項別微分と項別積分
関数級数 の和として定義された関数を微分したり積分したりするとき、 と や の順序を交換してよいかという問題があります。項別微分と項別積分は、この交換が正当化される条件を与える定理です。
問題の所在
べき級数やフーリエ級数を扱う場面では、無限和で定義された関数の微分や積分を計算する必要が頻繁に生じます。たとえば
の導関数を求めるとき、各項を個別に微分して
と計算するのは自然な発想です。しかし、この操作—— と の交換——は常に許されるわけではありません。
積分についても同様で、
と と を交換してよいかは、関数列の収束の仕方に依存します。
項別積分の定理
項別積分は一様収束の条件のもとで正当化されます。
定理: 上の連続関数列 に対して、 が 上で一様収束するならば、
が成り立つ。
これは「一様収束する関数列の極限と積分は交換できる」という定理を関数級数(部分和の列)に適用したものです。部分和 が に一様収束するので、
という流れです。
項別積分が失敗する例
一様収束しない場合に項別積分が成り立たない例を見てみます。 上で
とおくと、各 で ( の指数的減衰が に勝つ)、 なので、各点極限は です。
ところが積分を計算すると、 と置換して
となります。極限関数の積分は ですが、各項の積分の極限は発散しており、交換が破綻しています。
(発散)
この数列は の近くに鋭いピークが立ち、ピークの高さが際限なく大きくなるために一様収束しません。
項別微分の定理
項別微分は、項別積分よりも条件がやや厳しくなります。
定理: 上の関数列 について、次の 3 条件が満たされるとする。
このとき、 は 上で各点収束し、
が 上で成り立つ。
自体の一様収束を要求する。
(導関数の級数)の一様収束を要求する。加えて一点での収束が必要。
項別微分で「導関数の級数」の一様収束を要求するのは直感的にも理解できます。微分は局所的な変動を捉える操作なので、関数値自体の一様的な近さだけでは傾きの一致が保証されないからです。
証明の概略
項別微分の定理の証明は、項別積分の定理を経由するのが標準的です。
とおきます。仮定から は連続関数の一様収束極限なので連続です。 を から まで積分すると、項別積分の定理( の一様収束が仮定されている)から
は仮定から収束するので、
両辺を で微分すると( が連続なので微分積分学の基本定理が使える)、
が得られます。
の一様収束を仮定
項別積分の定理で
微分積分学の基本定理で両辺を微分
が成立
項別微分の定理が項別積分の定理に帰着されるというのは、解析学の定理間の関係として美しい構造です。
べき級数の場合
べき級数 は収束半径の内部で非常に良い性質を持ちます。収束半径を とすると、 の任意のコンパクト部分集合上で一様収束し、導関数の級数 も同じ収束半径 を持ちます。
したがって、べき級数は収束円の内部で何回でも項別微分・項別積分ができます。
この性質は、べき級数で表される関数(解析的関数)が無限回微分可能であることの根拠です。
べき級数が項別微分で収束半径を保つことは、コーシー・アダマールの公式から確認できます。
なので、微分しても収束半径は変わらない。
ワイエルシュトラスの 判定法との組み合わせ
実際の計算で項別微分・項別積分を適用するときは、一様収束の確認にワイエルシュトラスの 判定法を使うのが定番です。
たとえば の導関数を求めるには、まず
と評価します。 なので 判定法により は一様収束し、項別微分の定理が適用できます。
もう一度微分する場合は の一様収束を確認する必要がありますが、 では なので 判定法は使えません。実際、この級数は の近くで一様収束せず、二度目の項別微分には別の議論が必要です。
級数 について、 を で項別微分により求めると?
- 項別微分できない
dxdn⋅2nxn=2nxn−1 です。収束半径は 2 のまま変わらないので、∣x∣<2 で項別微分が可能です。f′(x)=∑n=1∞2nxn−1=2−x1 となります。