「閉集合が尽きない」と言いかえる有限交叉性とコンパクト性
コンパクト性の定義は、開被覆から有限部分被覆をとる形で書かれます。これを補集合に置きかえると、閉集合だけの言葉になる[1]。
有限個をとるかぎり交わりが空にならない閉集合の族は、全部集めても交わりが空にならない。これがコンパクト性の言いかえです。
有限交叉性
集合の族 が有限交叉性を持つとは、有限個をどう選んでも交わりが空でないことです[1,4]。
全体の交わりが空でないことは要求しません。そこが要点です。
の部分集合 を考えます。有限個の交わりはいちばん大きい のぶんが残るので空でない。ところが全部の交わりは空です[4]。
2 つずつでは足りない
有限交叉性は、 つずつの交わりだけでは決まりません[1]。
、、 の つをとる。どの つも交わるのに、 つ全部の交わりは空です。
「有限個をどう選んでも」の「どう選んでも」が効いている。 個以上の組も全部見る必要があります。

コンパクト性の言いかえ
証明は補集合をとるだけで済みます。 を閉集合の族とし、 とおく。
の全交わりが空であることと、 が を覆うことは、ド・モルガンの法則で言いかえられます。
の有限交わりが空でないことと、 の有限部分族が を覆わないことも同じ関係です。
つまり「有限部分被覆がない開被覆」と「有限交叉性を持つが全交わりが空な閉集合族」は、たがいの補集合になっています。片方がなければ、もう片方もない。
例:カントールの区間縮小法
コンパクト空間で、空でない閉集合の減少列 をとります[1,3]。
有限個を選べば、いちばん番号の大きいものがそのまま交わりになる。空でないので、有限交叉性を持ちます。
したがって全体の交わりも空ではありません。区間縮小法の定理が、この形で出ます。
が縮んでいく閉区間の列なら、共通点が必ず残る。実数の完備性から示す証明が普通ですが、コンパクト性からも同じ結論になります。
上段の閉区間はどれだけ縮んでも端点を持ったままで、まん中の点が残ります。下段の開区間は左端が入っていないので、縮みきると行き先がない。
閉集合が減っていく列をとる
有限個の交わりは、いちばん小さいものそのもの
コンパクトなら、全部の交わりも空でない
開いていると崩れる
同じ議論を開集合でやると失敗します。 は減少列で、どの有限個の交わりも空でない。
それでも全部の交わりは空です。 が入っていないので、どの点も残らない。
閉であることが効いている、と分かります。定理が閉集合について述べられているのは、この事情によります。
コンパクトでないと崩れる
で をとります。どれも閉集合で、減少列。
有限個の交わりはいちばん大きい のぶんが残るので、空になりません。ところが全部の交わりは空です。
がコンパクトでないためです。有限交叉性を持つ閉集合族で、全交わりが空になるものが作れてしまう。
有限交叉性を持てば、全体の交わりも空でない。閉集合が尽きない
有限交叉性を持ちながら、全体の交わりが空になる族がある
例:フレシェフィルター
無限集合 の補有限部分集合を全部集めたものを、フレシェフィルターといいます[1]。
有限個の交わりは、有限個を除いた残りなので空になりません。有限交叉性を持ちます。
ところが全体の交わりは空です。どの点 も、 に入っていないので落ちます。
コンパクトでない空間の上で、有限交叉性が全体へ届かない典型例になります。
フィルターへ広げる
有限交叉性を持つ族は、フィルターの土台になります[4]。
有限交わりを全部足し、それを含む集合も足すと、フィルターができる。空集合が入らないのは、有限交叉性のおかげです。
さらにツォルンの補題を使えば、極大なフィルターに広げられます。これを超フィルターと呼ぶ。
超フィルターを使うと、コンパクト性がもう 度言いかえられます。どの超フィルターも収束するとき、そしてそのときにかぎりコンパクト[4]。
チホノフの定理への道
超フィルターによる特徴づけは、チホノフの定理の証明で効きます[4]。
積空間の超フィルターを各座標へ落とすと、そこでも超フィルターになる。成分がコンパクトなら、それぞれ収束先を持ちます。
座標ごとの収束先を集めた点へ、もとの超フィルターが収束する。積がコンパクトだと言えました。
被覆を直接あつかう証明より、はるかに短い。有限交叉性から始まる道具立てが、ここで報われます。
超フィルターの存在にはツォルンの補題が要ります。チホノフの定理は選択公理と同値であることが知られている。
ハウスドルフ空間にかぎった形なら、より弱い超フィルター補題と同値になる。
例:完全なコンパクトハウスドルフ空間は非可算
孤立点を持たない空でないコンパクトハウスドルフ空間は、非可算になります[1]。
可算だとして と並べます。空でない開集合を、閉包が入れ子で、 番目が を避けるようにとっていく。
閉包の族は有限交叉性を持つので、交わりに点が残ります。その点はどの とも違う。
並べ切れていなかったことになり、矛盾です。区間縮小法の議論を、点の除外に使った形になります。
可算個だけに絞ると
有限交叉性を可算な族にかぎると、弱い条件が出てきます[4]。
可算な開被覆に有限部分被覆があるとき、その空間を可算コンパクトといいます。閉集合の言葉では、可算個の減少列について交わりが空でないこと。
可算コンパクトは、無限部分集合が集積点を持つことと同値になります[4]。ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理が言っていた性質です。
点列コンパクトな空間は可算コンパクトになります。逆は成り立たない。順序数 に順序位相を入れた空間は、点列コンパクトなのにコンパクトではありません[4]。
強い有限交叉性
有限個の交わりが、空でないどころか無限集合になるとき、強い有限交叉性といいます[1]。
包含で全順序になる無限集合の族は、これを持ちます。減少列の交わりは、途中で有限にならないためです。
超フィルターの構成や、独立族の議論で使われます。有限交叉性を一段強めた条件になる。
で とした族について、正しいものはどれですか。
- 有限交叉性を持たない
- 有限交叉性を持つが、全体の交わりは空
- 全体の交わりが空でない
よくある誤り
コンパクト性を開被覆で考えるか、閉集合の交わりで考えるか。証明の見通しは、その選び方でずいぶん変わります。
参考文献
[1] が有限交叉性の定義・同値な特徴づけ・応用例、[2] が閉集合による定式化と区間縮小法、[3] がコンパクト性の同値条件の整理、[4] がフィルターと超フィルターによる証明の詳細です。










有限個をとれば、いちばん大きい n の [n,∞) がそのまま交わりになるので空ではありません。ところが、どの実数もある n より小さいので、全部の交わりは空になります。R がコンパクトでないことの現れです。