べき級数の収束半径とは?コーシー・アダマールの公式と計算例をわかりやすく解説
べき級数は、多項式を無限次まで延長したもので、関数を無限個の項の和として表す方法です。有限の多項式が変数の冪をいくつか足しただけなのに対し、べき級数は の冪を無限に足し上げます。そのぶん強力ですが、無限和である以上、どの範囲で意味をもつかという収束の問題がつきまといます。その範囲を測るのが収束半径であり、べき級数を扱ううえでの出発点になります。
べき級数の定義
点 を中心とするべき級数とは、次の形の級数です。
数列 を係数と呼びます。 のときは という素直な形になり、以下では主にこの場合を扱います。 を代入すると第 項の だけが残るので、べき級数は中心では必ず収束します。問題は、中心からどれだけ離れても収束するか、です。
収束半径
べき級数の収束する の範囲は、中心 のまわりの区間になります。より正確には、ある非負の実数(または無限大) があって、 では収束し、 では発散します。この を収束半径と呼びます。ちょうど境界 での収束・発散は級数ごとに異なり、個別に調べる必要があります。収束半径は、次の三つの型のいずれかになります。
中心 でしか収束しません。係数が急激に大きくなる級数がこれにあたります。
中心のまわりの幅 の区間で収束します。もっとも典型的な場合です。
すべての実数で収束します。指数関数や三角関数の級数がこれにあたります。
収束半径の公式
収束半径は、係数 の増え方から計算できます。もっとも一般的なのがコーシー・アダマールの公式です。
右辺が なら 、無限大なら と約束します。係数の比が収束する場合には、より計算しやすい比の公式が使えます。
比の公式は使いやすいものの、極限が存在しないと使えません。そうした級数では、後で見るようにコーシー・アダマールの根号の式が必要になります。
基本の三例
まず、三つの型を代表する級数を計算します。等比級数 では なので、比の公式から です。 で収束し、その和は になります。
指数関数の級数 では、 なので 、すべての で収束して和は です。逆に では、 なので 、 でしか収束しません。係数の階乗が分母にあるか分子にあるかで、収束半径が両極端に振れるわけです。
係数に n の冪をつける
係数に の冪をかけても、収束半径は変わりにくいのが特徴です。 では なので 、同じく や も比が に収束するので です。 の多項式をかけ割りしても、比や 乗根の極限が に落ち着くため、収束半径は のまま動きません。
いっぽう が指数に乗ると話が変わります。 は なので 、逆に は なので です。ここでは比よりも、コーシー・アダマールの 乗根のほうが素直に計算できます。
底に定数をつける
冪の底に定数をかけると、収束半径はその定数で割られます。 は の等比級数なので、、つまり で収束し です。逆に は から になります。
定数と の冪が混ざっても、 乗根を取れば定数だけが残ります。 では なので です。 が効いて の因子は収束半径に寄与せず、底の だけが を決めています。
中心が 0 でない例
中心が でなくても、扱いは変わりません。 は中心 のべき級数で、 すなわち で収束し、収束半径は 、収束区間は です。中心のまわりに半径 の区間が広がる、という図がそのまま当てはまります。
なら中心は で、比が から 、収束区間は中心 のまわりの です。収束半径は係数だけで決まり、中心の位置は区間の平行移動として効くだけだ、とわかります。
飛び飛びの冪
冪が飛び飛びに現れる級数では、比の公式がそのままでは使えず、注意が要ります。 は偶数乗だけの級数で、 とみれば 、つまり で収束し です。 は の級数で、偶数乗だけですが 、すべての で収束します。
もっと極端に飛ぶ例もあります。二項係数を係数にもつ は、 から です。冪の指数が平方数のときだけ になる は、 でない係数の 乗根が に近づくので になります。こうした欠けのある級数では、 乗根を使うコーシー・アダマールが安全です。
limsup が必要な例
比の極限が存在しないのに、コーシー・アダマールなら収束半径が求まる、という級数を挙げておきます。係数が二つの値を交互に取る次の級数を考えます。
係数は で、 が偶数なら 、奇数なら と、大きさが激しく振動します。このため比 は と無限大のあいだを行き来し、極限をもちません。比の公式は使えないのです。
ところが 乗根なら落ち着きます。 は と を交互に取り、その上極限は です。したがって と確定します。コーシー・アダマールが「」ではなく「」で書かれているのは、まさにこういう振動する係数に対応するためです。
端点での収束・発散
収束半径の内側では収束、外側では発散とわかっても、ちょうど端 での様子は級数ごとに違います。 の三つの級数で、端点 を調べてみます。
は、 で調和級数 となって発散し、 で交代級数 となって収束します。 は、 の 級数なので でも でも収束します。逆に は、 で の 級数となって発散し、 では交代級数となって収束します。同じ収束半径 でも、端点での顔つきはこれほど違うわけです。
アーベルの定理
端点でべき級数が収束するとき、その和が端点まで連続につながることを保証するのが、アーベルの定理です。べき級数 が で収束するなら、 を に左から近づけた極限と、 での級数の和が一致します。これにより、開区間で成り立つ等式を端点までもち込めます。
たとえば は で成り立ちますが、 でも右辺の交代級数は収束します。アーベルの定理から両辺の の極限を取ってよく、次の有名な和が得られます。
同じように の から、ライプニッツの級数 が従います。収束半径の内側で導いた展開が、端点の値の計算にそのまま使えるのです。
項別微分・積分
収束半径の内側 では、べき級数は多項式とまったく同じように、項ごとに微分・積分できます。
しかも、微分しても積分しても収束半径 は変わりません。たとえば等比級数 を項別に微分すると、次の展開がただちに得られます。
収束の一様性
項別に微分・積分してよい根拠が、一様収束です。収束半径 の内側であっても、開区間 の全体で一様収束するとは限りませんが、 を満たす閉区間 の上では、つねに一様収束します。理由はワイエルシュトラスの 判定法で、 では と押さえられ、 が収束するからです。
一様収束のもとでは、無限和と微分・積分の順序を入れ替えてよいことが保証されます。だからこそ前節の項別微分・項別積分が正当化されるのです。収束半径の内側ぎりぎりまでではなく、内側の各閉区間で一様収束する、という言い回しが、この理論の要になります。
微積分で新しい級数を作る
項別の微積分を使うと、既知の級数から新しい展開を次々に作れます。等比級数の変数を に取り替えると、次の級数が出ます。
この両辺を から まで積分すると、左辺は になり、逆正接関数の展開が得られます。
同じように を積分すれば が得られます。微分方程式を解いたり積分を直接計算したりする代わりに、級数を項別にいじるだけで関数の展開が手に入るわけです。
代表的な関数の展開
よく使う関数のべき級数展開を、収束半径とあわせて並べておきます。
指数・三角関数は収束半径が無限大で全実数で成り立ち、対数・逆正接・二項級数は で単位区間に限られます。この違いは、後で見るように、複素平面上での特異点の有無に由来します。
二項級数の詳しい計算
最後の二項級数を、もう少し詳しく見ます。指数 が正の整数でないとき、 の展開は無限級数になり、その係数は一般化された二項係数です。
分子は から始めて ずつ減らしながら 個かける形です。収束半径は から です。具体的に を入れると、平方根の展開になります。
なら となり、 という等比級数に戻ります。 では となり、中心二項係数がふたたび顔を出します。整数の二項定理が、指数を実数へ広げてもそのまま生き続けているのが見どころです。
べき級数の演算
収束域が重なる範囲では、べき級数どうしを多項式のように足したり掛けたりできます。和は係数ごとの足し算です。
積は、各次数に寄与する項をすべて集めたコーシー積になります。
例として を二乗してみます。コーシー積の係数は となり、次のようにまとまります。
指数法則 が、級数の掛け算からも再現されるわけです。
級数で和を求める
関数の展開を逆に使うと、数の級数の和を求められます。項別微分で作った に を代入すると、 です。ここから定数項の和 を引くと、次の値が切り出せます。
対数の展開 に を入れれば、 も同様に求まります。関数のべき級数は、こうして無限和の値を閉じた形で取り出す道具にもなります。
解析関数
収束するべき級数で表せる関数を、解析関数といいます。、、、 など、これまで扱った関数はすべて解析関数です。解析関数は無限回微分でき、その関数自身のテイラー展開とちょうど一致します。ところが、無限回微分できることと解析的であることは、同じではありません。
各点のまわりでべき級数に展開でき、その級数がもとの関数に収束します。テイラー展開が関数を復元します。
何回でも微分はできますが、テイラー展開が関数に収束するとは限りません。 が代表例です。
反例の ( では )は、原点で何回でも微分できて、すべての導関数が になります。したがって原点でのテイラー展開はすべての係数が 、つまり恒等的に の級数ですが、 自身は でないので両者は一致しません。無限回微分可能なのに解析的でない、という微妙な例です。
理解の確認
の収束半径はいくつでしょうか。
- 。すべての で収束する
- 。多くのべき級数と同じく単位区間で収束する
- 。 でしか収束しない
複素数への拡張と特異点までの距離
べき級数は、変数を複素数にしてもそのまま定義でき、収束する範囲は複素平面上の円板 になります。実数の区間だったものが複素数では文字どおり半径 の円板になり、収束半径という名前の由来もここにあります。
この複素の視点は、実数のままでは不思議に見えた事実を説明します。 は実数直線上ではどこでもなめらかで、特異な点は見当たりません。それなのに を中心とする展開の収束半径は にとどまります。理由は複素平面を見ればわかります。 は で分母が になって発散する、すなわち特異点をもつのです。この特異点は原点から距離 にあり、収束半径はちょうどその距離に一致します。一般に、収束半径は中心からもっとも近い特異点までの距離に等しく、 が全平面で特異点をもたないから 、 が に特異点をもつから 、というように、円板の大きさは特異点の位置で決まります。実数の収束半径の秘密は、複素平面に上がって初めて見えてくるのです。











比の公式で cn+1cn=(n+1)!n!=n+11→0 なので、収束半径は R=0 です。係数 n! の増え方が速すぎて、x=0 ではどんなに小さな x でも項が発散してしまい、中心の一点でしか収束しません。階乗が分子にある級数の特徴です。