内部の各点は、必ずどれかの閉区間に入ります。だから広義一様収束さえあれば、微分や積分のような局所的な操作には困りません。
の形の区間。1 点ごとに を選び直してよい。
証明:微分しても収束半径は変わらない
項別微分した級数 の収束半径を調べます。コーシー・アダマールの公式から、収束半径は の逆数で決まります。
なので、上極限は変わりません。
したがって微分した級数の収束半径も です。何回微分しても同じなので、収束円の内部では階数の制限なく項別微分できます。
計算例:係数はテイラー係数になる
収束半径の内部で とします。項別微分を 回繰り返します。
を代入すると、 の項だけが残ります。
つまり です。べき級数で表せる関数は、その展開が自分のテイラー展開に一致します。
同じ関数を 2 通りのべき級数で表すことはできない、という一意性もここから出ます。係数が導関数の値で決まってしまうからです。
端点では別に調べる
広義一様収束が言えるのは収束円の内部だけです。端点では一様収束するとは限らず、項別微分が破れることもあります。
端点で級数が収束している場合に、そこまで等式を延ばしてよいかを扱うのがアーベルの定理です。項別微分の定理とは別の道具なので、混同しないようにします。
フーリエ級数では非対称がはっきりする
三角級数では、項別操作が係数に与える影響がはっきり見えます。
を微分すると で、係数が 倍になります。積分すると で、係数が 倍になります。
したがって項別積分は収束を良くする方向に働き、項別微分は悪くする方向に働きます。フーリエ級数の項別積分がかなり緩い条件で通るのに、項別微分がすぐ壊れるのはこのためです。
計算例:1 回目の項別微分は通る
を微分します。
項別に微分した級数の各項を評価します。
が収束するので、導関数の級数は実数全体で一様収束します。1 点での収束も明らかなので、定理の仮定がそろいます。
計算例:2 回目の項別微分は破れる
もう一度微分しようとすると、次の級数を調べることになります。
各項を上から押さえる定数として取れるのは ですが、 は発散するので、この評価では一様収束を言えません。
実際、 ではこの級数は調和級数そのもので発散します。一様収束しないどころか、その点では収束すらしません。したがって をこの形で書くことはできません。
1 回目が通ったからといって 2 回目が通るわけではない、という例です。階数ごとに条件を確かめる必要があります。
計算例:区間を狭めれば通る
同じ級数でも、原点を避ければ話が変わります。 を取り、区間を に狭めます。
この区間では の部分和が によらない定数で押さえられます。係数 は単調に へ減るので、ディリクレの判定法から は一様収束します。
したがって、この区間に限れば 2 回目の項別微分も正当化されます。
定理が使えないときは、区間を狭めて条件を満たす範囲を探す。べき級数で内部の閉区間を取ったのと同じ発想です。
積分の定義を替えるとどうなるか
ここまでの議論はリーマン積分の枠組みで、一様収束を前提にしてきました。積分の定義そのものを取り替えると、もっと緩い条件で極限と積分を交換できるようになります。
各点収束と、全体を押さえる可積分な関数が 1 つあれば足りる、という形の定理が知られています。ただし枠組みが変わるので、ここでは名前を挙げるにとどめます。
一様収束を要求するのは、リーマン積分の範囲で議論する以上は自然な代償だと考えてください。
確かめる順序
実際に項別操作を使うときは、次の順に確かめます。
積分の場合は、まず区間が有限かを見ます。そのうえで の一様収束を調べ、 判定法などで押さえられれば交換してかまいません。無限区間や広義積分なら、別の根拠が要ります。
微分の場合は、調べる相手が入れ替わります。もとの級数ではなく の一様収束を見て、そのあとで 1 点での収束を確認します。もとの級数の収束は、確かめる対象ではなく得られる結論です。
どちらも通らないときは、区間を狭めて条件を満たす範囲を探します。べき級数の内部や、三角級数で原点を避けた区間がその例です。











各点収束だけでは足りません。n2x(1−x2)n は各項も極限関数も連続ですが、積分は発散します。一様収束を仮定すれば、差の上限で押さえる 1 行の評価で交換できます。