円周のまわりを何周したかが群になる……基本群を計算する
円周上のループは、何周したかだけで分類されます[1]。 周と 周のループを続けてたどれば 周。足し算そのものです。
基本群が具体的に計算できる、最初の例になります。証明の道具は実数直線から円周への巻きつけ写像だけ[4]。
ループとホモトピー
位相空間 と基点 をとります。 となる連続写像 をループといいます[1]。
つのループが道ホモトピックであるとは、端点を止めたまま連続に変形できることです。連続写像 で、両端が に固定されたものがあればよい。
ホモトピックであることは同値関係になります。その同値類が、基本群の要素です。
基本群
ループの積を、続けてたどる操作で定めます。前半で を 倍の速さでたどり、後半で をたどる[1]。
この積はループそのものの上では結合律をみたしません。速さの配分が変わるためです。ホモトピー類の上でなら成り立つ。
単位元は定数ループ、逆元は逆向きにたどったループです。こうしてできる群を と書きます。
弧状連結な空間なら、基点をどこにとっても同型になります[2]。基点を結ぶ道で前後をはさめばよい。
例:円周のループ
円周の上でループをいくつか描きます。回った向きと回数だけが違う。

黒い点が基点です。 周のループは点に縮められ、それ以外は縮められません。回数が違えば別の類になる。
実数直線を巻きつける
は被覆写像です。円周上のどの点にも小さい弧をとれば、その逆像が 上の等間隔な開区間に分かれる。
各区間から弧への制限が同相になります。 を螺旋状に巻きつけた、と見るとつかみやすい。
です。この が、そのまま答えの群になります。
道の持ち上げ
被覆写像には持ち上げの性質があります[4]。
円周上の道 と、出発点の逆像 を つ決めると、 をみたす道 がただ つ定まります。
証明は、道を有限個に切って局所同相をつないでいく形です。区間のコンパクト性が効きます。
円周上を 周すると、持ち上げた点が だけ上がります。 周すれば 上がる。この上がり幅が巻き数です。
ホモトピーの持ち上げ
道だけでなく、ホモトピーも持ち上がります[4]。
つの道がホモトピックで出発点が同じなら、持ち上げた道どうしもホモトピックになる。とくに終点が一致します。
ここが証明の要です。ホモトピックなループは同じ巻き数を持つ、と言えるようになる。
巻き数で写す
ループ をとり、 となるように持ち上げます。終点 は に入るので、整数です。
ホモトピーの持ち上げから、この値はホモトピー類だけで決まります。写像 が定まった。
準同型であることは、 つのループの持ち上げをつなぐと見えます。後半の持ち上げを だけずらしてつなげばよい。
同型であること
全射は簡単です。 の持ち上げは で、終点が になります[4]。
単射は、 なら が定数ループにホモトピックだと示す形。持ち上げた は から への 内のループです。
は凸なので、直線的なホモトピーで定数へ縮められます。それを で落とせば、 が定数ループへ縮む。
これで が出ました。
円周上のループをとる
実数直線へ持ち上げる
終点の整数が巻き数
例:円板では自明
は凸なので、どのループも直線的に基点へ縮められます[1]。
は単位元だけの群。可縮な空間はどれもそうなります。
同じ円周でも、平面に埋めこんだ穴の縁として見るか、円板の中の曲線として見るかで結論が変わる。空間そのものが何かで決まります。

円板を縁へ縮められない
から への連続写像で、 の上では動かさないもの。そういうレトラクションは存在しません[1]。
あったとすると、包含 とつないだ合成が恒等写像になります。基本群へ移すと、 の合成が恒等写像になってしまう。
自明群を経由して の恒等写像は作れません。矛盾です。
が関手だという性質だけで、幾何的な主張が出ました。
ブラウワーの不動点定理
が連続で不動点を持たないとする。 から へ向かう半直線が縁と交わる点を とすれば、 は連続です。
が縁の上なら になるので、 はレトラクション。存在しないと示したばかりのものです。
不動点がないという仮定が破れました。
代数学の基本定理
複素係数の多項式が根を持つことも、巻き数で示せます[3]。
が根を持たないとします。半径 の円周の像を見ると、 が大きいとき が支配して巻き数が になる。
を まで縮めると、像は定数 に近づき巻き数は です。連続に動かしているのに、整数値が から へ飛ぶ。
根がないという仮定が崩れます。 なら根が存在する。
ほかの空間の基本群
| 空間 | 基本群 | 理由の目安 |
|---|---|---|
| () | 自明 | ループを避けて縮められる |
| トーラス | の積 | |
| の字 | 階数 の自由群 | 本の輪が可換でない |
| 実射影平面 | の 重被覆 |
トーラスの は、積空間の基本群が積になることから出ます。 の字が非可換になるのは、 つの輪を回る順番が効くためです[2]。
実射影平面では、ループを 周すると縮められるようになります。 周では縮まないのに、 周で自明になる。
から 対 で落ちる被覆になっており、 周が 上のループへ持ち上がるためです。
歴史
ポアンカレが 年の論文「位置解析」で導入しました[3]。空間の形を群に翻訳する、という発想の出発点です。
は、その翻訳が具体的な答えを返した最初の例になります。以後の代数的位相幾何が、この計算を土台に組み上がっていく。
から直ちに出るものはどれですか。
- と が同相でない
- 円板から円周へのレトラクションが存在しない
- 円周上のどの連続写像も不動点を持つ
よくある誤り
回った回数を数える。それだけの操作が群の同型になり、不動点定理や代数学の基本定理まで届きます。
参考文献
[1] が基本群の定義と円周の計算および応用、[2] が基点のとりかえと各空間の具体例、[3] がポアンカレによる導入と応用の整理、[4] が持ち上げの補題と同型の証明の詳細です。











レトラクションがあれば Z→1→Z の合成が恒等写像になり矛盾します。S1 と S2 の区別にも使えますが、そちらは π1(S2) の計算も要ります。円周上の写像には、回転のように不動点を持たないものがあります。